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マスク氏が変えた“ツイッター” 研究者「非常に危険な状態」ヘイトスピーチ急増…買収から2か月

2022年12月30日 14:00
マスク氏が変えた“ツイッター” 研究者「非常に危険な状態」ヘイトスピーチ急増…買収から2か月
買収完了の直前、ツイッター本社を訪れたことを投稿したイーロン・マスク氏

アメリカの起業家イーロン・マスク氏によるツイッターの買収から2か月余り。「言論の自由」を守ると次々と改革を行うマスク氏だが、ヘイトスピーチが急増したという調査結果に、研究者は「非常に危険な状態だ」と警鐘を鳴らす。
(NNNロサンゼルス支局 岡田光弘)

■「トップ退くべきか?」賛成多数にマスク氏は…

突然の問いかけに世界中の1750万人が反応した。「誰もが決定権を持つのは新しい。退任したらおもしろいと思い投票した」、日本のユーザーからは、そんな声も聞かれた。

アメリカのソーシャルメディア大手ツイッターのイーロン・マスクCEOは12月18日、自身の進退をツイッター上での投票に委ねた。「私はツイッターのトップを退くべきか? イエスか、ノーか」。直後には「本当にそうなるかもしれないので願いを決める際は慎重に」と投票を呼びかけた。結果は退任に賛成が57.5%、反対が42.5%で「退任すべき」という意見が過半数を占めた。

マスク氏は20日、「この仕事を引き受けてくれる愚かな人間が見つかり次第、私はCEOを辞任するつもりだ」と投稿し、辞任する考えを明らかにした。ただ、アメリカメディアは、後任探しが難航していると伝えた。

マスク氏は停止されたトランプ前大統領のアカウントを11月に復活させる際にも投票を実施、賛成51.8%を受け、「人々の声は神の声」という言葉を添え、復活させた。アメリカ連邦議会議事堂襲撃事件を受け、「さらなる暴力を扇動する恐れがある」として停止されていたもので、トランプ氏が復活を求め起こした裁判でも連邦地裁は訴えを退けていた。

他にも停止されたアカウントについて法律違反などでなければ復活させるべきかどうかを問う投票では、賛成多数を受け、「恩赦を始める」などと投稿した。どのアカウントが復活されたのか、その総数を含め、恩赦の詳細は明らかになっていない。

次々と復活する“停止アカウント”だが、買収直後の10月28日には投稿の管理の協議会を設置した上、アカウントの復活を検討する考えを示していた。この協議会が設置された様子はうかがえず、マスク氏は「今後も大きな方針の変更に際し、投票を行う」と投稿している。

■ツイッター上でヘイトスピーチ急増 調査結果 マスク氏“減った”と主張も…

民間の調査団体、デジタルヘイト対抗センター(CCDH)は12月初旬、マスク氏の買収後、ヘイトスピーチが急増しているとする調査結果を発表した。調査は1日平均に投稿されるヘイトスピーチの数を10月27日の買収前と買収後の11月下旬までで比べたもので、黒人に対する差別的な表現で3876件とおよそ3倍に増加、同性愛者やトランスジェンダー、ユダヤ人に対する差別的な投稿も大幅に増加していたという。

マスク氏は買収後、ヘイトスピーチの減少を主張し、11月下旬には「買収前の3分の1に減った」とグラフを添えて投稿しているが、同団体はグラフの根拠となるデータが開示されておらず、検証できないとしている。

■ツイッター社の元研究員 マスク氏の投票は“ただのパフォーマンス”

ツイッター社で働いていたこともあるという、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のサラ・ロバーツ准教授に話を聞いた。ロバーツ准教授は、マスク氏が行った自らの進退をかけた投票を“ただのパフォーマンス”だと切り捨てる。

マスク氏はCEOを後任に引き継いだ後について、「ソフトウエアとサーバーのチームを率いるだけ」としているが、ロバーツ准教授は「彼が手綱を本気で誰かに譲るとは思えない。確実に関与していくはず」と今後も強い影響力を維持していくとみている。その上で、マスク氏のツイッター改革については「彼のこれまでの様々な変更は本当に独断的な気まぐれなもので、彼が気になったものだけ。まるで440億ドルの砂場にいる子どもだ」と強く批判した。

ロバーツ准教授は今年1月から夏頃までツイッター社で投稿を管理する部門の研究員として働いていたといい、特に買収以降のヘイトスピーチの急増を危惧している。

「彼は言論の自由を守るとして、暴力を扇動するような規定違反で停止されたアカウントも復活し、投稿監視も劇的に少なくしたのだ。ツイッター上はヘイトスピーチにあふれ、非常に危険な状況だ」と指摘した上、「マスク氏には現在ある様々な規約は必ずしも言論を侵害するものではなく、より多くの人がより自由に発言をできるようにするためのものだと気付いて欲しい」と悲しそうに語った。