推しメン休暇は“活動費”も支給 「休み方改革で企業の価値も向上」導入が広まるユニークな休暇制度
「申し訳ございませんが、お休みを頂きます」。有給休暇は労働者の権利なのにもかかわらず、思わず謝ってしまうことはないだろうか。今回のUpdate the worldでは、休みに罪悪感を覚える日本人の特性や、最近の新しい休暇事情について考えた。
■集団行動が得意な反面、自分だけ休めない葛藤が
「有給休暇の取得に罪悪感がある人の割合」について、興味深いデータがある。国別の調査で、日本は罪悪感がある人が58%。アメリカ、韓国をおさえ、1位となっている。この結果について、企業の働き方事情に詳しい株式会社リクルートHR統括編集長の藤井薫さんは次のように話す。
「集団行動を得意とする日本人の性質が現れていると思います。休みの罪悪感といっても、土日など周りが休んでいると罪悪感はそれほどありません。みんなが働いている中で、1人だけ休むことに肩身の狭さを感じるのです。
この特性には、歴史的な背景もあります。日本人は元来農耕民族で、『横並び』という言葉の起源になっているように、一緒に田植えをしたり、漁をしたりなど集団行動を必要とする産業を発展させました。そのため、バラバラに働くのは苦手。工業化し、一人ひとりのアイデアが価値になる時代なのに、『いっせいのせ』が未だに根付いています」
番組のコンダクターでクリエイティブディレクターの辻愛沙子さんは、経営者として働き方改革で意識していることを話す。
「人それぞれ、仕事に求めることや人生の価値基準は違って当然です。ライフステージや趣味など、人や時期によっても変わるので、メンバー一人ひとりに会社が向き合うことが大事ではないでしょうか。結果的に、その人らしい働き方でパフォーマンスを上げることにつながり、会社の業績にも反映されると思いますね」
■ユニークな休暇制度が次々登場
社員に罪悪感なしに休んでもらうため、ユニークな休暇制度を導入している企業もある。「失恋・離婚休暇」「推しメン休暇」「おかわり休暇」。なんとこのすべてが、実際に企業で導入されている制度なのだ。
「失恋・離婚休暇」を導入するのは、広告代理店の株式会社サニーサイドアップ。「会社に出られなくなるほどの失恋は、人生の中で良い経験になると思う」という社長の意向で実現した。同社には他にも、親孝行・家族孝行がしたいとき用の「ファミリーホリデー制度」がある。
「推しメン休暇」は、スマートフォンアプリやゲームの企画・開発・運営をする株式会社ジークレストが導入。1年に1度、アニメやマンガ、ゲームのキャラクター、タレントや声優など、自分の“推しメン”の記念日(誕生日やライブ開催日など)に、休暇を取得できる制度だ。上限5000円までの“活動費”も支給している。自分の好きなことを追求する姿勢は仕事にも還元できると、積極的に会社が「推し活」を応援している。
「おかわり休暇」は、人材サービス業の株式会社ツナグ・グループホールディングスの制度だ。有給休暇を使い切っても申告すれば5日の「おかわり」ができる制度を導入した。
株式会社SCSK人事・総務本部ライフサポート推進部長の杉岡孝祐さんによると、同社でも「バックアップ休暇」と呼ばれる同様の制度があるという。
「有給休暇の上限まで取って欲しいと伝えたところ、社員からは不測の事態があったときのためにちょっと残しておきたいという声が上がりました。そこで、何かあったら対応するから安心して有給休暇を取得して欲しいというメッセージとして、追加で3日間有給休暇を付与する制度をつくりました。ちなみに、現在は5日間に改正。3日では足りないとの声を反映したんです」
■休み方改革で、企業もハッピーに
このようにユニークな休暇制度を導入する企業は増えている。企業側としても明確なメリットがあると藤井さんは語る。
「働く個人からすると、企業が自分たちの人生や生き方に寄り添ってくれる、ライフフィット企業であることが伝わります。その結果、愛社精神が高まります。企業にとっても働く人にとっても、いいことずくめですね」
休み方改革について学んできた今回のUpdate the world。経営者でもある辻さんからは、「仕組みづくりが大切なんだなと思いました。今日の学びをもとに、すぐ自社に導入したいです」という感想が寄せられた。
休むことは、企業の生産性を上げ、業績を上げるためにも重要なエッセンスである。長時間労働が当たり前とされる常識がアップデートされ、誰もが自分らしくいきいきと働ける社会の実現を目指していきたい。
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この記事は、2022年1月28日に配信された「Update the world #13 “休みの罪悪感”をアップデート」をもとに制作しました。
■「Update the world」とは日本テレビ「news zero」が取り組むオンライン配信番組。SDGsを羅針盤に、社会の価値観をアップデートするキッカケを、みなさんとともに考えていきます。