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【特集】15年ぶりに新市長が誕生!名古屋市長選を振り返る 2025年は「広沢市政 本格始動」の年に

2025年1月4日 8:00
【特集】15年ぶりに新市長が誕生!名古屋市長選を振り返る 2025年は「広沢市政 本格始動」の年に

河村たかし氏の衆院選出馬を機に行われた名古屋市長選。過去最多に並ぶ7人が出馬し、争点は河村市政の“継承”か“転換”か。選挙戦略が変化する中、SNSのあり方も問われた市長選。

■事実上の一騎打ちに…争点は河村市政の“継承”か“転換”か

11月10日に告示日を迎え、7人が立候補した名古屋市長選。15年間名古屋市長を務めた河村氏が衆院選への出馬を決めたことにより、任期を半年以上残しての選挙となりました。前副市長の広沢一郎氏と、前参議院議員の大塚耕平氏が支持を集め、事実上一騎打ちの戦いに。広沢氏は河村氏の後継候補として指名され、日本保守党の推薦を受ける一方、大塚氏は自民党・立憲民主党・国民民主党・公明党が相乗りで推薦し、愛知県の大村知事も全面支持を宣言しました。河村氏と大村知事は市と県の代表として対立を続けてきた関係だけに、“代理戦争”とも。

名古屋市東区の事務所で河村氏と肩を並べ第一声を上げたのは、河村氏の後継候補・広沢氏です。14年前に報道で見た河村氏の姿に感銘を受けたのをきっかけに東京から名古屋へ移り住み、政治の道を志したといいます。「私は(河村氏の)後継なので、(河村市政を)全てまるごと継承します。継承するどころか発展させます。」河村氏の“愛弟子”ともいえる広沢氏は、市民税減税、名古屋城天守の木造復元、市長年収800万円など、河村市政の“まるごと継承”を公約に掲げました。アピール方法は、師匠である河村氏おなじみの“自転車街宣”です。河村氏が街宣車に乗り込み、その後ろを自転車に乗って追いかけます。河村氏の「アーユーレディ?」という呼びかけに「はい、OKです!」と答える広沢氏。二人三脚での選挙をスタートさせました。

多くの人が行き交う栄で第一声を上げたのは、前参議院議員の大塚氏です。市長選への出馬を表明したのは、告示日の1年以上前の2023年6月でした。「(市民税)減税も、名古屋城の問題も、また何年もこの話題で過ごすことになったら世界が早いスピードで回っているので名古屋はどんどん遅れていきます。名古屋をアップデートさせてください。」大塚氏は河村氏が市民税減税や名古屋城天守の木造復元について説明責任を果たしていなかったと批判し、“アップデート名古屋”をテーマに給食費無償化や認知症対策などを公約に掲げました。大塚氏の出陣式には、相乗りで推薦した各政党の議員たちの姿が。さらに、大塚氏を支持すると宣言した大村知事もマイクを持ち、「県と市がしっかり連携しなければならんと、大塚耕平さんとだったら一緒にできるんです。」と集まった市民に訴えかけました。
今回の市長選で争点となったのは、15年続いた河村市政の“継承”か“転換”か。広沢氏は河村市政を継承し、市民税減税については減税幅を5%から10%に拡大すると主張しました。対する大塚氏は、市民税減税は効果を検証してから判断し、名古屋城天守の木造復元は計画が止まっている経緯などを市民に説明してから進めるとしました。

■“選挙モンスター”の強さとSNS選挙の課題が明るみに

当初、4政党と大村知事の支持を受け、“与野党相乗り”の大塚氏が優勢と思われました。しかし、予想に反して大塚氏は苦戦を強いられることに…。それは、衆院選でも他の候補者を圧倒した“選挙モンスター”河村氏の存在です。河村氏が広沢氏とともに街頭演説に現れると、瞬く間に人だかりができるほどの人気っぷり。「河村さんを一目見たくて…」と2人の活動スケジュールを調べ、街頭演説を聞きに来る人もいました。
さらに大塚氏を苦しめたのは、SNSに広がる“デマ”です。選挙戦が始まった当初から「敬老パスの拡充」を主張していたにもかかわらず、SNS上には「大塚氏は敬老パスを廃止する」などと嘘の情報が飛び交っていました。対策のため、デマの内容を打ち消すようなポスターやチラシを新調したり、動画を作成するなどの対応に追われることに。大塚氏は「選挙に影響が出ている。民主主義の危機といってもいい。」と頭を悩ませました。

一方、広沢氏はSNSの追い風を感じていました。選挙活動の様子をこまめに発信し、公職選挙法で街頭活動が規制されている夜8時以降も動画投稿サイトで河村氏とともに視聴者の質問に答える生配信をするなど、SNS戦略に力を入れました。選挙戦の後半には、広沢氏の活動を追いかける配信者が現れ、ネット上で話題にされるようになったといいます。広沢氏は「この1,2年、SNSが選挙を動かす流れができてきた感はある。発信の仕方が今までは街頭(が主流)だったけど、街頭とネットと同じくらいやらないと勝てない。」と話しました。追い風の反面、河村氏はSNSのあり方に疑問を感じていました。「不思議なのはこんだけ公職選挙法で文書の発行とかには厳しい制限があるが、SNSは全く自由。この辺はどうなっていくか知らんけど。」

