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【独自解説】「ウクライナとロシアだけの問題ではない」北朝鮮の派兵が日本に与える影響 『資源』『食料』の切り札を失ったら、次なるカードは『日本の技術』?拉致問題について“戦争当事国”と交渉できるのか―

2024年10月27日 10:00
【独自解説】「ウクライナとロシアだけの問題ではない」北朝鮮の派兵が日本に与える影響 『資源』『食料』の切り札を失ったら、次なるカードは『日本の技術』?拉致問題について“戦争当事国”と交渉できるのか―
ウクライナ侵攻に北朝鮮が“参戦”か

 ウクライナとロシアの戦争に、北朝鮮の正規軍がロシア側について派遣されたとして、世界的なニュースになっています。北朝鮮が得るもの・失うものは?日本に与える深刻な影響とは?『読売テレビ』高岡達之特別解説委員の解説です。

■“ウクライナ対ロシアと北朝鮮”の戦争へ…「正規軍を派遣する」ということ

 北朝鮮が正規軍を派遣することは、ある意味“ロシアへの究極の肩入れ”です。「アメリカやヨーロッパだって、今まで武器をたくさんウクライナに渡してきたじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、ここには決定的な違いがあります。

 武器を応援で渡すことは、国際的には『支援』になります。直接、アメリカ“軍”が、ドイツ“軍”が、フランス“軍”が参加したわけではありません。

 北朝鮮は正規軍ですから、北朝鮮国籍の人間が行くわけです。これは、世界的には「戦争の当事国に参加する」と見られます。つまり、今まではウクライナ対ロシアの戦争でしたが、“ウクライナ対ロシアと北朝鮮の戦争”になるということです。

 ベラルーシなどロシア側の味方になる国はありましたが、ベラルーシですら、正規軍がウクライナ領内で戦闘しているわけではないので、ここに大きな違いがあります。

■北朝鮮の特殊部隊『暴風軍団』 ロシアが期待する“アジアのほうが優れている”もの

 「人間を送り込む」ということには、メリット・デメリットがあります。

 まず、今回派遣された部隊を見ていきます。全部で1万2000人いるといわれていますが、そのうちの5000人には『暴風軍団』という“あだ名”がついています。勝手についたあだ名だと思いますが、これは特殊部隊です。

 特殊部隊の数については5000人と言いましたが、いろんな数が出ています。もちろん機密事項なので、出回っている数字には上下がありますから、正確には「1500~5000人ぐらいの間でいろんな数字が出ている」という言い方をしておきます。

 特殊部隊というのは、ロシアにとって大変“うま味”があります。ロシアがやっている戦争は、“古典的な戦争”と言っては何ですが、たくさん兵隊や戦車を並べて、力で押し出すということをやっています。ただ、そんなことを北朝鮮には期待していません。自国のほうが“本家本元”です。

 特殊部隊が行くのは、得意なことがあるからです。ロシア軍からすると、「北朝鮮にお任せしたほうが、お得意でしょ」ということをやってもらうわけです。

 北朝鮮の映像に、実際の部隊の訓練があります。ビルの壁をよじ登ったり、上から下りてきたりして侵入し、建物の中で接近戦を行います。

 そして、夜でも相手を識別できるように、赤外線センサーのようなものをヘルメットに付けて、戦闘行動をしています。

 この訓練を視察した金正恩総書記が持っているのは、遠距離の狙撃銃です。

 「自分の肉体を研ぎ澄まして、その体そのものを武器に使う」というようなこともやります。こういった特殊な訓練は、欧米の軍隊よりアジアのほうが優れているといわれています。

■「何をされるかわからない」ウクライナ側に与える恐怖 世界が知らない“北朝鮮の戦い方”

 こういった部隊は、相手の裏にこっそりと潜入します。日本の拉致被害者の事件もそうですが、北朝鮮はそういうのが得意です。これは、ロシアの正規軍の“力の戦争”とは形が違うので、ウクライナ側には当然「何をされるかわからない怖さ」が出てくることになります。

