パンデミックへの備え…“有事対応”の課題
新型コロナウイルスの感染拡大で問われる“有事対応”。パンデミックという有事にどう備えるのか。ワクチン接種で様々な課題が浮き彫りになっています。「ワクチンと危機管理」をテーマに解説します。
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菅首相「ワクチンは1人1人の命を守る切り札だと」
周辺に「ワクチンが行き届けば世の中の空気も変わる」話している菅首相。しかし、日本は接種が進む他国と比べ、大きく後れをとっています。
菅首相「有効性・安全性に配慮した結果時間を要した」
ワクチン承認が下りたのは今年2月。さらに、ワクチンの確保が難航し、2月、3月の段階で接種を受けられたのは一部の医療従事者にとどまりました。
4月、高齢者への接種が始まりましたが、ここでも問題が…。
立憲民主党・尾辻かな子議員「私はいつまでに(高齢者が)打ち終わるかということを聞いております」
菅首相「いずれにしろ地方自治体にお願いをしますので、進み具合というのは、これ政府としてやはり注視していかなきゃならないと思ってます」
接種の実務を担うのは地方自治体ですが、ワクチンが届く時期などが示されず、当初、現場は混乱。打ち手の確保などを手探りで進めざるを得ない状況が続きました。この間も、感染拡大が続き4月23日には3度目の緊急事態宣言発出に追い込まれた政府。
菅首相「私自身が先頭に立って、ワクチン接種の加速化を実行に移します」
菅首相は「7月末までに高齢者接種を終える」と時期を明言。今月になってトップダウンで大規模接種センターを立ち上げました。しかし、当初から指摘されていた打ち手不足の問題について、今になっても対応に追われています。
こうした政府の動きについて危機管理の専門家は――。
河野克俊前統合幕僚長「その場その場で後追いでやっていると思うんで、ここは国家安全保障の問題として、捉えないといけないと思います。危機管理として失敗だったと」
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ここからは、日本テレビ政治部の佐藤圭一部長が解説します。
■日本のワクチン戦略は失敗?
――危機管理の専門家であり、元自衛隊トップの人が「ワクチン戦略は失敗だった」と発言していましたが、どう考えますか?
今まで遅いのは事実で、今後どれだけ接種のスピードを上げられるかにかかっています。
政府の動きですが、1月に河野大臣をワクチン担当に指名した頃から本格的に動き出しました。4月中旬にはファイザーのCEOに直接要請するなどして、菅首相が自らワクチン確保に動きました。
そして、先月の終わり頃から自衛隊を活用した「大規模接種」や「1日100万回」という目標を菅首相が打ち出しましたが、防衛省からは突然の話に不平を漏らす声も出ました。ここまで計画的に進んできたというより、課題にぶつかっては対応しているために「場当たり的」という印象を与えてしまっています。
■ワクチン対応も“後手後手”に…
――ワクチン対応も後手後手ということでしょうか?
今一番の課題は「ワクチンの打ち手が足りない」ということです。これも、足りなくなることは予想できたのに、今になって、退職している看護師や救急救命士などの応援で増やそうとしています。
また、根本的な問題として、ワクチンを日本国内で生産できなかったことがありましたし、「厚生労働省による承認手続きに時間がかかりすぎて遅れた」という指摘もありました。これらについては、今回の反省を踏まえた改善案を政府がまとめ、近く閣議で決定することになっています。
■平時に“有事への備え”を
――政府としては、今後どうしたらいいでしょうか?
危機管理の原点に戻って対応すべきだと思います。自衛隊元トップの河野克俊前統合幕僚長は、「危機管理で一番大事なのは、最悪の事態を想定して、そうはならないように先手先手で動くことだが、それができていない」と指摘しています。
また、政府と自治体、医療機関などの連携がスムーズにできていない場面も目立っています。この背景には、今回のような緊急事態にどう対応するのかという「共通の認識」が日本にはないという問題があると考えます。
例えばPCR検査でもそうですし、外国ではロックダウンで完全に人の動きを止めたりするのに日本ではできない……つまり、危機に際して「個人の権利や経済活動の自由を、政府はどこまで規制できるのか」という問題が根っこにあります。自民党内には憲法改正も含め、「緊急事態にはもっと政府が強制力を持つべきだ」という主張もありますが、一方で、これは自由や権利の侵害につながる危険性もあります。
ただ、今後もウイルスだけでなく、大きな災害は起きるでしょうし、台湾で有事が起きる可能性も想定はしておくべきです。こうした危機に対して、政府がずるずると場当たり的に対処しないために、私たちも考えるべき課題だと思うし、共通認識を得るために国会でも冷静に議論してもらいたいと思います。