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EUの“ミニ・プーチン”オルバン首相の素顔とは?

2022年6月28日 9:40
EUの“ミニ・プーチン”オルバン首相の素顔とは?
2022年6月23日「深層NEWS」より

ロシアによるウクライナ侵攻から4か月あまり。ロシア制裁などをめぐりEUの結束が問われる中、注目されるハンガリー。6月23日放送のBS日テレ「深層NEWS」では長崎県立大学教授荻野晃さん、筑波大学教授東野篤子さんをゲストにEU加盟国ながらロシア寄りの姿勢をみせ“ミニ・プーチン”と称されるオルバン首相の政治手法に迫りました。

■EUの“反逆児”?ハンガリーとは

右松健太キャスター
「EUの結束を見る上で注目されるハンガリーの立ち位置を見ておきます」

郡司恭子アナウンサー
「ハンガリーはロシアによる軍事侵攻に反対し、当初からロシア制裁に足並みを揃えていました。ただ、エネルギー制裁には強く反発しています。その背景は何でしょうか?」

荻野晃氏
「勃発直後からオルバン政権はウクライナの領土の一体性や主権を尊重すると表明していました。特にウクライナへの武器供与自体は賛成だが、自国はやらないという立場です」

「天然ガス・原油のほとんどを依存しているロシアとの関係に配慮するとともに、ウクライナ西部に15万人いるハンガリー系住民に危害が及ぶということをオルバン首相は懸念しています。あくまでオルバン首相としては戦争の局外に立つ。原油・天然ガスの問題と、ウクライナにいるハンガリー系住民に対してのロシアの攻撃を避けたいという思惑があります」

右松キャスター
「オルバン政権は当事者にはなりたくない?」

東野篤子氏
「オルバン首相の主張としては、『自分はプーチン大統領と話ができる』というところは結構な“売り”だったわけです。例えば、ウクライナ侵攻が始まる前にロシア軍が集積しているところにオルバン首相は出かけていって、『私は“ピース・キーピング・ミッション”、つまり、平和維持活動の一環として見に来たんだ』と。こういったセリフを口にできるのはオルバン首相しかいない。自分はロシアにとって特別な存在であり、あまり安易に西側の制裁に同調する立場でもないんだというところは、アイデンティティーの1つとしてあると思います」

■ハンガリーはウクライナと不仲?

右松キャスター
「ハンガリーは歴史的にロシアやウクライナとはどのような距離感で接してきたんでしょうか?」

荻野氏
「ロシアに対して東の大国であるという認識が強い。かつてソ連の勢力圏に置かれたり、1956年には軍事介入されたりしたのですが、ロシアに対する恨みのようなものはあまり残っていない、最近のオルバン氏とプーチン氏の関係を見て、非常に意外だと思う面もあります」

「元々この戦争が始まる前から実はハンガリーとウクライナの関係というのはそれほど良くなかったのです。少数民族の問題で、教育法がウクライナで改正され、少数民族が教育を受ける権利を侵害しているとオルバン政権は反発していました。これはゼレンスキー大統領が行った法改正ではありませんが、この問題は大統領が変わってからも引きずられていたままこの戦いに至ったと言えます」

右松キャスター
「ウクライナとハンガリーは国境を接している地域があります。ウクライナの南西部に当たるところ、国境地帯にはハンガリー系住民が住んでいるのですか?」

東野氏
「ザカルパッチャ地方は特にハンガリー系住民が多いところです。実はオルバン首相はウクライナの域内に住んでいるハンガリー人に対してもハンガリー国民の一体性ということを名目に相当支援をしていた部分があるのです。例えば、財政支援や、あるときにはザカルパッチャ地方に住んでいるハンガリー人に対して自治権を与えたらどうか、ということをウクライナ政府に対して提案してウクライナ政府が激怒するというようなこともありました」

■“ミニ・プーチン”とも称されるオルバン首相の素顔は?

郡司アナ
「オルバン首相をどのような人物だと見ていますか?」

荻野氏
「元々はリベラル派として政治の世界に入りながら比較的早い時期に保守派に転じています。彼にしてみたら、どのように行動すれば政権を取れ、首相になり、権力を維持できるのか、彼はいつも最優先にそれを考えている人物だと思います。しかしその一方で、彼は自分に反対しない国民とか、あるいはウクライナも含めた近隣諸国のハンガリー系の少数民族、このような人たちを『家族と考えて守るべき存在なんだ』と認識しています」

右松キャスター
「オルバン首相の人物像は国民にどう映っているのでしょうか?」

荻野氏
「1つは強い指導者であるということ、良い意味でも悪い意味でもです。それから例えば、LGBTに対する姿勢を見ていると、カトリックの保守的な価値観を持つ人物と言われています。西欧的なリベラルからしたらちょっと堪えきれないような考え方です」

