同じ仕事なのに、なぜ女性は男性より給与が低いのか、賃金格差のなぜ?どうすれば?
働く女性の賃金が男性より低いという「男女の賃金格差」を改善するため、政府は新たな会議を立ち上げ、24日、岸田首相も出席して初会合が行われます。男女の賃金格差の原因やなぜ改善が必要なのか、まとめました。
■男女賃金の差は他国より大きい
男女の賃金格差は各国でみられますが、日本での格差はアメリカやヨーロッパ諸国に比べ大きい状態です。フルタイムで働く中程度の所得の男女で、週あたりの総収入を比べると、女性は男性より約22%低いというデータがあります。
■なぜ男女間の格差があるのか?
2023年のノーベル経済学賞は、アメリカの経済学者クラウディア・ゴールディン教授が受賞(女性単独受賞は初)。受賞理由は、労働市場での男女格差の主な要因を明らかにしたことです。
彼女の研究では、賃金の差は、男女で就く職業が違うためというよりは、同じ職業でも性別によって賃金が違うためだと明らかにしました。同じ職業に就いた男女を調べると、学校卒業直後は賃金の差はわずかですが、女性は特に出産後、キャリアの中断や家事・育児のために残業が少ない働き方を選ぶことなどで所得が低下し、その後働き続けても、男性よりも賃金が低い状態が続くということです。
そもそも同じ職種でも時給に差があるといいます。長時間労働や急な呼び出しに応じる労働者の時給は、それができない労働者よりも高い傾向にある。多くの家庭では夫が、そうした、より高い収入が得られる仕事を続け、妻は夫がいない間に育児をするために、低い時給の職種や職場で働くことを余儀なくされると分析しました。そして、男女の賃金格差が大きいのは、弁護士やコンサルタントなど、顧客と密接な関係を維持し、代理をたてるのが難しい職種だと指摘。そうした職種では、長時間労働が可能な男性とそうではない女性で賃金格差が大きくなる上、時間を気にせず働くことが評価されるため女性は昇進できず、賃金の差につながるなどと分析しました。
一方、男女の賃金格差が少ないのは、ほかの従業員による代替可能な場合だと説明しています。最近は企業も、優秀な男女を雇うため、賃金格差をなくし、男女ともに「こどもと過ごす時間を増やしたい」という願いをかなえることが必要だと考えるようになっているということです。
■業界ごとに違う要因と対策
日本総研上席主任研究員の藤波匠氏によると、業種ごとに要因や対策が異なるということです。宿泊業、飲食サービス業では、女性の非正規労働者が非常に多いために賃金に差が出ており、改善には、非正規の女性の正規職員への転換が必要ではないかと提案しています。
金融・保険業では非正規雇用の女性は少なく、正規職員の男女の賃金や役職に就く割合に差があるため、対策は正規職員女性の賃金引き上げや登用が考えられるということです。
男女の賃金格差が一番少ないのは情報通信業で、藤波さんは「おそらく、今、情報通信業は日本の成長産業の一つとして女性採用に力を入れている、待遇も男女平等という形で積極的に採用している結果かなと思う」と述べています。新たに作られる政府の会議のメンバーには、男女賃金格差が大きい業界を所管する省庁の担当者が指名され、業界ごとに対策を考えるということです。
■なぜ格差是正が必要なのか?
そもそもなぜ男女の賃金格差をなくすことが必要なのか。産業別の格差を分析した藤波氏は、次のように指摘します。
雇用慣行に厳然とした男女格差がある現状では、夫婦でも主に男性が休まずに仕事をし、女性に(家事・育児の)負担が偏る構図を大きく変えていくことは難しく、それが少子化の一因ともなっている。女性の賃上げや待遇改善が進めば、家計と日本経済に好影響を与えることはもとより、労働力不足の中、男女がともに経済を支え、家庭生活における家事・育児も平等に担っていく社会になることが期待される。
■女性は非正規が多い実情も
女性は非正規で働く人が多いことから、政府が新たに立ち上げる会議では、非正規労働者の賃金のあり方や「同一労働同一賃金」についても検討する予定です。
女性は結婚・出産で仕事をやめ、こどもがある程度大きくなった段階で、パートなどで働き始める人もいて、就業率をグラフで表すといわゆる「M字カーブ」を描いています。最近は働く女性が増え、25歳から44歳の女性の就業率は2022年は約80%で、この20年で約18ポイント上昇しました。30代後半や40代で働く女性の半数ほどは、パートやアルバイトです。妻に収入があっても、夫の扶養の範囲内であれば、妻が医療や年金の保険料を納めずに済むため、収入を抑える場合もあります。
若い女性で非正規労働の場合、いわゆる「女性の貧困」につながることもあるほか、年金は若い時の給与に連動しますので、老後の年金が少なくなることも懸念されます。
■法律はどうなっているのか
■男女ともに、仕事も私生活も充実を目指す
日本は少子高齢化で、労働力不足がますます深刻になると予測されます。現在でも働く人の4割を占める女性が、差別されずに適切に評価され、十分に力を発揮できる環境を整えることは重要です。
ノーベル賞を受賞したゴールディン教授が指摘するように、仕事を属人化せずにチームで対応する形に変えていき、長時間労働を減らし、男女ともに仕事も私生活も充実させれば、賃金格差が改善されるだけでなく、心身の健康が保たれ、生産性が高まる可能性もあります。
収入がより高い夫が長時間働き、妻は家事・育児という性別役割分担から脱することで、少子化対策にもつながります。女性の収入が増えれば、購買力が高まることなども期待できます。男女の賃金格差是正にどこまで本気で取り組めるか、政府や企業の姿勢が問われています。