観光船沈没 最後の通信は5分の電話……乗客「飛び込むこともできない」 報告書を発表 事故原因は“ハッチの異常”か
北海道・知床半島沖で4月、観光船「KAZU 1」(カズワン)が沈没した事故をめぐり、国の運輸安全委員会が15日、報告書を発表。事故原因の1つに「ハッチの異常」を挙げました。沈没直前の無線や乗客の通話など、最後のやりとりも明らかになりました。
■復元された乗客の写真…報告書を発表
知床半島にある滝や、荒れた海。運輸安全委員会が提供したこれらの写真は、観光船カズワンに残されていたカメラから復元されました。撮影したのは、カズワンの乗客です。
事故からまもなく8か月となる15日、同委員会が70ページにも及ぶ報告書を発表しました。それによると、カズワンは4月23日午前10時ごろ、乗客乗員26人を乗せてウトロ漁港を出航しました。
■船長「沈みかけている。救助してくれ」
午後1時7分ごろ、船長から「ちょっとスピードが出ないので、戻る時間、結構かかりそうです」と報告がありました。その後、無線機から「浸水している」「救命胴衣を着せろ」という声が聞こえてきたといいます。
すると船長は「船が浸水してエンジンが止まっている。船の前の方が沈みかけている。救助してくれ」と要請。これを受け、無線を聞いていた人物は同13分ごろ、海上保安庁に118番通報しました。
「いずれこの電源も使えなくなる。電気も落ちる」。船長はこう言い、会話を続けようとしましたが、ここで無線が使えなくなってしまったといいます。
■乗客が最後の電話「今までありがとう」
報告書では、携帯電話を使って乗客が家族に伝えた内容も明らかになりました。
「船が沈みよる、今までありがとう」(午後1時20分ごろ)
別の乗客
「船首が浸水して船が沈みかかっている、浸水して足まで浸かっている。冷た過ぎて泳ぐことはできない、飛び込むこともできない」(同21分ごろ)
この電話がつながっていたのは5分ほどでした。それ以降、カズワンの乗客乗員との通信は確認されていません。報告書によると、カズワンは午後1時26分以降に、短時間のうちに沈没したということです。
■ガラス窓からも大量の海水が浸入
報告書では、沈没の原因についても推定されています。その1つに挙げているのが、50センチ四方の「ハッチ」と呼ばれる、船内への出入り口です。
報告書によると、このハッチのふたを閉める4つの留め具のうち3つが機能せず、船の揺れによりハッチのふたが開いた可能性があるといいます。開いてしまったハッチからは相当量の海水が入り込み、甲板の下にある空間に流れました。
当時は波の高さが2メートルあったといいます。その威力でハッチのふたが外れ、すぐ後ろの客室のガラス窓が割れ、そこからも大量の海水が入ったとみられるということです。
運輸安全委員会は「ハッチに異常がなければ沈没していなかった」としています。
(12月15日『news zero』より)