岸田首相が元徴用工問題に「心が痛む」 関係者「自身の思いと言葉」 尹大統領への“お返し”?
日本と韓国の首脳同士が、お互いの国を定期的に訪問する“シャトル外交”が約12年ぶりに再開しました。首脳会談後の会見では、岸田首相は元徴用工問題について「心が痛む」などと発言しました。なぜ、首相はこのような踏み込んだ発言をしたのか、詳しく解説します。
■岸田首相「心が痛む」元徴用工問題に… 関係者「役人が書ける言葉じゃない」
有働由美子キャスター
「『心が痛む』。韓国で岸田首相が首脳会談後の会見で言った言葉です。元徴用工問題について、踏み込んだ発言だと受け止められていますが…」
小野高弘・日本テレビ解説委員国際部デスク
「そもそも元徴用工の問題では、これまで韓国国内で抗議活動が行われてきました。戦時中、日本企業で働いた韓国の元労働者たちが『強制的に働かされた』などとして日本に賠償と謝罪を求めています。日本政府としてはこの問題は解決済みですが、韓国国内では『明確な謝罪がない』との批判が根強いです」
「その韓国世論に訴えかけるように、岸田首相は『当時、厳しい環境のもとで多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いです』と発言しました。この言葉はどのように出てきたのか、首相周辺は『総理が自分の思いとして、自身の言葉で言った』と、ある外務省幹部は『役人が書ける言葉じゃない』と言っています」
「韓国国内では今回も『謝罪がない』という批判はありますが、尹大統領も『過去の歴史問題が完全に整理できなければ未来の協力へ一歩も進めないという認識からは脱するべきだ』と韓国世論に訴えました。これも、“未来志向で行こう”という踏み込んだ発言です」
■尹大統領への“お返し”? 韓国訪問「前倒し」配慮も
有働キャスター
「岸田首相が会見であえて、踏み込んだ発言をしたのはなぜですか?」
小野解説委員
「尹大統領に“お返し”をしたいという思いがあったようです。というのも、尹大統領は今、苦しい立場に置かれています。まずは支持率が3割台です。韓国政府は3月、徴用工問題の賠償金について日本の肩代わりをする方針を発表しました。これが、韓国国内では『屈辱外交だ』と言われているからです。そして、韓国国会では野党が多数派です。反発を受ければ、法案などが通らなくなる恐れがあります。それでも、日本との関係改善を目指しているということです」
有働キャスター
「岸田首相は、そのような尹大統領の思いに“応えたい”ということだったのですね」
小野解説委員
「今月、広島サミットに合わせ尹大統領がまた来日します。尹大統領ばかりが日本に来ているように見えないように、夏に予定していた韓国訪問を急きょ前倒ししたのも尹大統領への配慮です」
■記者「韓国政治の次は読めない」 日本政府としては今がチャンス?
小野解説委員
「ソウルで取材を続けるNNNソウル支局の原田記者は『尹大統領ほど強い信念で関係構築を進められる大統領が今後、出てくるかはわからない。もし政権交代で左派の革新系の政権になれば、尹政権が進めたことを戻そうとするだろう。韓国政治の次は読めない』と話しています」
「日本政府としては、今がチャンスというわけです。岸田首相自身も、周辺に『尹政権ときちんと向き合って行くことが、日本にとってもプラスなのは間違いない』と話しているといいます」
有働キャスター
「“近くて遠い国”とずっと言われてきましたが、今の東アジアの状況を見るとこれまで以上に連携が必要なのは間違いないので、丁寧に辛抱強く関係を作っていってほしいと思います」
(5月8日放送『news zero』より)