“性別変更”判断へ 当事者は 戸籍は「女性」子どもの“養母”となるしかなく 手術した人にも「虚無感」
戸籍上の性別を変えたい――そう望んでも、法律では事実上、生殖機能をなくす手術を受ける必要があります。これが憲法違反にあたるのか、25日、最高裁の判断が示されます。こうしたなか、当事者の思いを聞きました。
◇
ある日、クリニックに向かっていたのは、杉山文野さん(42)。男性ホルモンの注射を打っていました。
杉山さんは女性の体で生まれたトランスジェンダーです。幼いころから「女性」として生きることに違和感がありました。今は月に2度のホルモン注射で見た目は男性になりましたが、戸籍上は「女性」のままです。杉山さんが「男性」になれない理由、それは――
杉山文野さん(42)
「生まれながらの体にメスを入れないといけないのは、自分のなかでは納得というか腑に落ちなかったので、卵巣と子宮の摘出はしていない」
日本の法律では、「生殖機能を失っていること」が戸籍上の性別変更を認める要件のひとつになっています。性別変更したい人に実質的に手術を受けることを求め、高いハードルとなっています。
【性同一性障害特例法・性別変更の要件 18歳以上・現在、結婚していない・未成年の子どもがいない・生殖腺や生殖機能がない・変更する性別の性器に近い見た目をもつ】
最高裁では今、この要件が憲法違反かどうかをめぐり、大法廷で審理が行われ、25日にその判断が示されるのです。
海外では、人権の観点からこの要件を不要とする国が増えています。しかし、日本の最高裁は2019年、「現時点では、合憲」と判断。一方で「社会の変化に応じて継続的に検討すべき」などと、社会の理解が深まれば、将来判断が変わる可能性にも含みをもたせていました。
しかし、杉山さんは「(社会の)理解より人権が先だと思っている。理解がないから進まないだったら、いつまでたっても進まない」と話していました。
杉山さんは現在、女性パートナーと共に暮らし、友人の精子提供により2人の子どもを授かりました。
杉山文野さん(42)
「僕は子どもたちの養母という形になっていて…戸籍上女性なので母親という形に」
子どもと法的な関係が持てず、養子縁組をして子どもの「養母」となるしかなかったといいます。さらに日常でも、身分証の表記が女性のため病院や役所の手続きなどで頻繁にトラブルが起きているといいます。
杉山文野さん(42)
「社会はこれだけ変わってきているのに、制度が変わらないことが多くの生きづらさを生み出している」
◇
一方、手術を受けて性別を「女性」から「男性」に変更した人もいます。木本奏太さん(32)です。
木本奏太さん(32)
「手術に対してなんでしなきゃという気持ちはありつつ、それしかなかったので。条件をクリアしない限りあなたはこの国に自分らしく存在してはいけないんですよって言われている気持ち」
手術を受けなければ自分らしく生きられない――女性として生まれた木本さんは大学卒業後、手術費200万を貯め、子宮などを摘出する手術を受けました。
そうして裁判所から届いた、「男性」になった証明。性別変更ができると知ってからこの日を迎えるまで、約7年がたっていました。
木本奏太さん(32)
「それを見たときに正直これのために今までお金も貯めて、すごい人生悩んできて体にメスを入れて痛い思いもして…すごい虚無感といいますか、これで変わったけどすごい拍子抜けしたというか」
――手術が法律の要件でなかったら手術した?
