超高齢社会支える「社会の福祉化」目指して
少子高齢化の進展により、長年課題となっている介護現場の人手不足。こうしたなか、介護・福祉領域の人材支援に特化したサービスを展開する株式会社Blanket。
介護に興味のなかった代表の秋本可愛さん(30)が、学生時代に起業して介護の課題に可能性を見いだすまでの思いを聞いた。
■コロナ禍で新たに生まれた課題に対応してきた2020年
介護業界で働く人たちをつなぐコミュニティの運営や、介護業界の人材不足解消にむけた人事支援、そして介護の魅力や価値を発信するPR活動。秋本可愛さんの会社では、これら3本の軸を中心とした事業を展開する。
学生時代に立ち上げた会社は、今年で創業9年目。2020年から続く新型コロナウイルス感染症の流行を受け、現在は現場から寄せられる悩みや苦労の解消につながるプロジェクトにも取り組んでいる。
「コロナ禍の中で、介護職は人の生活に寄り添うエッセンシャルワーカーとして、なくなることはない仕事だということが改めてわかりました。
ただ、コロナ前から続く人材不足の課題は今もなお解消されておらず、有効求人倍率は高止まり。おまけに、コロナの影響で1年前から合同説明会ができなくなったことから、学生へのPR機会が激減しました。
私たちは、いかにオンライン上で魅力を伝えていくのか、ブランディング支援も含めてさまざまなサポートを行っています」
最前線で働く介護現場の人たちから相談や情報が寄せられる中、自宅でリモートワークが可能な自身に対して、これでいいのかともやもやした感情も抱いたという。
「どう感染対策をしたらいいのかわからない。感染対策をしながら介護の質をどう維持していけばいいのかについて悩んでいる。アルコール消毒が手に入らない…。
こうした現場からの情報が入ってきやすい状況にある私たちだからこそ、できることがあるはず。そう考え、柔軟に対応してきたのがこの1年でした」
■もともと、介護への興味はまったくなかった
秋本さんと介護との出会いは、大学で携わった起業サークルだ。介護領域で事業を考えるチームへ参加することになったが、当時は介護領域への興味関心はまったくなかったという。
チームでは、あるチームメンバーの大好きな祖母が認知症になり、自分のことを忘れられてしまったという経験から、フリーペーパー「孫心(まごころ)」を発行することに。フリーペーパーのコンセプトは、認知症予防につながるコミュニケーションツール。
実際に認知症の人と接した経験が浅かった秋本さんは、認知症を知るため、介護現場での見学を経て小規模デイサービスでのアルバイトを始める。そこで見たのは、きれいごとだけでは済まない介護の現実だったという。
「認知症のある方を虐待する家族もいるような現実を知り、『生きていることが申し訳ない』と苦しんでいるおばあちゃんとも出会いました。日本は長寿を誇っている国なのに、自分や家族の老いが最後には負になってしまう。生きていることを申し訳なく思いながら最期を迎える人たちがいる現状に対して、『このままだと嫌だ』と思ったんです」
また、課題を抱えているのは福祉事業者も同じだった。
「事業者ごとに閉鎖的にならざるを得ない部分があり、閉塞感や疲弊感の大きさを感じました。行政と事業者は本来手を組んで人手不足に取り組む間柄なのに、連携がうまくいかずに不満が生まれていたりすることを知ったんです」
秋本さん自身、家族に要介護者がいたわけではない。
「介護こそが自分のやるべきことだ」と明確に思うきっかけがあったわけでもなかった。
しかし、現場に入れば入るほど、知らなかった課題が見えてくる。一歩一歩深みに入っていくように、秋本さんは介護の世界に入り込んでいった。
「本当に、じわじわですね。いつしか、抜けられなくなっていました」
学生最後の年に、介護・福祉事業者むけ採用・育成支援事業に取り組む会社を設立した。
■「ケアの循環」と「社会の福祉化」を目指したい
新型コロナウイルスにより、物理的に閉鎖的にならざるを得なくなっている介護施設。介護施設内にウイルスが持ち込まれることを防ぐため、職員たちの行動にも制限が生じている。
人をケアするケアワーカーも、みんなひとりの人間だ。しかし、ケアワーカーのケアはどうしても後回しにされてしまっている。
そんなケアワーカーをケアするため、秋本さんは「ケアワーカーをケアしよう」という、介護従事者を応援したい人たちから寄付を募り、化粧品や家事代行サービスを介護従事者に贈るプロジェクトを新たに始めた。
感染予防のため施設に自由に出入りができなくなり、どう感謝を表したらいいのかわからないと悩んでいた利用者の家族の想いをつなぐこの取り組みは、社会実験的な意味もあると秋本さんは言う。
「挑戦したいのは『ケアの循環』。今後、ますます社会全体でケアを必要とする人は増えていきます。家族にケアが必要なときはケアワーカーに頼ることができて、ケアワーカー自身がしんどいときは、誰かに甘えることができる。
高齢者や障害者も、ケアされるだけでなくケアする側になれる。そんなケアをする側とされる側が固定されずに、互いに助け合えるようになる。これが、ケアの循環です」
また、中長期的には人材確保も根強い課題だ。
秋本さんは、「高齢化が進む2040年には、就業者の5人にひとりが医療福祉に従事する必要があると言われています。ただ人材確保をしていくだけではなく、医療福祉従事者だけにケアを担わせない形を模索したいと思っています」と語る。
そこで、秋本さんが見据えるのが「社会の福祉化」だ。介護専門職だけがケアを担うのではなく、社会全体を福祉に適したつくりに変えていく。すでに、配送業者による配達時の見守りサービスや、ケアマネージャーが在籍しているコンビニエンスストアも出てきているという。
秋本さんは「あらゆる産業に、新しい発想が求められていくと思います。私たちもできることを模索していきたいです」と話す。
また、事業者、家族、要介護者が抱える葛藤は、見方を変えれば新たな可能性を秘めているという。葛藤があるということは、課題は見えている状況ということ。試行錯誤をした結果、今までになかった方法や考え方に行き着くかもしれない。
秋本さんは、「Blanket」という社名にこめた想いを教えてくれた。
「幼い子どもが安心のために握りしめているブランケットは、成長に寄り添う存在です。私たちも、そんなブランケットのように葛藤に寄り添える存在になりたい。これからも、現場のニーズをお聞きしながら可能性を見いだしていきたいです」
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
■「Good For the Planet」とは
SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。