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変わる少年法の「18・19歳」5つの要点

2020年8月6日 19:15
変わる少年法の「18・19歳」5つの要点

■民法では2022年から「成人は18歳」へ

そもそも、大人とは何歳からなのか。民法上の成人は20歳と定められていますが、法改正により再来年4月に18歳に変わります。関連する法律も改正され、成人として18歳、19歳でも親の同意無しにローンやクレジットカードの契約が結べるようになります。
 
一方で、健康などに配慮して喫煙や飲酒、競馬や競輪などができるのは、これまで通り、20歳からとなります。
  
「20歳」が関係する法律の一つに、少年法があります。 
少年法は、罪を犯した少年などに対する扱いを定める法律で、20歳未満を対象としています。事件を起こした場合にその責任をとらせる(刑事処分)のではなく、今後、犯罪を犯さないための更生や教育(保護処分)を重視しています。


 
民法上の成人を18歳に引き下げるなら、20歳未満を対象としてきた「少年法」の対象年齢はどうするのか。2017年3月から法制審議会で、「少年法の対象年齢を引き下げるべきかどうか」の議論が始まりました。
 
しかし、3年半もの時間をかけて議論が行われていますが、結論はでていません。その理由は対象年齢の引き下げについて、賛成派の意見と反対派の意見が真っ向から対立していたからです。
 
■「少年法」の対象年齢を引き下げるべきか 対立する賛否の声



対象年齢引き下げの賛成派は、
「18、19歳は民法で成人として扱われるのに、罪を犯した場合には少年法の対象として保護するというのは被害者を含む国民の理解を得られないのではないか」
「成人と同じ刑罰を受ける責任を自覚させることが犯罪の抑止力につながる」などと主張。

一方で、反対派は
「現行の少年法が有効に機能していることは専門家の間でもほぼ異論がない」と指摘した上で、
「民法の成人年齢が引き下げられても18、19歳が急に成熟するわけではない」
「少年法の対象年齢から外し、成人と同じ扱いにすると、更生のために必要な教育が出来なくなり、再犯の恐れが高まる」などと主張してきました。

少年法の対象年齢を引き下げて18、19歳を「成人」として扱うべきか、現状を維持し、「少年」として扱うべきか。3年半にも及んだ議論でしたが、今日ついにこれまでの議論を取りまとめた案が示されました。
 
■変わる少年法の「18・19歳」 5つの要点
 
とりまとめ案は18、19歳について、
「18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる少年と成人の間として取り扱いをする」という、いわば賛成派と反対派の「折衷案」ともとれるものでした。取りまとめ案で示されたポイントは5つです。

(1)逆送範囲の拡大
一つ目は、「検察官送致(逆送)の範囲の拡大」です。
 
成人が起こした事件は検察庁に送られ(検察官送致)、起訴されると裁判を経て、刑事責任を問われます。
 
それに対し、少年が起こした事件はすべて家庭裁判所に送られ(家裁送致)、家裁によって、事件の背景や本人の家庭環境などを調査し、更生や教育に重点が置かれた処分が決められます。
 
ただ、家裁送致された事件の中で殺人や傷害致死などの重大事件では、成人と同じく刑事責任を問われる「検察官送致(逆送)」を原則しなければならないと定めています。

今回の取りまとめ案で示されたのはこの「原則『逆送』される範囲の拡大」です。18、19歳については強制性交や強盗などの「1年以上の禁固、懲役」に当たる犯罪についても原則「検察官送致(逆送)」をしなければならない、つまり、より広い範囲で刑事責任を問う仕組みが提案されました。
 
(2)「ぐ犯」では処分されず
二つ目は「ぐ犯少年」の取り扱いです。

「ぐ犯少年」とは、例えば暴力団との関わりなど本人の性格や環境から現在は犯罪をしていないものの将来罪を犯すおそれのある少年のことです。

現在の少年法では、少年の健全な育成のためにはなるべく早い時期での教育が必要だとして、罪を犯すおそれのある「ぐ犯少年」についても家庭裁判所に送致し、必要な処分をすることを定めています。

今回の案では18、19歳おいては「ぐ犯」の段階では処分されず、罪を犯した人のみを処分することが提案されました。

(3)犯した罪と見合う処分に
三つ目は、「罪に見合う処分とする」です。
 
現行の少年法では犯した罪に対する処分の重さは釣り合わなくて良いとされています。

極端なことをいえば、必要だと判断されれば10円のお菓子を盗んだ初犯の少年に対しても、社会の中で生活しながら指導や支援をうける保護観察ではなく、施設に入り指導を受ける少年院送致が認められるのです。

今回の案では、18歳と19歳は罪の責任の範囲を超えた過剰な介入だとの考えから、罪に見合う処分をすることが提案されました。

(4)実名報道の解禁
四つ目は、「実名報道の解禁」です。
 
現行の少年法では、社会復帰を妨げるとして特定につながる名前や、職業、容貌などの報道が制限されています。
 
今回の案では、18、19歳は、起訴されて刑事責任が問われることになった段階でこれらの制限の解除が提案されました。つまり、起訴された段階で実名の報道が解禁されます。

(5)「不定期刑の廃止」
五つ目は「不定期刑」についてです。

現行の少年法は少年は成長途中で更生が期待できるとして、刑に一定の幅を持たせた「懲役5年以上10年以下」といった「不定期刑」を言い渡すことが出来ます。

今回の案では18、19歳は成人と同じ取り扱いをすべきだとして、不定期刑ではなく期間が具体的に定められることになっています。
 
いわば賛成派と反対派の「折衷案」ともとれる今回の取りまとめ案。18歳、19歳については成人と少年の間として取り扱うべきだと提案されたのです

■「懲役」と「禁錮」を一本化した「新自由刑」の提案も
 
さらに、法制審議会は、全年齢を対象とした刑法の改正案も提案しています。
 
それは刑務作業が義務となっている「懲役」と刑務作業が義務づけられていない「禁固」を一本化した「新自由刑(仮称)」の創設です。
 
「新自由刑」では刑務作業のほかに、改善のための指導を受けることになります。罪を犯した者の社会復帰に有効に機能することが期待されるとしています。
 
また、今回の取りまとめ案を考える上で注目したいのは「再犯率」です。
 
法務省によりますと、2018年の刑法犯の再犯率は48.8パーセント。対象年齢の引き下げ反対派の意見にも再犯の恐れが高まるというものがありました。

今回の案では、18歳と19歳について、刑事責任の範囲は広げる一方、全件に家裁が関与することで更生や教育を重視した処分が行われる枠組みとなっています。
 
さらに、社会復帰に有効に機能することを狙いとした「新自由刑」の導入も提案されました。再犯率が下がり、私たちがより安全に暮らせる治安の改善につながるのでしょうか。
 
今回の取りまとめ案は法制審議会で議論されたあと、法務大臣に答申され、少年法を改正するのか新しい法律をつくるのか検討の上国会に提出される予定です。国会で可決されれば、民法の成人年齢引き下げと同じタイミングの2022年に施行されるとみられます。