【多頭飼育崩壊】ゴミや排せつ物が部屋中に散乱、人は車内で生活…一見“普通の住宅”でなにが?
“多頭飼育の崩壊”。環境省では猫などのペットの数が飼い主の手に負えないほど増えてしまい、適切な管理・飼育ができず、周辺の生活環境に悪影響を与えている状態のことを指しており、近年、全国的に問題視する声が増えている。視聴者からの投稿を受け向かったのは、愛知県北名古屋市にある“猫の多頭飼育の崩壊現場”。そこで目にしたのは、腐って崩落した天井や部屋中に散乱したゴミ、床一面を覆う猫の排泄物など、劣悪な飼育の実態だった。
多頭飼育崩壊の現場へ「ここまで悲惨な現場は初めて」
5月中旬、中京テレビ「あなたの真ん中取材班」に1通のメッセージが届いた。猫の多頭飼育が崩壊した現場があるという内容だった。
『取り急ぎ給餌し、頭数の確認をしましたがまだ全ての数は確認できません。というのも、家の劣化がひどく、中での作業がままならないのです』(送られてきたメッセージより)
メッセージを送ってくれたのは、猫専門の保護活動を個人で行っている『北名古屋さくら猫』の森下真由美さん。森下さんに案内してもらい、北名古屋市内にあるという現場へ向かった。
現場は、閑静な住宅街にある2階建ての一軒家。一見普通の住宅にみえるが、駐車場や玄関には複数の猫の姿が。庭にはバイクや園芸用品がおもむろに置かれている。
「(最初は(庭は)もう荷物がいっぱいで。たぶん中に荷物を入れられないから服とか全部(外の物干し竿に)かかっていた状態ですね。野外クローゼットみたいな感じで」と、初めてこの場所を訪れた時の様子を振り返る森下さん。
いつから開いているかわからないという2階の窓からは、こちらの様子をうかがう猫も。森下さんによると、この家には約40匹の猫が暮らしているという。
森下さんらが初めて現場を訪れたのは、5月上旬。当時、猫たちは痩せ細り、ガリガリの状態だったという。なかには、うまく歩くことができない猫も。
市と所有者の親族の許可を経て家の中に入ると、特殊なマスクなしでは息ができないほどの、強烈なアンモニアの匂いが漂っていた。玄関の天井は剥がれ、骨組みが見える状態となっており、そこにも猫の姿が。漏電防止のためにブレーカーは落とされており、1階は真っ暗。ライトがないと前に進むこともできない。
家に入ってすぐにあったのは、寝室もしくはリビングとみられる部屋。本棚やテレビなど、人が生活をしていた様子がうかがえるが、床一面に毛布やゴミが散乱し、足の踏み場がない状態になっていた。
さらに奥にあったのは、キッチン。山積みの食器が置かれた流し台や開きっぱなしの冷蔵庫。そのなかには、賞味期限がいつかもわからない調味料やさび付いた瓶が入っていた。
4年前から猫の保護活動を行っている森下さんも、ここまで悲惨な現場は初めてだという。
「猫がかわいそう。この中でも生活している子(猫)がいるので、何年こんな生活していたんだろういと思いますよね。この子たち何にも悪いことしていないんですよね。一生懸命生きているだけなんですけど、ここしか知らないっていうのが本当にかわいそう。こんな状況で生まれてこの状況で死んいく・・・その繰り返しをずっとここで何年やっていたんだろうっていうのが正直あります」と、猫たちの状況に心を痛めた。
2階にはこれまで怖くて上がれなかったという森下さん。1階の部屋には猫の姿が見えなかったため、現状を把握するためにも初めて2階へ行くことに。
2階には家具やゴミが散乱し、床一面には数センチほどの猫の排泄物が積もっていた。我々が姿を見せると複数の猫が開きっぱなしの窓から外へ逃げてしまったが、屋根裏からは鳴き声が聞こえ、猫たちは主に2階や屋根裏で生活しているとみられている。
猫用のトイレも排泄物のなかに埋まってしまっていて、ヘルメットやなぜか自転車も部屋のなかに投げ捨てられるように置かれていた。
あまりの悲惨な状況に、言葉を失う森下さん。
なぜ、このような状態になってしまったのか。この家には元々、60歳の男性とその母親が2人で暮らしていて、地域に住む猫が出入りしていたという。実際に家の中には、猫の砂用スコップや子猫用とみられる哺乳瓶も。親族によると、少なくとも4年ほど前までは、このような状況にはなっていなかったという。
しかし数年前、母親が介護施設に入り、男性は1人暮らしに。それ以降、猫が家の中で過ごすようになり、男性は駐車場に停めてあった車の中で生活するようになったという。
そんななか4 月下旬、男性が病気で急死。手続きのため久しぶりにこの家を訪れた親族が事態を把握し、市に相談したという。しかし、猫は愛護動物のため捕獲することは、法律と県の条例で禁止。市ができることは、近隣住民への対応や、森下さんなどの保護猫活動を行う人へ協力を要請することだった。市の担当者は、今回の場合について、「個人の所有物でおきている事象ということもあり、行政ができることには限界がある」と話す。
空き家を購入し、“猫のシェルター”へ改装
今は森下さんが毎日この家を訪れ、猫たちに餌を与えている。
「この子(猫)たち避妊去勢手術をしなきゃいけないので、それまでちょっと体力つけてね、みたいな感じです。おいしい、おなかいっぱいになるっていうことをやってほしい。たぶん、今まで飢えておなかがすいて苦しい思いしかしたことない子たちですもんね」と森下さんは話す。
エサは支援者からの寄付でまかなえているが、ほとんどの猫が避妊去勢手術をしていないとみられ、なかは妊娠している猫も。さらに、近隣住民からの苦情もあり、一日でも早く猫たちを別の場所に移さなければならないという。
森下さんはすでに自宅で多くの猫を保護しているため、これ以上連れて帰ることは難しく、知り合いの預かりボランティアなどにも協力を依頼していたが、預けられる数にも限界があった。
そのため、現在、森下さんは“猫のシェルター”を作る計画を進めている。7月上旬に現場近くに空き家を購入。猫が快適に過ごせる環境にするため、エアコンの付け替えやフローリングの張り替えなど、自ら改装を行った。
元々、小動物飼養販売管理士の資格は所持していたが、さらに第1種・第2種動物取扱い業の届け出を管轄の動物愛護センターに提出。7月下旬に登録が完了したため、すでに15匹の猫をシェルターに移し、避妊去勢手術などを行ったという。7月中には残りの猫たちも移動させ、譲渡会などを通じて里親を見つけたいとしている。
飼い主の知識不足や経済的な理由など、起こる原因は複数あるという多頭飼育の崩壊。森下さんは、「もっと早くに相談してほしかった」と話し、続けて「今はネットを調べれば出てくるじゃないですか。いろんな情報、いろんな団体さんがいた りとか。そういう人たちに助言を求めてほしい」と第三者を頼る選択肢を挙げた。
深刻な事態に陥る前に。1人で抱え込まず、誰かに頼る勇気が動物たちの命を救うのかもしれない。