“民間企業化"する愛媛県庁「前例のないチャレンジ」成果重視、経営感覚、前例主義の撤廃…試される地方自治
“まるで税金の無駄遣いやん”
”何のためにあんな大金を使っているのかわからん”
どこの都道府県・市町村でも「県庁や役所の政策はどうですか?」などと世間話で聞くと、大抵いつも決まってこれらの“紋切り型”の評価が返ってきます。
この春、愛媛県庁はそれらの声に対して真っ向から向き合っていく覚悟を示しました。
「『成果重視政策マネジメント推進プラン』を策定しました。このプランでは、“何をしたか”ではなく、“何ができたのか”への職員の意識改革をコンセプトに掲げています」
記者会見で中村時広知事は「全国的にも前例がない」と力を込め、県庁で取り組む新プロジェクトの内容を語り始めました。
成果重視の追求、コストと経営感覚、前例主義の撤廃…。
それは、これまでの行政に対するイメージからはかけ離れた“民間企業的”なワードの数々。
愛媛県庁がこのプランを策定した、または、策定しなければならなかった背景とは。
(南海放送 植田 竜一)
「非常にハードルの低い目標ばかり」
今回、中村知事が示したプランの最大のポイントは「成果を追求していくマネジメント」です。
例えば、「この商談会を県が開催することで、〇〇件の契約件数を実現させる」といった数値目標。
これを経済、農林水産、保健福祉など、県政に関わるほぼすべての政策でそれぞれ設定。職員はこの目標に向かって業務にあたるというのです。
住民からの批判を避けるために、どうしても自治体は「非常にハードルが低い目標」を設定しがちという中村知事。
「簡単に到達できる目標は何の意味もない。決して到達できない夢物語のような目標も意味がない。『頑張ればギリギリ達成できるかもしれない』という数値目標が、組織マネジメントの面からいってもベストではないか」
もし、その目標を達成できなかった場合は、取り繕うことなく素直に“負けを認める”。そして、なぜできなかったかを分析して、次につなげる。このサイクルを繰り返すといいます。
そのために、若手職員も含めた「現場主義」でアイデアを打ち出せる体制づくりを整備。さらに、外部有識者によるチェック体制や数値目標の進捗状況をダッシュボードで“見える化”します。
384億円もの財源不足「このままでは…」
今回のプランの背景には、“強烈な危機感”があります。
中村県政が最重要と掲げる人口減少対策は、全国平均よりも早いスピードで進行。
高齢化等に伴う社会保障関係の経費増加や、県有施設の老朽化による修繕費の高騰。
そもそも県の懐事情は苦しく、「この3年間で384億円もの財源不足」と予測されている上に、世界経済の複雑化などのリスクも考えるとさらなる財政圧迫も懸念されています。
これまでの経験の延長や前例主義だけでは愛媛は立ち行かなくなる。そこで、新しい発想や手法を用いて、今ある人的・経済的資源をうまく活用しながら、私たち県民が実感できる「成果」を追い求めていく、という流れです。
“お金がないのに、新しい政策なんて追い求めることができるのか”という声も聞こえてきそうです。
これに対して中村知事は。
「これまで『スクラップ&ビルド』という言葉はよく聞く。それは、スクラップして浮いた財源で何かをやると。ただ、これはどちらかというと消極的前進。これからは『ビルド&スクラップ』。逆転の発想でいく。まず、やるべきことをやって、じゃあそれを実施するために何をやめて財源を捻出するか。そういう発想の中で物事を組み立てていく」
「“自治体に倒産はない”ということはもう過去のことであり、倒産がありえる時代に入った」
かつて2010年の就任あいさつでこう述べた中村知事。
いわゆる「三位一体の改革」で、財源・権限が地方に移譲されると同時に、“借金”も地方が請け負うことになった。だからこそ、前例踏襲を排除して、経営感覚をもって新たな成果を求めていく。
そうしないと、地方自治は崩壊するー。
その中村県政に通底している意識が「国に依存したメニュー選択型行政から、みずから考え、みずから行動する政策立案型行政への転換」(2012年12月県議会での答弁)
今回、最近の不安定な社会・経済情勢を受けて、愛媛県庁が「急に」民間企業的な感覚になったのではありません。
あくまでもこれまで続けてきた改革の「延長線上」での動きととらえるべきだと考えられます。
愛媛県は今、ベトナムやインドなどと県内企業との間でビジネスマッチングや商機を模索しています。
“海外に出張して何か成果につながるの?”
こうした声へのアンサーとして県は下記のような数値目標も今回新たに設定しています。「非常に低くはない」目標です。
・2025年度までに「ベトナム地方政府との協定を生かした県関与成約額年間5000万円(現在0円)」
・2026年度までに「インドでのマッチング件数50件(現在12件)」
今回の県庁の内部的・組織的な変化が、私たちの暮らしへ与える影響は限定的かもしれません。
ただ、時に保守的とみなされることもある自治体”ですら”、この複雑な時代に対応しようと動き始めていることには注目です。
変わっていく県庁の姿を見て、民間企業や私たちはどう変わっていくのか。街づくりにしても地域経済の活性化にしても防災にしても、何でも“公”頼みになるのではなく、“民”からも動いていけるのか。
そこが、愛媛の発展と衰退の分水嶺かもしれません。