 その「何をされるかわからない怖さ」について、北朝鮮の部隊の写真を見ていきます。これは軍事パレードに出てきた部隊で、この部隊がウクライナに行っているかどうかはわかりませんが、不気味なのは毒ガス避けのマスクをしています(写真左)。また、顔を完全に隠蔽する形で、建物の中や夜でも戦闘できるライトを付けています(写真右)。

 「北朝鮮の部隊は、どんな兵器を使って、どんな戦い方をするか」ということを、ほとんど世界は知りませんし、朝鮮戦争の戦い方は古過ぎて参考になりません。そうすると、どんな武器を持っているかもわからないし、『毒ガス避けのマスク』や『夜でも戦闘できるライト』だって本物かどうかわからないといわれますが、それが初めて実戦で使われることになります。

■交渉の“カード”がなくなる?北朝鮮が対価として得るものと、世界に与える影響

 今回の派兵で、確かに自国の兵士が傷つく危険性は極めて高いですが、北朝鮮は“物凄い物”を手に入れます。「資源に苦しむこと」から解放されるんです。

 今までずっと、米国との核の交渉でもそうでしたが、北朝鮮は「食料が足りない」「工業製品を動かす石油がない」ということで、核の交渉をする時には必ず「それらをくれ」と言ってきました。国連の制裁措置で、原油・鉄鋼・機械類などで国を盛り上げていくことを制限されていますから、できません。

 でも、これらは全部、ロシアから貰えます。ロシアは、世界有数の資源国です。食料に関しても、北朝鮮は人口の4割が栄養不足だといわれていますが、ロシアという大国は食料の自給率が世界トップクラスですから、「いるんだったら差し上げるよ」と。

 北朝鮮が、この“安心”を手に入れるということは、今後、米国との交渉の時に「資源がカードにならない」ということです。

■「ウクライナとロシアの間だけの話ではない」最も影響を受けるのは日本か 世界の厳しい視線の中、迫られる決断―

 そして、その影響を一番受けるのは、日本が決断を迫られる『拉致問題』です。選挙期間に入ってからでしたが、石破首相も拉致被害者のご家族と会って、「最優先で進めたい」と約束されました。これは、歴代の首相がしてきました。当然、トップ同士の交渉も、これからやるわけです。

 ところが問題は、世界が北朝鮮を“ロシアを支援している国”ではなく“戦争の当事国”と見ることです。日本としては自国民の拉致問題があるとはいえ、国際社会、少なくともヨーロッパの国からは「“戦争当事国と見られている国”と首脳同士で話をするんですか」という声が出てきます。特に国連の場では、そうでしょう。

 そして、アメリカの大統領選です。北朝鮮は、トランプ氏の再選を強く望んでいるといわれています。それもそのはずで、ハリス氏は「金正恩氏のような独裁者にすり寄ることはない」と明言していて、つまり「会う気もない」ということです。一方、トランプ氏は「(金正恩氏に対して)うまくやる」と、「現に自分は会ってきた」ということも言っているからです。

 拉致被害者の交渉に関しては、歴代のアメリカ政府の協力がとても大切でした。トランプ前大統領がもし再選したら、やってくれるとは思いますが、ただ問題は、この方はやはり『取引』ということで、金正恩氏を交渉の場に引きずり出します。ただ、「もはや資源が通用しない」となると、相手側が一番欲しいのは、実は我が国の技術や工業製品です。

 というのは、イランが作ったのかもしれないし北朝鮮が作ったのかもしれないですけど、現実にウクライナの戦場で発見された無人機には、日本製の電池や、日本の高級カメラのレンズの一部など、バラバラにして使っている物がたくさんあります。これは、今の日本と北朝鮮、あるいは世界と北朝鮮の情勢では相手に渡らないことになっていますが、闇で渡っているわけです。

 何度も言いますが、今回の行動によって北朝鮮は、少なくともロシア側を支持している国とは別の国から見れば、戦争当事国です。日本は、今まで以上に厳しい世界の視線の中で、この戦争当事国と「拉致被害者を返してもらう交渉をするのか」という決断をしなければならないということです。今回の北朝鮮の派兵は、「ウクライナとロシアの間だけの話ではない」ということを、お考えいただければと思います。(『読売テレビ』高岡達之特別解説委員)

(「かんさい情報ネットten.」2024年10月21日放送)

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