【家族】がんになったシェフと農家の家族 "やさしい味"届ける"家族のキッチンカー"『every.特集』
「パスタとローストビーフお待たせ致しました」
明るい声が農園の中から聞こえてきた。東京郊外の農園に行列のできるキッチンカーがある。週4回、ランチのみの営業だが、見ていると地元客がひっきりなしに訪れる人気ぶりである。お客さんにその魅力を聞いてみると、「ホテルで食べてるみたいな味でした」と話してくれた。
それもそのはず、このキッチンカーのオーナーは、東京の有名ホテルで腕を磨いたシェフ、貫井昭洋(ぬくい あきひろ)さん(34)だ。
メニューは、貫井さんが培ってきた技術をいかした本格的なイタリアン。取材に訪れた日は、ワタリガニにゴボウなどの根菜を合わせたパスタや、柿を添えたローストビーフなど、3種類のメニュー。季節にあわせて変えているという。テイクアウトだけでなく、そばに置かれたテーブルで食事を楽しむこともできるのがうれしいところだ。
すぐ目の前には畑が広がっている。というのもこの場所、貫井さんの実家。両親の農園だ。そばにある直売所では、その日に採れた野菜や果物を買うこともできる。食べてよし、買ってよしの農家のキッチンカーである。
実家の採れたて野菜や果物を生かしたイタリアンに腕をふるう貫井さんだが、実は今、がんで闘病中だ。3年前、脳に腫瘍が見つかり、希少がんである、悪性神経膠腫(あくせいしんけいこうしゅ)と診断されたのだ。がんが見つかったのは、独立して店を持とうと考えていた、まさにその時だった。
貫井さんは「お店を持てること自体もどうかなって…まず手術だったので」と当時を振り返る。
8時間に及ぶ手術でこぶし大ほどの腫瘍を摘出したものの、その後、通院と抗がん剤治療の日々が始まった。そのため抗がん剤で体調が悪くなる日もある。抗がん剤の副作用に悩み、店をあきらめようと思ったとき、“我が家の野菜を使って店をやればいい”と救いの手を差し伸べてくれたのは「家族」だった。貫井さんを家族が支える形でキッチンカーでの営業が始まったのである。忙しいときは母・陽子さんがキッチンに入り、姉の道子さんは接客や配膳のサポート、メニューや看板の作成もする。
そうして始めたキッチンカーも2年がすぎ、貫井さんは多くの人にこの家族のキッチンカーを知ってもらおうと、新たな挑戦を決意した。農園から出てイベント会場に出店しようというのだ。家族一丸となっての奮闘が始まった――
※詳しくは動画をご覧ください。(2024年1月10日放送「news every.」より)