山田広報官辞職…唯一の落とし所か【解説】
菅首相の長男らから1人あたり7万円以上の違法な接待を受けていた山田内閣広報官が3月1日、体調不良を理由に辞職しました。「続投」から一転「辞職」となった背景は?詳しくお伝えします。
■突然の入院と辞職 何が起きたのか?
1日、衆議院予算委員会の審議は、予定より30分遅れてスタートしました。山田真貴子内閣広報官が参考人として呼ばれ、野党の追及を受ける予定でしたが欠席したためです。委員会では、次のようなやりとりがありました。
立憲民主党・枝野代表「先週の段階で、やめてくださいと、お願いをするべきだったんじゃないでしょうか。遅きに失したと思いませんか、総理」
菅首相「2週間程度の入院・加療を要するとの診断を受け入院をし、また入院先から杉田官房副長官に辞意を伝え、そういう状況であればやむを得ない、このような判断をさせていただきました」
山田広報官は2月28日夕方、体調不良で病院を受診し、2週間程度の入院・加療を要するとの診断を受けて入院しました。そして入院先から「職務を続けることが難しい」と杉田官房副長官に辞意を伝え、その夜に副長官が、加藤官房長官と菅首相に報告しました。
■菅首相長男らから“高額接待” 山田広報官めぐるこれまでの経緯
山田広報官は総務審議官だった2019年11月、菅首相の長男ら東北新社側の4人と会食をしました。メニューは和牛ステーキや海鮮料理などで、1人あたり7万4203円。国家公務員倫理法違反となる接待を受けていました。
これに関して山田広報官は2月25日に国会で陳謝し、給与の6割にあたる70万5000円を自主返納した上で、「職務を続けていく」と辞任を否定していました。また、菅首相も続投させると明言していました。この時点ではまだ辞職するつもりはなかったとみられます。
■“記者会見”とりやめで波紋 「山田広報官隠し」の指摘も
そんななか2月26日、菅首相が6府県での緊急事態宣言解除を決定した後に行う予定だった記者会見が、急きょ、とりやめとなりました。これについて野党側は、『山田広報官を隠すため』ではないかと指摘しました。実は山田広報官は官邸で行われる首相の記者会見で司会などを担当していて、会見を開けば出てこなければなりません。そのため記者会見を開かなかったのでは…と指摘されたのです。
記者会見の代わりにこの日、菅首相はいわゆる『ぶら下がり』というかたちで記者の質問に答えました。そこでは「記者会見をしなかったのは山田広報官の問題とは全く関係ない」と話しました。
その上で、次のようなやりとりもありました。
記者「会見をやらずとも国民の協力を得られるとお思いでしょうか」
菅首相「きょう(26日)こうして“ぶら下がり”会見をやってるんじゃないでしょうか」
記者「今度の会見では最後まで質問等打ち切りなく、お答えいただけるんでしょうか」
菅首相「いや私も時間がありますから、でも大体皆さん(質問は)出尽くしてるんじゃないでしょうか。先ほどから同じような質問ばっかりじゃないでしょうか。よろしいですか」
菅首相はいら立ちを隠そうとしませんでした。
■『ぶら下がり』と『記者会見』 その違いは?
今回、菅首相が行ったのが『ぶら下がり』です。『ぶら下がり』とは業界用語のひとつで『記者会見』とは異なります。
まず『記者会見』は、首相官邸の会見場で行われる正式な会見で、広報官が仕切ります。広報官に指名された記者が質問する形式で、時間も数十分行われます。
これに対して『ぶら下がり』は、例えば官邸のエントランスで首相が出入りする際に記者が囲む形で行われます。記者会見をやるほどではないけれど、首相が記者に話すことがある場合に行われる簡易なものです。移動の途中にぶら下がって聞く形式なので、広報官の仕切りがなく、記者はダイレクトに首相に質問します。
■「記者会見の方が楽だった」 『ぶら下がり』のリスク
今回『ぶら下がり』で、首相のいつもと違う表情が垣間見えましたが、首相周辺からは「(記者)会見の方が楽だったな」という声も聞かれました。
どういうことかというと、通常『ぶら下がり』は数分で終わりますが、今回は18分あり質問も多く出されました。『ぶら下がり』だと、首相も矢継ぎ早に質問がきた時に、十分な準備をする間もなく即座に回答しなければなりません。首相側のリスク管理としては、正式に会見した方がよかった、“まずかったな”というニュアンスが含まれています。
■「辞職しか落としどころがなかった」
山田広報官の処分がなぜ議論になるのかというと、接待を受けた当時は総務省の審議官で官僚でしたが、退職して「内閣広報官」として、政権内の立場となっていたため、総務省では処分ができず、本人がどう判断するかが注目されていたのです。そんな中、体調不良を理由に辞職となりました。
ある政府関係者は、「与党から(山田広報官では)『もたない』という声が相当でていた。自ら辞めるという落としどころしかなかった」といいます。
つまり、内閣広報官になってから起こした不祥事ではないので、菅首相が山田広報官を更迭することはできず、さらに、もし更迭すると、バランスとして、総務省の処分された官僚も辞めさせなければならなくなるという問題もありそれも避けたかったということがあります。その点、山田広報官が自ら「辞めます」と言ってくれれば、こうした問題は起こらないので、辞職しか落としどころがなかったということなのです。
ある野党幹部は、「身内が絡む問題だけに、首相の判断がまた遅れた」、つまり身内に甘いと指摘しています。政権への新たなダメージとなった形といえます。
(2021年3月1日16時ごろ放送 news every.「ナゼナニっ?」より)