iPS細胞で心臓治療を…“世界初の治験”とは 研究進む「再生医療」【バンキシャ!】
日本人の「死因」で一番多いのは「がん」で、次に多いのが「心疾患」です。バンキシャ!は、この心臓の治療に関する画期的な技術を取材。iPS細胞から作った心臓の筋肉の細胞を集めたものを、重度の心不全の患者に移植する世界初の「治験」とは。(真相報道バンキシャ!)
今月18日、バンキシャ!は、群馬県で行われた祭りへ。
バンキシャ!
「おみこしが担がれていきます」
先頭でみこしを担ぐ岡村勇(おかむら・いさむ)さん、68歳。いまはみこしを担げるようになったが、以前は重い心不全に苦しんでいた。
岡村勇さん
「先生が心臓見たら、こんな悪い心臓(の人)はいないって。(心臓の筋肉の収縮が)17%しかなくて、15%以下だと心臓移植しかない」
そこで、“世界初の心臓治療”の治験に参加。その内容は、体の様々な細胞に変化できるiPS細胞を使った心臓治療の治験。どんなものなのか──。バンキシャ!が再生医療の最前線を取材した。
22日、バンキシャ!は岡村さんの自宅へ。およそ2年前、血管に複数のつまりが見つかり重度の心不全と診断されたという。
「3日間くらい息が苦しいんで、『緊急で入院しなくちゃダメだ』と言われた」と話す岡村さん。「大きな手術を受けなければ命が危ない」と医師に告げられた。
心不全は心臓を動かす筋肉の細胞・心筋細胞が減少し、収縮する力が弱まることで起きる。若い世代でも発症することがある。
岡村勇さん
「歩くとはあはあしちゃって。自転車をこいでも、苦しくってぜんぜんこげなくて」
妻・真弓さん
「もうダメだなって思ったよね」
「4か月くらい、すごいせき込んでいて。寝てたら苦しくて起き上がって、落ち着かせるのが何日かあった」
そんな時、医師からすすめられたのが治験への参加。およそ1年半前、手術を受けた。
岡村勇さん
「(心臓の)3分の1が死んでるから、そこに“iPS細胞を入れます”って」
それは、心臓にiPS細胞から作った心筋細胞を注入し、収縮する力を高め改善させるというもの。この治療法の研究を続けているのが慶応大学の福田恵一(ふくだ・けいいち)名誉教授。「心臓の再生医療」研究をけん引してきた科学者のひとりだ。
12年前の2012年にバンキシャ!が取材したときも。当時からiPS細胞で作った心筋細胞を心臓に移植することを目指していた。
今回の治験ではiPS細胞から作った心筋細胞を大量に増やし心臓に移植するのだが、大きな課題が──。
福田恵一名誉教授
「バラバラの状態の心筋細胞を移植しても、約5%しか生き残らない」
そこで、心筋細胞をおよそ1000個集めボール状の「心筋球」というかたまりをつくった。
これが心筋球を撮影した実際の映像では、心臓が拍動するように一定のリズムで動いていることがわかる。心筋細胞をかたまりにすることで移植したあとの心筋細胞の“生存率”が高くなった。
心臓が収縮する力を色で表した映像をみると、重い心不全患者の心臓では力が弱いことを示す青色が目立つ。一方、心筋球を移植して半年ほど経つと、収縮する力が強い赤色が増えたことがわかる。
福田恵一名誉教授
「我々だけが、世界の中で初めて(心筋球の)臨床試験にたどり着けた」
ただほかにも、乗り越えるべき課題が。心筋細胞を移植する際、一般的な注射針では針を抜いた穴から出血し心筋細胞も流れ出てしまう。
そこで、独自の技術を開発した。今年5月、東京女子医大病院での治験5例目の手術の映像で、容器の中には心筋球が入った液体。この特注の3本の針を使って心筋球5万個を心臓に移植する。針の先端には特別な工夫がほどこされていて、針を抜いたあと出血や心筋球が流れ出るのを防止することができるという。
針の性能を調べてみると、水を入れた袋に一般的な注射針を刺すと水が漏れてくるが、特注の針だと水は出てこない。
この針は9年ほど前から、栃木・鹿沼市のメーカー「スズキプレシオン」と研究チームで何度も話し合い、試行錯誤の末に完成した。
そして心筋球の移植は実用化に向け次の段階へ。実用化へ向け前進する心臓の再生医療。今後の課題は、iPS細胞から作った心筋細胞のかたまり=心筋球が長距離の運搬に耐えられるか。この日は、心筋球をクーラーボックスに入れ、450キロを運搬し品質が変わらないことを確認。こうしたテストを何度も行っている。
福田恵一名誉教授
「一歩一歩、問題を見つけながらコツコツと解決していくことで、世界の人たちに喜んでもらえるような治療に」
研究チームはこの治験が独立した安全性評価委員会から承認されたとして、心筋球をこれまでの3倍の15万個注入する治験に進むと、7月30日に発表した。
3年後の2027年、国からの承認を目指している。
(8月25日放送『真相報道バンキシャ!』より)
今月18日、バンキシャ!は、群馬県で行われた祭りへ。
バンキシャ!
