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戦地に赴く18歳の衛生兵、いま「願うこと」は? 激戦地で負傷兵治療、命の危険も…大学授業はオンラインで ウクライナ侵攻まもなく3年【バンキシャ!】

2025年2月3日 11:46
戦地に赴く18歳の衛生兵、いま「願うこと」は? 激戦地で負傷兵治療、命の危険も…大学授業はオンラインで ウクライナ侵攻まもなく3年【バンキシャ!】

今月24日、ロシアによるウクライナ侵攻が始まって丸3年となります。フリージャーナリストの横田徹さんが、戦場に立つ18歳の大学生の任務に同行しました。【バンキシャ!】

 ◇◇◇

去年11月、ジャーナリスト・横田徹さんが向かったのはウクライナ東部・ドネツク州の主要都市リマン。激しい戦闘の爪痕が残り、ここは今もロシア軍が狙う重要拠点の一つだ。

今回、この周辺で任務を行う部隊の取材を許可された。乗り込んだのは鉄の板で補強された車。助手席に乗っていたのは衛生兵のソフィアさん(18)、現役の大学生だ。ソフィアさんが撮影した映像には、戦場で負傷した兵士の治療にあたる様子が捉えられていた。

同僚
「ここをはさみで切って」

ソフィアさん
「落ち着いてやりましょう」

これは18歳の大学生が見た戦場の記録だ。

ソフィアさん
「この映像を次の世代のために残します」

 ◇◇◇

ロシア軍の侵攻を受け住民が退去した空き家。

横田さん
「ここがメディック(衛生兵)たちが待機している基地」

ロシア軍の拠点からわずか9キロほどのところにあり、風呂も1人になれる空間もないこの場所で任務に就く。キッチンの隅に無造作に置かれた段ボールに目がとまった。

横田さん
「これは何?」

ソフィアさん
「何か想像してみて」

中には大量の袋があった。戦死した兵士の遺体を入れるためのものだという。ソフィアさんら4人は、この拠点で待機し、無線で負傷兵の連絡が来ると出動して治療を行うという。

ソフィアさん
「(食料を)たくさん買ってきたね」

同僚
「生きるためにね」

ソフィアさん
「一番大きいのをとった」

兵士
「君は半分も食べないだろう」

ソフィアさん
「食べられるよ」

待機中、パソコンを開くソフィアさん。

横田さん
「何をしているの?」

ソフィアさん
「大学の授業を受けています。国際法とウクライナの法律を学んでいます」

衛生兵であり18歳の大学生でもある。戦場にいながらオンラインで授業を受けていた。

ソフィアさん
「今日は平穏です。でも、それでいいんです。犠牲者がたくさん出ていないということですから」

本来の平穏はなに不自由なく大学に通う毎日。侵攻は、ソフィアさんの平穏の意味すら変えてしまっていた。

横田さん
「深夜2時です。メディック(衛生兵)チームは無線をつけた状態で休んでいます」

しかし、この静寂は長くは続かなかった。前線から負傷兵の情報が入り、ソフィアさんがカメラで撮影を始めた。

ソフィアさん
「この映像を次の世代のために残します」

ロシア軍は衛生兵も標的にするため、命の危険にさらされながら治療にあたる。そこに、負傷した一人の兵士が運び込まれてきた。

ソフィアさん
「ケガの程度は深刻ですか?」

手首の包帯には血がにじむ。

負傷兵
「足を診てほしい」

ソフィアさん
「靴を脱がしますよ」

軍服を切り処置を行う。

さらに、別の負傷者の治療にもあたる。前線の部隊から兵士が引き渡され、衛生兵チームの車に移動させる。肩から出血し、太ももの大部分が包帯に覆われている。点滴が必要と判断された。

ソフィアさん
「何がいる?」

同僚
「アルコール消毒」

ソフィアさん
「アルコールね」

限られた治療で命をつなぐ。出動要請は夜になっても続いた。

ソフィアさん
「大丈夫です。私たちはあなたを助けたいだけ。腕は大丈夫?」

負傷兵
「やられてる」

背中や足にもけがをしていた。より高度な治療が必要と判断し車で搬送することに。

ソフィアさん
「揺れるから、足をのばしておいて」

同僚
「支えるよ」

――15分後

兵士
「車から降ろそう」

ソフィアさん
「彼は自力で歩けない。待ってて、担架を持ってきてもらう」

部隊の医療拠点へ運び込んだ。

同僚の兵士はソフィアさんについて――

同僚の兵士
「ソフィアはまだ若いが、戦場に立ち続けている。その姿勢に士気も高まります」

ロシアの侵攻後、ウクライナでは女性の兵士が増え、3年弱でおよそ1.6倍になったという。

同僚
「今や、女性の兵士は欠かすことのできない戦力です。尊敬する一方で、若い女性が危険な任務に就かなければならない。恐ろしい世の中だと感じます」

18歳の大学生が日々、前線に立つ現実。そのソフィアさんを誰よりも案じている人がいる。母のアーニャさんだ。2か月ぶりに、ソフィアさんが帰郷することに。前線で過ごす娘が無事、帰ってくるたびに安堵(あんど)の気持ちがあふれ出す。

毎日顔を合わせていた日常が失われて3年がたとうとしている。

母・アーニャさん
「私のかわいい子。いまがとても幸せ。もう娘を戦場に行かせたくないです」

ソフィアさん
「泣かないでお母さん。大丈夫だから」

――久々の実家

ソフィアさん
「日本の人たち、これを見たら驚くかも」

出てきたのはソフィアさんの大好物、おすし。

ソフィアさん
「まあまあね、おいしいです」

家族と過ごす安らぎの時間。しかし、戦場に出る前とは違った感情が芽生えていた。実家で過ごす安らぎの時間でも、ソフィアさんは戦場の光景が頭から離れないという。

ソフィアさん
「座っていても何か起こるんじゃないか、こんなに静かで平穏なはずがない、今何か起こるんじゃないかって」

ロシアによる侵攻当初、まだ高校生だったソフィアさん。「家族と国を守りたい」と両親には、相談せずに衛生兵になることを決めた。

母・アーニャさん
「彼女はもう大人です。自分で決断したんです。心配はしていますが、どんなときでも応援すると決めました」

実は母のアーニャさんも2014年、ロシアによるクリミア半島の併合をきっかけに兵士となった。娘の決意は理解できるが、母親として心境は複雑だ。

母・アーニャさん
「自分の娘がいざ戦場に立つとなると心が苦しくなります。幸せでいてほしい」

その思いを知りながら、ソフィアさんはまた戦地へと向かう。

ソフィアさん
「まずは生きていたい。この瞬間を生き抜いていきたい。平穏な暮らしを取り戻したいです」

*2月2日放送『真相報道バンキシャ!』より

最終更新日:2025年2月3日 11:46