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大雨時期を前に…“自分は大丈夫だろう”なぜ思い込む?避難ためらう「正常性バイアス」【#みんなのギモン】

2024年6月15日 7:02
大雨時期を前に…“自分は大丈夫だろう”なぜ思い込む?避難ためらう「正常性バイアス」【#みんなのギモン】
水はあっという間に家の中に入ってきたという(YouTubeより)

まもなく本格的に迎える梅雨シーズン。日本気象協会によると、ことしは平年に比べて梅雨入りが全国的に遅く、梅雨入り早々にまとまった雨が降る可能性がある。

私たちは、2018年の西日本豪雨で、避難をためらう父親を説得した男性を取材。災害時、「自分は大丈夫だろう」と思い込んでしまう正常性バイアス。どんな備えが必要なのか。

(日本テレビ調査報道班 前田怜佳)

■避難を拒否する父「死ぬわけないから」

「はよ逃げよう 死んだら終わるで」

2018年7月、甚大な被害をもたらした「西日本豪雨」。50人以上が命を落とした岡山県倉敷市真備町に住んでいた丸畑裕介さんは、家にいた父親を避難所に連れて行こうとしていた。

近くの川が決壊し、玄関まで迫りくる濁った水。しかし、父親からの返事は─

父親
「死ぬわけないから」

なかなか動こうとしない父親。

丸畑さん
「そうやって言って何人死んでんの今日!」

声を荒らげて説得するが…

父親
「死ぬわけない崩れるわけない」

丸畑さん
「水まだくるんやで」

父親
「水くるゆうても土手こえるわけなかろう」

丸畑さん
「全員逃げてる。みんなと違う行動するのが一番危ないんやで。基本は逃げることやで」

父親
「家が燃え出したりしたらすぐ対処できるようにおらなあかん」

丸畑さんが撮影した映像には、かたくなに避難しようとしない父親とのやりとりが残されていた。

■「正常性バイアス」誰もが持つ当たり前の感覚

災害が起きた時、避難情報が出ていても“自分は大丈夫だろう”と思い込んでしまう「正常性バイアス」。避難が遅れる原因のひとつとされている。

一見すると、なぜ逃げない?と思ってしまうが、災害時の避難に詳しい日本大学危機管理学部・秦康範教授は、正常性バイアスについて「誰もが持っている当たり前の感覚」と話す。

日本大学危機管理学部 秦康範教授
「何かが起きて危険になるかもしれないと普段から考えていると、人はいろんなことが心配で生活できなくなってしまいます。ストレスから自分を守るため、ある程度『自分は大丈夫だ』と思うのは正常なこと」

「人は日常生活で危険な状態になることがほとんどないため、“今がその時だ”という認識を持ちにくい」

■4人に1人「自分は被害にあわないと思った」

実際に、水害や地震などの自然災害で、自治体からレベル4の避難情報(当時の避難勧告・避難指示)が発令された地域住民の避難行動について調べたアンケート結果によると、災害が起きた時に「自宅以外の場所に避難をした」と答えた人は16.9%。
避難せずにそのまま自宅にいた人が8割を超えた。

さらに、「なぜ自宅以外の場所に避難しなかったか」という質問に、およそ4人に1人が「自分は被害にあわないと思った」と回答していた。

■すぐそこまで迫る水…それでも「いつも通りの朝」

避難しながら被害を映像におさめていた丸畑さん。当時、見たことがない川の水の増え方を目の当たりにして、「ただ事じゃない」と危機感を抱いたという。

丸畑裕介さん
「子どもの頃から毎日釣りをしていた川が予測できないくらいに水が増えていきました。見たことないこと起きるぞ、早く逃げないといけないぞと思いました」

急いで家族に避難するよう呼びかけたが…

丸畑裕介さん
「家族は全然現実味がなくて、ふつうの日常の朝という感じでした。母もテレビを見ながら化粧しているような。いつも通りの生活をしていましたね」

このとき、すでに真備町の中心部は冠水していたという。丸畑さんは小さいカメラで撮影した被害の映像を見せたが、家族の反応は薄かった。

丸畑裕介さん
「動画を見せても『わーっ』とびっくりはするんですけど、『ここまでは水はこないだろう』と言っていて。父親は『水は絶対こない』って言い張っていましたね」

家族が危険を認識し始めたのは、近くの土手から家の方に水が流れてきてからだった。

丸畑裕介さん
「自分の目で見ないと現実味を感じないんだなと思いました。ここまで水がきたんだなって近くで見て、初めて動き出しましたから」

秦教授も、危機が目の前に迫っているかどうかが人の行動に大きく影響すると指摘する。

日本大学危機管理学部 秦康範教授
「過去の災害の調査で、なぜ避難したのか聞いてみると、『目の前に差し迫った危機を感じたから』という回答が多い。客観的に『危険だ』という情報が入っても、危機が具体的に見えていないと人は反応しづらいんです」

■災害を「見える化」取り組みも

“目の前の危機”を映像で伝えるべく、動き出した自治体がある。

福島県浪江町では、津波の映像をライブ配信して避難を促す新しいシステムの試験運用が今年4月から始まった。

地震を感知すると、格納庫から自動でドローンが飛行して沿岸部の様子を撮影する仕組み。6時間以上の飛行が可能で、津波警報が出た場合は専用のアプリを使って、住民はリアルタイムで映像を見ることができる。

開発を担当した会沢高圧コンクリートは、東日本大震災をきっかけにこの事業をスタートさせたという。

会沢高圧コンクリート 宮田達也常務取締役
「安全な場所にいたのに、自分の町の状況が分からないから家に戻ってしまい被害にあった方も多い。自分の見知った町の沿岸部の映像を見ることで、命の危機を感じてほしい」

現在、どのくらい津波を撮影することができるかなど調整・改良を重ねて実用化を目指している。

会沢高圧コンクリート 宮田達也常務取締役
「今後はドローンで撮影した映像から、水面の高さが通常と比べてどれくらい上がっているかを可視化できるような技術を発展させないといけないと考えています」

■「正常性バイアス」心がけることは?

無意識に働いている「正常性バイアス」。私たちはどんなことを心がければいいのか。

日本大学危機管理学部 秦康範教授
「正常性バイアスというのが人間には働くんだという知識を持っておくだけでも違います。もしかしたら今働いているかもしれないと思うことが大切」

「具体的な行動としては、一度安全な避難場所へ歩いて行ってみる。日中だけじゃなくて夜間も行ってみておく。災害が起きたとき『とにかくあそこに行けばいいな』と悩まずに行動することができる。また、川の近くや沿岸に住む場合は、警報が出たら高いところへ避難するということが文化として根付くことが大事」

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お寄せいただいた情報をもとに日本テレビ報道局が調査・取材します。

#みんなのギモン

https://www.ntv.co.jp/provideinformation/houdou.html