“素人役者”の見得に喝采!市民ら総勢100名が”新作”地歌舞伎に初挑戦、花道・アクション・文楽を駆使した現代版舞台に反響続々「地歌舞伎に、今までにはない親しみをもつことができた」 岐阜・中津川市
江戸や上方で上演されていた歌舞伎が全国各地に広がり、地元の一般庶民が芝居小屋などで演じ、楽しむようになったことがはじまりといわれる「地歌舞伎」。“素人役者”らによる地歌舞伎は大衆の人気を集め、現在も全国に25施設の芝居小屋が存在しています。
素人ならではの親近感のある「演技」、子どもならではの独特な「セリフ回し」など、“村芝居”を感じさせる演出が魅力といわれる「地歌舞伎」。
そんな庶民の心や文化が息づく伝統芸能の“新作”が、岐阜県中津川市にある『東美濃ふれあいセンター歌舞伎ホール』にて、中津川市民を含む総勢100名の手によって初披露されました。
“日本一の地歌舞伎どころ”と呼ばれる東濃地方。中津川市によると、その由縁となる数値的は根拠は持ち合わせていないものの、岐阜県には全国最多となる29の歌舞伎保存会が活動、そのうち半数以上が東濃地方に集中。中津川市では6団体が活動し、毎年定期的に公演を実施しているといいます。
また、「全国に25施設ある芝居小屋(劇場型木造建造物)のうち、6施設が東濃地方にあり、中津川市には、『かしも明治座』、『常盤座』、『蛭子座』の3つの芝居小屋が現存。歌舞伎公演をはじめ、さまざまな公演が行われ、市民の娯楽の殿堂となっています」と、現代における東濃地方と地歌舞伎の深い縁を明かしました。
2024年11月24日、『東美濃ふれあいセンター歌舞伎ホール』にて公演された、新作地歌舞伎「中津川成田道行 嘉永年間落合宿物語」。中津川市によると、完全新作の地歌舞伎公演をつくることは、中津川市として初めての試み。その珍しさについて、「(新作公演は)周辺地域でも、聞いたことがない案件です」と話します。
「歌舞伎通にも、歌舞伎を見たことのない人にも楽しんでもらいたい」という思いが込められた、新作地歌舞伎の公演。
中津川市によると、新作は歌舞伎ライター・仲野マリさんが作った物語を原案に、史実を題材にしながらも、海老十郎と町人達の“絶対にありえない”友情を軸に展開。物語には、海老十郎に恋するお初の恋心、彦三郎と海老十郎の深い友情、お初への一途な恋、雲助の頭・鬼吉の非情さ、八兵衛の命をかけた忠義心など、現代人も共感する人間模様が盛り込まれ、幅広い人が楽しめるストーリーへと仕上げられたといいます。
公演では、長丁場となる公演時間をふまえて、舞台の“魅せ方”にも注力。セリフには分かりやすい言葉を採用、舞台転換を使用したシーンの区切り、観客の集中力が途切れないよう30分頃に投入されるアクションシーンや定期的に文楽を取り入れるなど、観客を“飽きさせない工夫”にもこだわったといいます。
脚本を担当したのは、中津川市で地歌舞伎の振付師として活躍する岩井紫麻さん。10歳で地歌舞伎の初舞台を踏んだ岩井さんですが、「脚本」を手掛けるのは初めて。
以前より、「いつか原案をもとに地歌舞伎公演ができたらいいですね」と未来のビジョンに思いを馳せていたという、原作者・仲野マリさんと東濃歌舞伎中津川歌舞伎保存会。中津川市役所から「清流の国ぎふ」文化祭2024の事業として、新作地歌舞伎の創作・公演の打診を受けたことから、地歌舞伎に長く携わってきた岩井さんに声がかかったといいます。
“地元の見知った人”が出演することによって、応援の掛け声「大向こう」や「おひねり」が飛びかうのも、地歌舞伎の魅力。芝居小屋では飲食自由で、中津川市などの芝居小屋では、朴葉ずしや五平餅などの郷土料理を味わいながら観劇することができるといいます。また、観客と舞台の距離が近いため、役者の所作を間近で見ることができ、素人役者の見得が決まる場面では大きな歓声が沸き起こるのも地歌舞伎ならでは。
そんな特徴も再現するかのように、今回行われた新作公演も、脚本の岩井さんをはじめ、役者、顔師、着付師、裏方など公演に携わるすべての人々が地元出身者。市民を中心に100人が参加し、舞台を盛り上げました。
公演後、観客からは地歌舞伎に親しみを感じた声や舞台の演出を評価する声など反響が続々。中津川市によると、「歌舞伎のセリフ回しや内容を知らないと楽しめないと思っていたが、この公演はとても分かりやすく、素人でもとても楽しめた」、「ホールの舞台施設、とりわけ花道を使った演出がすばらしかった」など、さまざまな感想が寄せられたといいます。
公演終了後、岩井さんは「壮大なプロジェクトが、やっと終わったという思いです」と話しながらも、「やってみないと分からない部分が多々あり、修正箇所、問題点が見えたので、これで終わりではなく、ちゃんとした本に、芝居に仕上げなくてはと思っております」と今後の課題を整理。
公演に参加した市民らの様子については、「役者は皆さん、“稽古ロス”になっております。連日連夜の稽古がなくなり、寂しいと言う声がありました。一つのことに向かって一丸となり、やり遂げた感がある様です。皆さん楽しめたのではないかと思います」と明かしました。
“日本一の地歌舞伎どころ”が、市民一丸となって挑んだ新作地歌舞伎。
観客たちから、「これを機会に、地歌舞伎を見に行こうと思う」、「実際の地名なども出てきていることで、今までにはない親しみをもつことができた」など声も寄せられたことから、参加者から観客まで幅広い人々が地歌舞伎の魅力を知るキッカケになったようです。