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77回目「原爆の日」 “被爆バイオリン”で奏でる「ロシアとウクライナをつなぐ平和の音色」 池上彰氏が取材

2022年8月5日 21:46
77回目「原爆の日」 “被爆バイオリン”で奏でる「ロシアとウクライナをつなぐ平和の音色」 池上彰氏が取材

広島は6日、77回目の「原爆の日」を迎えます。ロシアによるウクライナへの侵攻により、かつてない“核の脅威”が迫る中、今、広島から何を発信すべきか。ウクライナと広島、両方に関係が深い人の思いを、池上彰氏が取材しました。

   ◇

5日午後、広島市で池上氏が出会ったのは、平石エレナさん(43)です。22年前、日本語を学ぶためウクライナから来日しました。日本人の夫と結婚し、3人の息子がいます。

――ご両親がロシアとウクライナ?

ウクライナ出身 平石エレナさん(43)
「お母さんがロシア人で、お父さんがウクライナ人」

――ご両親の国が戦争しているというのは、たまりませんね

平石エレナさん
「そうなんです。信じられない」

二男 幸一さん(16)
「同じ民族の人が危険にさらされていると、心苦しい」

ロシアの侵攻から約5か月。心配な日々を過ごしてきました。激しい戦闘がつづくウクライナ東部・ドネツクには、友人がいます。友人は「家で一番安全だから」と、風呂の中で生活しているといいます。

平石エレナさん
「(友人は)逃げたいけど逃げられない」

今年3月、広島市にある原爆ドームの前で、息子たちとともに抗議の声をあげました。

平石エレナさん
「サイレントになったらいけない」

長男 大志さん(16)
「自分にはウクライナもロシアも、どっちの血も入っているので心苦しい」

去年の夏に、一家でウクライナを訪れたばかりで、息子たちも複雑です。

大志さん
「つい半年前歩いた町が、あんな凄惨(せいさん)な姿というか…」

平石エレナさん
「戦争行く軍人たちは18歳から。この子(息子)たちは16歳でしょ。お母さんの気持ちとしては、これが一番でしょ」

母親として平和を願う思い。息子たちと立ち上がりました。

15歳の三男・英心さんが、ウクライナへの思いを伝えるために企画したのは、チャリティーコンサートでした。平和への願いを込めたプログラム。4回のステージすべてが満席の大盛況でした。

平石エレナさん
「チャリティーコンサートは11回やってます。集まったお金をウクライナの人たちに送るために。『ありがとう』って気持ち」

   ◇

ウクライナでは、今も戦火が広がっています。エレナさんのおばが住む、ザポリージャ原子力発電所に近いウクライナ・ドニプロでも、空爆が始まっています。

平石エレナさん
「もし(原発が)爆発したら大変なことは、ヒロシマもナガサキも経験している。同じことになるのが一番怖い」

広島から訴える平和への思い。6日と7日に開かれる平和コンサートで、英心さんが使うバイオリンは、広島の学校で音楽を教えていたロシア人の被爆者の遺品です。

三男 英心さん(15)
「音がきれいですね」

このバイオリンも77年前のあの日、被爆していました。内側にはウクライナ語の文字が書かれていて、ウクライナで作られた可能性もあるといいます。

「原爆の日」の6日に奏でられるのは、ロシアとウクライナをつなぐ平和の音色です。

――ウクライナで作られたかもしれないバイオリン弾くのは?

三男 英心さん
「平和の願いを込めて、できるだけウクライナの人に届いたらいいなと」

6日は各国の首脳も集結し、平和への祈りがささげられます。

――(いつか)プーチン大統領に、ここに来て見てもらいたい?

平石エレナさん
「そうなんです。1回くらい広島に来てほしい。格好だけでなく、空気を吸って、資料館みて、被爆者に会って、考え方が変わるのではないか」