“タブー中のタブー”稲田発言の問題点とは
「誤解を招きかねない発言に関して撤回を致したい」――“自衛隊の政治利用”とも取れる発言を撤回した稲田防衛相。野党側は辞任を要求、与党内からも批判の声があがっている。“常識外”と批判されている稲田発言の問題はどこにあるのか。
■防衛相経験者「タブー中のタブー」
まず、稲田防衛相の発言内容を確認する。27日に行われた都議選の自民党候補の応援演説で、「防衛省・自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と発言した。この“防衛省・自衛隊として”と発言したところにポイントがある。
これについて、ある防衛相経験者は「自衛隊を政治に巻き込むのはタブー中のタブー」と話す。自衛隊と政治の関係は非常にデリケートなものだ。
自衛隊法というものがあり、自衛隊員は「選挙権の行使を除く(中略)政治的行為をしてはならない」と政治的行為が制限されている。つまり、自衛隊は国家や国民のために尽くしているのであって、特定の政党や政治家のためにあるものではないということだ。
■「軍隊の政治利用」世界的でも厳しい制限
稲田防衛相の発言を改めて確認すると、「防衛省・自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」と言っている。これは以下のような問題がある
(1)まるで防衛省や自衛隊も組織ぐるみで特定政党の候補を応援しているという印象を与えかねない。
(2)さらに、自衛隊を指揮する防衛相が言えば、自衛隊員は特定政党を応援しなければならないと思ってしまう可能性がある。
■「党務と公務の混同」との批判も
なぜ自衛隊員の政治的行為は制限されているのか。日本大学の岩井教授によると「自衛隊を自己のために使うとなると、大きな権力を使った弾圧につながりかねない」「世界的に見ても、軍隊の政治的利用は厳しく制限されている」と話す。
また、岩井教授は常識を欠いた発言だと批判していて、「選挙運動は自民党員として行っているわけであって、防衛省や自衛隊を代表して行っているわけではない。行き過ぎた発言だ」と話している。
そもそも政治と行政の関わりを見ても、行政機関は政治的に中立公正でないといけないため、稲田防衛相は、自民党としての「党務」と政府としての「公務」を混同しているのではないかと批判されている。
■「政治家としての資質」が問われる
今回の結論は「政治家の資質」。今回の失言は、大臣としての資質が問われるのはもちろんだが、武力組織と政治のあり方、「行政の中立性」という基本的な知識も備えておらず、政治家としての資質にも欠けていると言わざるを得ないレベルといえる。
稲田防衛相には、防衛省、自衛隊23万人という巨大組織のトップとしての自覚を持つべきだろう。