【解説】実は“大雨に弱い”東海道新幹線 3日連続でストップ 「盛り土」上のレール…構造に弱点
なぜ、ここまで東海道・山陽新幹線で混乱が続いたのでしょうか。
まずは運転を見合わせた経緯です。15日は台風7号の直撃が予想されたため、「名古屋」~「岡山」の間で終日「計画運休」としていました。
その後、午後2時過ぎにはなんとか運転が再開されましたが、運転見合わせの時間は最大5時間半にも及びました。
そして17日朝、16日の遅れの影響で午前中は下り線の「浜松」から「新大阪」の間、上り線では「博多」から「浜松」の間で一時、運転見合わせとなりました。今も遅れが続いているということで、Uターンのタイミングでの混乱は非常に影響が大きくなっています。
17日の「知りたいッ!」のポイントは――
◇東海道新幹線“大雨に弱い”?
◇なぜ、全区間でストップ
以上の2点を詳しくお伝えします。
実は東海道新幹線は、ほかと比べると比較的“大雨に弱い”といわれています。その理由は意外なところにありました。
東海道新幹線の雨による運転規制にかんするルールでは、沿線の59か所に「雨量計」があり雨の量を計測しています。その中で、運転見合わせの規制値がルールで決まっています。
●「1時間雨量が60ミリ以上」
●「1時間雨量40ミリ以上で、連続降雨量が150ミリ以上」
●「連続降雨量300ミリ以上で、10分間に2ミリ以上」
これらに「土壌雨量指数」という別の指数も加味にして、どれか1つでも規制の値を超えたら、安全のために運転を見合わせることになっています。
16日の静岡での局地的な大雨では、午前8時半ごろから3時間ほどの間に「1時間に60ミリ以上」を2回、「1時間雨量40ミリ以上で、連続降雨量150ミリ以上」を4回、あわせて6回も基準に達してしまいました。これが今回、運転見合わせが長引いた理由の1つです。
■早かった建設時期…東北新幹線とは違う“土台”
東海道新幹線は一般的な雨には普通の運行ができますが、大雨にはほかの新幹線と比べると“比較的弱い”といわれています。鉄道ジャーナリストの梅原淳さんによると、その理由は、東海道新幹線の“造り”にあるそうです。
東海道新幹線と東北新幹線を比べると、線路を敷く土台が違います。1982年に開業した東北新幹線は、コンクリートでできた高架線の上を走る区間がものすごく長いです。
一方で1964年に日本で初めて開業した東海道新幹線は、盛り土の上に線路がつくられた区間がすごく長いです。建設時期が早かったので、コンクリートの高架に線路をつくる技術が十分に確立しておらず、土を盛って、その上に砂利を敷く従来の方法でつくられたそうです。
東海道新幹線の開業2年前に放送された映像には線路を建設する風景も記録されていて、砂利の上に丁寧に線路を敷き、固定している様子が記録されていました。東京オリンピックに間に合わせて開業しようとして、とにかく急ピッチで建設作業が進められていました。
もちろんその後、JR東海は雨対策を強化はしてきていました。それでも、過去にはこんなこともありました。
1990年、台風19号で愛知県内の線路脇の盛り土が流出し、東海道新幹線が終日ストップ。駅は大混乱となりました。このときは、続いて襲来した台風20号でも神奈川県内で土砂崩れが発生し、新幹線の車内や駅の中で混乱が起きたということです。大雨が降ると盛り土が緩んだり、線路際の土砂が崩れるリスクも高まります。
そして17日のもう1つのポイントは、静岡の局地的な大雨なのに「なぜ、全区間でストップ」したのかという点です。
JR東海によると「仮に折り返し運転をどこかでしたとしても、どこかの駅で客が滞留してしまうと、さらに混乱が起きてしまうおそれもあったため、全線ストップした」ということです。
鉄道ジャーナリストの梅原さんによると、16日は計画運休明けでUターンのピーク。新幹線の車両がフル稼働だったそうです。ただこの状態だと、どこかで1つでも立ち往生が起きてしまうと、それにつられて駅と駅の間でたくさんの列車が止まってしまうおそれもあったといいます。
しかも、ネックとなるのが「新大阪駅」です。
「新大阪駅」は東海道新幹線と山陽新幹線などの境目の駅で、東海道新幹線だけ止めて山陽新幹線は新大阪で折り返し運転すればいいのではと思いますが、JR西日本によると「東海道新幹線がいつどこで止まるかを受け、ダイヤを組み直さないといけない。新幹線を走らせながら複雑なダイヤを考えるのはなかなか難しい」と述べました。
さらに、鉄道ジャーナリストの梅原さんも「西から来たフル稼働の山陽新幹線などを全部『新大阪』で折り返し運転するのは、ホームもふさがって、ダイヤも乱れていくので事実上、無理だったのではないか」と話していました。
「計画運休にしておけばよかったのでは?」という質問も出ると思いますが、JR東海に取材すると「突然の局地的な雨では、計画運休するかの雨予想が難しい」と回答していました。
◇
鉄道会社もさまざまな努力を重ねていますが、局地的な大雨は予測するのが難しいのが現状は続きそうです。少しでも鉄道で混乱が予想されるときはなるべく利用を控え、混乱に巻き込まれないようにすることが、利用者にとっては最大の防衛策といえそうです。
(2023年8月17日午後4時半ごろ放送 news every.「知りたいッ!」より)