貧困なくすため「共感のハブ」カフェを運営
インターナショナルスクールを卒業した直後、19歳で起業した山田果凜さん(20)。社会問題に取り組む人を増やし、子どもの貧困をなくすことを目指す。貧困に直面したインドでの体験や、山田さんが目指す世界について聞いた。
■“楽しそう”から社会問題に興味を
山田さんは、沖縄県中頭郡で、ルワンダ産のスペシャリティコーヒーを提供するカフェを運営。事業を通して「社会貢献の壁をなくすこと」を目的にしている。
「社会貢献という言葉はとっつきづらくて、遠い世界の話に感じてしまう。その背景にあるストーリーを知り、共感できたら“自分ごと”になるのでは。そんな思いから、共感のハブを目指してお店を運営しています。お涙頂戴にはしたくないので、味も美味しいスペシャリティコーヒーからはじめました」
コーヒーの他にもルワンダのアクセサリーなどを販売。毎月の売上から5%を現地の支援団体へ寄付しているという。各商品で共感を生んだ先には、社会課題にアクションする人を増やして、子どもが貧困に陥らない未来を描いている。
「子どもの貧困の背景には、複雑な社会問題があります。政治や経済、文化などが絡み合い、望んでいなくても人が人を苦しめてしまう状況があると感じています。解決するためには、関心を持つ人、行動する人が増える必要がある。事業を通して、私自身が楽しそうに社会課題に取り組む姿を通して、アクションする人を増やす。それが私のライフミッションです」
■日本で生まれた自分にできること
10歳の頃からタイで過ごしていた山田さん。語学に打ち込み、地元進学校への切符を手にするものの、自身の存在価値を見失い、学校に行けずに引きこもる日々が続いていた。そんなとき、父の出張に連れられて訪れたインドで貧困問題に出会った。
「物乞いをする子どもはタイでも見慣れていましたが、インドではその勢いが凄くて。観光バスで町を回っている最中、物乞いの子どもたちの勢いにのまれて、ガイドさんたちとはぐれてしまいました」
そのとき、7歳の少年に助けられた。流暢に日本語を使いこなすその少年は5か国語を話し、ツアーガイドを買って出た。少年を取り巻く環境を聞かされ、山田さんは衝撃を受けた。
「なぜ5か国語も話せるか聞くと、観光客と話すために自分で学んだといいます。なんでそんなに必死になるのかといえば、貧困地域に暮らす子どもたちは、稼がないと臓器売買のために病院に送られるというんです。彼は、自分がノルマ以上に稼いで、友達も救いたいと言いました。それを聞いて、彼に魅了されたというか、シンプルに助けたいと思いました」
山田さんは、父にその子を養子にしてほしいと頼んだ。しかし、その場に居合わせた、国際機関で働いていた父の友人に「同じ子が100人いたら誰を選ぶの?」と諭されたという。そして、現状を知るために、児童養護施設でのボランティアを勧められる。
「当時は、貧困の人は努力をしていないからだと思っていました。その少年のように、努力する人は一部だろうと。しかし、施設に行くと、同じ様な子どもは100人どころではなく、もっとたくさんいると知りました。
一方で、施設で命が救われた結果、夢を叶えた人もたくさん見ました。シェフになりたいといって実現した人、大学を作りたいといって実現した人。無限の可能性がある命。そんな命が、日本円で数十円の食事が食べられないことが原因で助からない。この状況をなんとかしたいと思いました」
1か月のボランティアを終える時、施設の院長に「日本で生まれたあなたには違う形で貢献できる可能性がある。もっとビッグになって帰ってきて」と言われたという。この言葉が「自分の命を最大限にいかすようなことをしたい」と思う原点となった。
■ソーシャルビジネスという選択肢
中学卒業後、日本に戻り沖縄で暮らしながら、長期休みはできるだけ海外ボランティアに通った。将来の目標は、世界中で働きながら、仕事以外の時間でボランティアをすることだった。仕事と社会貢献は別と考えていたという。
転機になったのは、高校3年生の冬に参加したルワンダでのインターンシップ。そこで、仕事と社会課題解決を同時に行う、ソーシャルビジネスの考え方を教えてもらった。
「社会課題の解決は、お金をもらわずにするものだと思っていました。それが仕事と同時にできる。そんな方法があるなら挑戦してみたいと思いました」
早速、ビジネスコンテストにむけて、プランづくりに取り掛かる山田さん。しかし、発表の前日に、一緒にプラン作りをしていた仲間から「なぜコンテスト用のプランを考えるだけで、実践しないのか?」と問われたという。
「経営学を学んでないので、できないと思っていましたが、話していると実践が一番の学びだと感じられるようになって。正解がわかってから始めるよりは、模索しながら進むのが、自分のあり方なのかなと思いました」
実践の第一弾として、ルワンダの伝統工芸品を使ったアクセサリーを制作・販売して、現地のシングルマザーをサポートするプロジェクトを立ち上げた。クラウドファンディングを実施したところ、180人を超える支援者から160万円が集まった。
ところが、準備を進める中で、新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、海外への渡航が難しくなる。そのまま何もしないのではなく、できることから始めよう。そう考え、急ピッチでカフェ事業の立ち上げに切り替え、現在に至る。
■考えながら実践
数字と向き合う経営に苦戦することも多いが、事業を始めたことで気づけたこと、共感者が増えていることは、自身のミッション達成に追い風だという。今後は、ルワンダのコーヒー以外の製品も扱い、より多くの人に届けていきたいという。
「プラスチックごみを活用して作ったエコプロダクトなど、持っていることがかっこよくて、しかもソーシャルグッドにつながるようなものを作りたいです。また、カフェ空間を交流の場にしたり、オンラインを活用して、人と人が出会う場所をつくることも考えています」
神戸や東京など、店舗を増やす計画も浮上しているという。ただし、相対的貧困家庭が多い沖縄から始めたという文脈は大事にしたいと話す。
事業はあくまでも手段の一つ。今後も、一活動家として、できることを考えながら実践していきたいと語る。
「これからも現場は大事にしていきたいです。私自身、ボランティアをしたことがあるのは5か国だけ。もっといろんな国や地域で学びたいです。そして、みんなが『これだったらやりたい』という活動のモデルを作っていきたいです」
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
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