右松キャスター
「今年4月の選挙ではオルバン首相が圧勝し、通算5期目を務めている政治手腕をどうご覧になっていますか?」

東野氏
「広範な人気があるということが特徴づけられると思います。選挙前にも、オルバン首相はあまりにも親露的・親中的なのではないかということで問題視されましたが、にもかかわらず、圧倒的多数で再選されているということは、あまり外交政策という面では実際に問題視されず、やはり経済政策や様々な国民に対する支援が評価をされた可能性が高いと思います」

■強権振るう?オルバン首相

右松キャスター
「オルバン首相が"ミニ・プーチン"と称される所以は?」

荻野氏
「強引な政治手法といいますか、ハンガリーの国会は1院制で、与党フィデスが3分の2を取っていればどんな法案でも通せる。あるいは中央銀行の独立性を脅かしたり、メディアに対する統制を厳しくしたり。旧共産党系の全国紙は廃刊に追い込まれました」

「最近オルバン首相はセントラル・ヨーロピアン・ユニバーシティーという自分たちにとって都合があまり良くない大学を、ウィーンに退去させるということもありました。ただ、プーチン政権ほど国民に対する締め付けは厳しくないとは思います」

右松キャスター
「オルバン首相とプーチン大統領の人間関係は?」

荻野氏
「例えば2014年ごろ、2期目に入る頃、旧ソ連製の原発がもう2030年代に老朽化して廃炉にしなければいけない代わりに原発をロシアから買うということで首脳会議をし、エネルギー問題で緊密な関係ができました」

「今年の2月、ロシアの軍事侵攻が始まる3週間ほど前ですが、オルバン首相がモスクワを訪問してプーチン大統領と会談しました。このときも天然ガスの2035年頃まで中長期で安定的に輸出・輸入できるような協定を結びました。戦争が始まりそうで緊迫化してきたときに、何か戦争を回避するために努力してくれるかなと期待していたら、天然ガスの協定を結び“お土産”を持たされて帰ってきたような、そういう感じがしました」

■シリア難民保護を拒否

右松キャスター
「2015年のシリア難民保護に対しての対応も国際的に批判されました。難民についてEUの規則では最初に到着した国に保護責任があるということですが、オルバン政権はフェンスを作るなどして受け入れ拒否をしました」

東野氏
「この時のオルバン首相の本心はわかりにくい部分がありますが、言い訳としていたのは、ハンガリーはキリスト教の人たちに対しては門戸を開いているが、イスラム教の価値観は、ハンガリーというキリスト教国には合わないっていうことを言っていました」

「今回ウクライナからの難民がたくさん到達していますが、ウクライナ難民はキリスト教の難民なので受け入れる、イスラム教徒とは違うということを言っています。宗教で色分けするというようなことは現代では憚れるところもあると思いますが、全く包み隠さずに言っていくリーダーです」

飯塚恵子読売編集委員
「私は2018年の選挙でずいぶんハンガリーを取材していましたが、そのときは貧しい人たちの支持がありますが、中流層は結構批判的でした。移民の問題があったからなんですが、2018年頃はもうハンガリーに移民は誰1人来なくなった。昔はハンガリーを経由してドイツに入るっていうルートだったのですが、ハンガリーは避難民からは全く信頼されず、ハンガリーを迂回していくルートになってしまった。その意味でEUの中だけではなく、避難民からも相手にされない国というそういう感じになっていました」

■ハンガリーはロシアから軽視?

右松キャスター
「国内で支持してる人とは別に、EU全体の中でオルバン首相をどう見るかが問われている?」

東野氏
「オルバン首相が反対してEUとして全会一致が取れないということは、何もこのロシアに関することだけではなく、対中政策でもこういった傾向がたくさんあったわけです。例えば、人権問題をめぐる制裁でハンガリーが反対する、つまりEUとして推進したい『人権』などの価値観にことごとく反対してくるではないかということで、EUからのハンガリーに対する評価というのは下がっている部分は残念ながらあるかと思います」

東野氏
「そうでありながら、オルバン首相はこれほどまでにプーチン大統領に従うような姿を見せているのに、例えば、戦争が始まった後にプーチン大統領はEUの加盟国や日本なども含めて非友好国認定をしました。その中でハンガリーを除外していないのです。まとめて非友好国の指定をしてしまったので、ハンガリー外務省としても慌ててロシア外務省に自分たちはこんなにロシア対して友好的だったのにどうして非友好国なんだということだったんですが、いまだに動いていません。ということは、ロシアから見ると、ハンガリーは使える駒ではあるかもしれないが、そこまで重視しているわけではないという皮肉な現実が浮かび上がってきます」

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