木本奏太さん(32)
「僕はしてなかったと思います。法制度が変わるのはすごい大きな一歩だと。変われば、それについて知っていただく機会も増えるでしょうし」
◇
当事者の声を受け、「news zero」火曜日のパートナーである落合陽一・筑波大学准教授は、心と体の性が不一致の人には心の性別を尊重していいのではないかと指摘しています。
有働由美子キャスター
「この件について、落合さんはどう考えますか?」
落合陽一・筑波大学准教授
「多くの人にとって性別は身体的特徴で決まる点というのは、私は異議はないんです。ただ、身体的特徴といわゆる『心の性別』が違う人がいて、その『心の性別』というものを尊重して作られたのが『性同一性障害特例法』だと、私は考えているので、その考え方に基づけば『心は体に優先される』はずじゃないかと思います」
「つまり、この例外が適用されるのは、心と体の性が不一致の人だけですが、そういう人にとっては心の性別を尊重していいんじゃないかなと思います」
有働キャスター
「落合さんの考え方も素敵ですし、それぞれの人が考え方をお互いに認め合える、尊重できるという社会になってほしいと思いますが、25日、ひとつの判断を最高裁が示します」
(10月25日放送『news zero』より)
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ある日、クリニックに向かっていたのは、杉山文野さん(42)。男性ホルモンの注射を打っていました。
杉山さんは女性の体で生まれたトランスジェンダーです。幼いころから「女性」として生きることに違和感がありました。今は月に2度のホルモン注射で見た目は男性になりましたが、戸籍上は「女性」のままです。杉山さんが「男性」になれない理由、それは――
杉山文野さん(42)
「生まれながらの体にメスを入れないといけないのは、自分のなかでは納得というか腑に落ちなかったので、卵巣と子宮の摘出はしていない」
日本の法律では、「生殖機能を失っていること」が戸籍上の性別変更を認める要件のひとつになっています。性別変更したい人に実質的に手術を受けることを求め、高いハードルとなっています。
【性同一性障害特例法・性別変更の要件 18歳以上・現在、結婚していない・未成年の子どもがいない・生殖腺や生殖機能がない・変更する性別の性器に近い見た目をもつ】
最高裁では今、この要件が憲法違反かどうかをめぐり、大法廷で審理が行われ、25日にその判断が示されるのです。
海外では、人権の観点からこの要件を不要とする国が増えています。しかし、日本の最高裁は2019年、「現時点では、合憲」と判断。一方で「社会の変化に応じて継続的に検討すべき」などと、社会の理解が深まれば、将来判断が変わる可能性にも含みをもたせていました。
しかし、杉山さんは「(社会の)理解より人権が先だと思っている。理解がないから進まないだったら、いつまでたっても進まない」と話していました。
杉山さんは現在、女性パートナーと共に暮らし、友人の精子提供により2人の子どもを授かりました。
杉山文野さん(42)
「僕は子どもたちの養母という形になっていて…戸籍上女性なので母親という形に」
子どもと法的な関係が持てず、養子縁組をして子どもの「養母」となるしかなかったといいます。さらに日常でも、身分証の表記が女性のため病院や役所の手続きなどで頻繁にトラブルが起きているといいます。
杉山文野さん(42)
「社会はこれだけ変わってきているのに、制度が変わらないことが多くの生きづらさを生み出している」
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一方、手術を受けて性別を「女性」から「男性」に変更した人もいます。木本奏太さん(32)です。
木本奏太さん(32)
「手術に対してなんでしなきゃという気持ちはありつつ、それしかなかったので。条件をクリアしない限りあなたはこの国に自分らしく存在してはいけないんですよって言われている気持ち」
手術を受けなければ自分らしく生きられない――女性として生まれた木本さんは大学卒業後、手術費200万を貯め、子宮などを摘出する手術を受けました。
そうして裁判所から届いた、「男性」になった証明。性別変更ができると知ってからこの日を迎えるまで、約7年がたっていました。
木本奏太さん(32)
「それを見たときに正直これのために今までお金も貯めて、すごい人生悩んできて体にメスを入れて痛い思いもして…すごい虚無感といいますか、これで変わったけどすごい拍子抜けしたというか」
――手術が法律の要件でなかったら手術した?
木本奏太さん(32)
「僕はしてなかったと思います。法制度が変わるのはすごい大きな一歩だと。変われば、それについて知っていただく機会も増えるでしょうし」
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当事者の声を受け、「news zero」火曜日のパートナーである落合陽一・筑波大学准教授は、心と体の性が不一致の人には心の性別を尊重していいのではないかと指摘しています。
有働由美子キャスター
「この件について、落合さんはどう考えますか?」
落合陽一・筑波大学准教授
「多くの人にとって性別は身体的特徴で決まる点というのは、私は異議はないんです。ただ、身体的特徴といわゆる『心の性別』が違う人がいて、その『心の性別』というものを尊重して作られたのが『性同一性障害特例法』だと、私は考えているので、その考え方に基づけば『心は体に優先される』はずじゃないかと思います」
「つまり、この例外が適用されるのは、心と体の性が不一致の人だけですが、そういう人にとっては心の性別を尊重していいんじゃないかなと思います」
有働キャスター
「落合さんの考え方も素敵ですし、それぞれの人が考え方をお互いに認め合える、尊重できるという社会になってほしいと思いますが、25日、ひとつの判断を最高裁が示します」
(10月25日放送『news zero』より)