「おみこしが担がれていきます」
先頭でみこしを担ぐ岡村勇(おかむら・いさむ)さん、68歳。いまはみこしを担げるようになったが、以前は重い心不全に苦しんでいた。
岡村勇さん
「先生が心臓見たら、こんな悪い心臓(の人)はいないって。(心臓の筋肉の収縮が)17%しかなくて、15%以下だと心臓移植しかない」
そこで、“世界初の心臓治療”の治験に参加。その内容は、体の様々な細胞に変化できるiPS細胞を使った心臓治療の治験。どんなものなのか──。バンキシャ!が再生医療の最前線を取材した。
22日、バンキシャ!は岡村さんの自宅へ。およそ2年前、血管に複数のつまりが見つかり重度の心不全と診断されたという。
「3日間くらい息が苦しいんで、『緊急で入院しなくちゃダメだ』と言われた」と話す岡村さん。「大きな手術を受けなければ命が危ない」と医師に告げられた。
心不全は心臓を動かす筋肉の細胞・心筋細胞が減少し、収縮する力が弱まることで起きる。若い世代でも発症することがある。
岡村勇さん
「歩くとはあはあしちゃって。自転車をこいでも、苦しくってぜんぜんこげなくて」
妻・真弓さん
「もうダメだなって思ったよね」
「4か月くらい、すごいせき込んでいて。寝てたら苦しくて起き上がって、落ち着かせるのが何日かあった」
そんな時、医師からすすめられたのが治験への参加。およそ1年半前、手術を受けた。
岡村勇さん
「(心臓の)3分の1が死んでるから、そこに“iPS細胞を入れます”って」
それは、心臓にiPS細胞から作った心筋細胞を注入し、収縮する力を高め改善させるというもの。この治療法の研究を続けているのが慶応大学の福田恵一(ふくだ・けいいち)名誉教授。「心臓の再生医療」研究をけん引してきた科学者のひとりだ。
12年前の2012年にバンキシャ!が取材したときも。当時からiPS細胞で作った心筋細胞を心臓に移植することを目指していた。
今回の治験ではiPS細胞から作った心筋細胞を大量に増やし心臓に移植するのだが、大きな課題が──。
福田恵一名誉教授
「バラバラの状態の心筋細胞を移植しても、約5%しか生き残らない」
そこで、心筋細胞をおよそ1000個集めボール状の「心筋球」というかたまりをつくった。
これが心筋球を撮影した実際の映像では、心臓が拍動するように一定のリズムで動いていることがわかる。心筋細胞をかたまりにすることで移植したあとの心筋細胞の“生存率”が高くなった。
心臓が収縮する力を色で表した映像をみると、重い心不全患者の心臓では力が弱いことを示す青色が目立つ。一方、心筋球を移植して半年ほど経つと、収縮する力が強い赤色が増えたことがわかる。
福田恵一名誉教授
「我々だけが、世界の中で初めて(心筋球の)臨床試験にたどり着けた」
ただほかにも、乗り越えるべき課題が。心筋細胞を移植する際、一般的な注射針では針を抜いた穴から出血し心筋細胞も流れ出てしまう。
そこで、独自の技術を開発した。今年5月、東京女子医大病院での治験5例目の手術の映像で、容器の中には心筋球が入った液体。この特注の3本の針を使って心筋球5万個を心臓に移植する。針の先端には特別な工夫がほどこされていて、針を抜いたあと出血や心筋球が流れ出るのを防止することができるという。
針の性能を調べてみると、水を入れた袋に一般的な注射針を刺すと水が漏れてくるが、特注の針だと水は出てこない。
この針は9年ほど前から、栃木・鹿沼市のメーカー「スズキプレシオン」と研究チームで何度も話し合い、試行錯誤の末に完成した。
そして心筋球の移植は実用化に向け次の段階へ。実用化へ向け前進する心臓の再生医療。今後の課題は、iPS細胞から作った心筋細胞のかたまり=心筋球が長距離の運搬に耐えられるか。この日は、心筋球をクーラーボックスに入れ、450キロを運搬し品質が変わらないことを確認。こうしたテストを何度も行っている。
福田恵一名誉教授
「一歩一歩、問題を見つけながらコツコツと解決していくことで、世界の人たちに喜んでもらえるような治療に」
研究チームはこの治験が独立した安全性評価委員会から承認されたとして、心筋球をこれまでの3倍の15万個注入する治験に進むと、7月30日に発表した。
3年後の2027年、国からの承認を目指している。
(8月25日放送『真相報道バンキシャ!』より)