WEBマガジンで社会問題に解決アイデアを
「社会課題の解決に自分が携われると感じてほしい」そんな思いで、サステナビリティに関するWEBマガジンを運営する加藤佑さん(36)。マガジン編集長としての思いや、社会課題との向き合い方を聞いた。
■解決策と課題をセットで届ける
加藤さんが創刊し、編集長を務めるWEBマガジン「IDEAS FOR GOOD」は、社会問題解決につながる“クリエイティブ”な取り組みを発信している。「海水だけで充電できるランタン」「ボトル自体も石けんでできているゴミが出ないソープボトル」「新聞から作る木に近い素材」など、サイト上にはユニークなアイデアが並ぶ。
運営で大切にしていることは3つ。1つ目は、国内だけでなく海外の情報も伝えること。2つ目は、サステナビリティや循環経済の専門性を持って情報発信すること。そして3つ目は、社会問題そのものだけでなく、解決策もセットで紹介することだ。
「デザインやテクノロジーやアートなど、様々な切り口の解決策とセットで紹介しています。例えば、海洋プラスチック問題に関心がなくても、デザイナーの人にはデザイン関連の記事だったら読んでもらえるかもしれません。社会問題に気づいてもらい、『自分のデザインの力を使えばこういう問題が解決されるんだ』と感じてほしい。問題だけの紹介だと、その問題に興味がある人しか集まらないかもしれませんが、解決策だったら手法に興味がある人にも読んでもらえます」
社会問題を知るだけでなく、「自分とは遠い」と感じている人に「携われるかもしれない」と感じてもらうことを狙っている。また「正解はない」ということも常に意識している。
「何がサステナブルで、何がサステナブルではないか。突き詰めて考えると、定義はとても難しい。どんな取り組みにも問題はありますし、逆に良い側面もあります。絶対的な正解がないことを前提に、安易に否定せず、活動する人に寄り添うことを念頭においています」
■自分の“好き”で社会に役に立てばいい
加藤さんが社会問題に関心を持ち始めたのは小学生の頃。環境教育に熱心な教師から影響を受けたという。環境や社会に対して何かしたいという思いを持ち続け、東京大学に進学してからは、団体を立ち上げて高校生向けの進路相談会を行ったり、教育分野のNPOに所属したりして活動した。
起業することも考えたが、当時は自信がなかったという。大学卒業後は、総合人材サービスを提供する企業に就職して営業力を磨いた。2年半ほど働く中で、営業に対するコンプレックスはなくなったという。その後、知人のベンチャー企業で4年弱働き、WEBメディアの制作や運営の経験を積む。
2013年、人材企業時代の先輩と一緒に、法人向けにサステナビリティに関する情報発信やコンサルティングサービスを提供する会社を立ち上げる。
「学べることが多い仕事でした。CSR担当者など、サステナビリティを仕事にしている方と本格的に関わったのも初めてだったので。海外の情報を日本向けに伝えていたことは、今でも財産になっています」
サステナビリティに関するメディアを運営する中で、社会に貢献する“自分らしいやり方”に気づけたという。
「今もですが、僕は特定の社会課題に興味があるというよりは、幅広く社会全体に興味があります。広いテーマに対して、自分がどんな手段で貢献できるかずっと考えていました。その中で、“書くこと”が得意と気づいたのが30歳前後のとき。自分が書いた記事を見て、会いたいと連絡をくれた人がいたのです。そのとき、自分は書くことで世の中の役に立てるかもしれないと思いました。書くことは好きでしたし、これを突き詰めれば世のためになると気づきましたね」
世の中の役に立ちたいものの「どうやったら貢献できるか悩んでいる人も多いのではないか」と加藤さんは続ける。
「社会貢献の手段というか、自分が何をやりたいのか見つかった瞬間に、心が楽になると思います。僕自身もそうでした。コンプレックスだと思っていたことも、書くことが得意と気づいてからはどうでもよくなりました」
書くことで社会問題を解決する。自分の役割に気づいた加藤さんは、その後、サステナビリティに関する情報を一般生活者により身近な形で発信するため、現在の会社を立ち上げた。
■関心がない人が必ずしも悪いわけではない
加藤さんの活動は、WEBメディアの枠を超えて広がっている。コロナ禍になる前は、ヨーロッパへの視察ツアーなどを行っており、今年は横浜でのフィールドワークなども行っていた。最近では、オンラインツアーも企画している。
また、サステナビリティを体験できる場として、三菱地所と連携してオフィス空間を活用した展示も行う。三菱地所本社のスペース内に、IDEAS FOR GOODが取り上げたものを中心に、環境問題や社会問題の解決を目指すプロダクトを並べている。
「今後は、メディアとしての可能性をもっと拡張していきたいです。記事で伝えられることはごく一部なので、実際に人から話を聞いたり、ものに触ったり、匂いを嗅いだり、そういうリアルな体験がものすごく大事だと思います」
ただ、興味を持つことが全てではないという側面も。サステナビリティに興味があることと、実際に環境負荷が低い暮らしをしていることは、必ずしもイコールではない。加藤さん自身も、社内でカーボンニュートラルを目指して事業部ごとのCO2排出量を調べると、コロナ禍になる前は出張の多いIDEAS FOR GOOD運営部門がワースト一位だったという。
「それを上回るだけのCO2排出削減につながる情報を発信できればいいと思いつつも、足元だけを見れば自分たちもそういう状況です。生ゴミや落ち葉などの有機物から肥料をつくるコンポスト機器を設置したり、マイボトルを使ったりしながらも、ゼロウェイストの暮らしができているわけではありません。関心がある自分でさえそうですし、その逆に関心がない人が必ずしも悪いとも思いません」
何が正解かを定義するのは難しい。大事なのは、その人らしく、幸せが持続する形で行動を続けることだという。
「気持ちよく過ごせるからやる、という以上に突き詰めることが良いかというと、必ずしもそうではないと考えています。その人が幸せでなければ意味がありません。まずは自分自身を幸せにすること。理想の社会は一人ひとり違うと思いますし、答えがないものですが、自分の好きなことや得意なことをいかして社会の役に立てる世の中にしていきたいです」
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。