■広沢氏 約13万票の差をつけ圧勝

投開票当日の11月24日。投票締め切りの午後8時、各社が出したのは、「広沢氏 当選確実」の速報です。結果は、広沢氏が大塚氏に約13万票差をつけ圧勝。中京テレビと読売新聞が共同で行った出口調査によると、広沢氏は無党派支持層の約5割からの支持を集めました。当選確実の報道と同時に、河村氏にはおなじみの勝利の“水かぶり”を披露し、喜びを語りました。「河村市長の政策と理念を引き継ぐというこの一点で私は勝負したので、それが有権者の心に響いたんだと思いますね。名古屋市民の15年間河村市政に対する信任が厚かったんだなというのが一番だと思います。」

同じ時刻、大塚氏の事務所には大勢の支持者が集まり、広沢勝利の報道が出た瞬間、ため息や驚きの声が上がりました。中京テレビと読売新聞が共同で行った出口調査によると、推薦を受けた公明党支持層の約7割の支持を固めましたが、自民党支持層の約4割、立憲民主党支持層の約6割、国民民主党支持層の約4割と支持を固めきることができず。大塚氏は集まった報道陣に対し、自身の力不足が敗因だとした上で、SNSでデマが拡散したことについても言及しました。「(SNS上で)デマ、誹謗中傷、レッテル貼りの影響がある程度あったと思う。ある意味、選挙妨害に近い行為なので今後どういう風に対応していくか政治全体の課題だと思います。」

名古屋市長選の直前に行われた兵庫知事選でも、SNS上のデマ拡散が問題に。斎藤元彦知事が再選を果たしましたが、敗れた稲村和美氏はSNS上で「外国人参政権を与えようとしている」という誤った情報が拡散し、選挙結果に影響を受けたといいます。稲村氏は敗戦の弁で「斎藤候補と争ったと言うより、何と向き合ってるのかなと違和感があった」と話しました。SNSはより多くの有権者に政策を訴える手段として有効な一方で、一度デマが拡散すると収集がつかなくなる危険があります。今後の選挙のあり方に、課題を残しています。

■広沢“新”市長 「来年は本格スタート」

2024年12月16日、今年最後の定例会見。広沢新市長にとっての今年の漢字一文字を問われると、色紙に書いた「新」の文字を披露しました。「名古屋市政にとって私が15年ぶりの“新”市長だという思い。2025年は実質、私の市政の本格スタートの年。一新と言ってしまうと、(私は)前市長の継承なのでがらっと変えるわけではないが、私なりに新たなやり方、施策を進めていきたい。」また、報道陣からの「自分を三英傑に例えると誰か?」という問いには、「明らかに信長タイプではない。秀吉と家康を足した感じかな。ガンガン切り開くというよりはいろんな人の意見を聞いてまとめていくタイプだと思う。」と答えました。河村氏については、「河村さんは信長。喧嘩上等なところがあり、バンバンとぶつかってなんぼみたいなところがあったので。」と自身との違いを分析しました。

議会と対立を続けてきた河村氏の公約を“まるごと継承”すると宣言してきた広沢市長ですが、議会と向き合う姿勢については違いがあると、自民・民主の議員団も感じているといいます。名古屋民主市会議員団の小川俊之団長は「今までの市長と違って非常に丁寧で誠実さを感じた。しかし、(公約の)内容は議論していかなければいけないので、しっかり是々非々で対応する」と話しました。自民党名古屋市会議員団の藤田和秀団長も「丁寧に説明をすると繰り返しているので、河村前市長と真逆な姿勢で臨んでもらえたら市民にとって前向きな議論ができるのでは」と期待を寄せました。

“広沢市政の本格スタート”とされる2025年。2月に市議会が開かれ、河村市政から引き継ぐと宣言した公約がどのように議論されるか注目されます。広沢市長は各部局に対し、2月議会に向け、マニフェスト事項の調査費などの予算の規模感や、実現に向けたスケジュールの目処を決めるよう指示したと明らかにしました。市民税減税の5%から10%への引き上げについては、予算を行政改革で捻出するとしていて、2025年度一年かけて検討し、2026年度からの実施を目指します。名古屋城天守の木造復元については、河村氏と同じく大型エレベーターは設置しない方針ですが、小型昇降機は技術開発を進め、障害者団体や専門家の意見を聞きながら文化財や江戸情緒を損なわない範囲での上層階への設置に意欲を示しました。市長年収800万円については早急にとりかかるとし、12月20日に有識者で構成される審議会で意見を求めました。本来、約2800万円の市長の年収を引き下げるには条例の改正が必要になります。審議会では、800万円は市長の職務や責任に見合った額ではないと疑問視する声が上がった一方、市民の指示に応えるため特例で実現すべきだという意見も。審議会は来月、答申を取りまとめる予定で、広沢市長は2月の市議会で給与引き下げの条例案を提出する意向です。
市民と約束した公約を実現できるのでしょうか?“河村色”を残しつつ、“広沢流”をどう浸透させていくかが鍵となりそうです。

最終更新日:2025年1月4日 8:00
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