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【能登半島地震】避難所で女性の声聴く体制を

2024年1月5日 13:53
【能登半島地震】避難所で女性の声聴く体制を
能登半島地震の被災地では、家を失った方などが避難所での生活を余儀なくされ、今後、避難所の運用が本格化しますが、責任者に女性も加わることで、生活の質や安全が保たれるとの見方があります。

避難所の運営は男性主導になりがちですが、内閣府は、災害の影響は女性と男性で異なるとして避難所の管理責任者に男女両方を配置することなどを推奨しています。そして「子供や若年女性は、保護者が災害対応等で多忙なために、孤立しがちとなり、暴力の対象となるリスクがある」などと指摘。内閣府が公開した避難所チェックシートには、トイレ、更衣室、休養スペースを男女別に設置する、安全確保のために就寝場所や女性専用スペースなどへの巡回警備、防犯ブザー配布など具体策が示されています。

【内閣府の避難所チェックシート】
https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/pdf/guidelene_07.pdf

■男女が協力し災害時を乗り越える

東日本大震災での経験をいかし、男女共同参画やジェンダーの視点を取り入れた防災・復興の対策と研修などを行っている「減災と男女共同参画 研修推進センター」の共同代表・池田恵子さんに避難所のあり方などを聞きました。

──避難所の運営責任者に女性も加える必要があるのはなぜか

女性のためというよりは、被災地や避難所で何が起き、どんな事に困っているかを的確に把握するためです。男性だけだと何が起こっているか見えにくい、的確な情報がなければ、対策が的外れになることもあります。まず前提として、生活に必要なものは赤ちゃんから高齢者まで違います。女性がケアを担う場合も多いので、必要なものについて、女性が声をあげにくいと、おじいちゃん、おばあちゃん、赤ちゃんもお孫さんも困ることになる。せっかく命が助かったのに、避難生活で十分な介護やケアが受けられず、災害関連死が増えることは避けたい。被災後は、がまんしがちですが、ニーズを明らかにして、少しでも生活の質が高い形で、災害時を乗り切ろうという発想です。

──過去の震災時、避難所でわいせつ行為や性暴力があったと報告があります。それらを防ぐには、女性やこどもに一人で出歩かないよう呼びかけるなどがいいでしょうか

「一人で出歩かないで」と伝えることで対策は完了ではないと思います。女性やこども、障害のある方も被害にあうことがありますけれども、そういう人が、皆が必死になっている状況下で、一緒にいてくれる人を探すのは実は難しいんです。家の片付けに必死、商売も気になる、家族が見つかっていない人もいるでしょう。そういう中では現実的でない。さらに言うと被害にあう可能性がある人に対して自己責任のように言うのはメッセージの方向が逆。皆で一緒に人権を守っていくよ、ではなくて、弱い立場の者に、自分の身を守りなさいと言っていることになるんですね。もちろん被害はあってはならないので、まずはそういったことが起こりにくい環境作りが重要です。トイレや更衣室は一度作ってから直すのはとても大変なので、今がチャンス。女性用仮説トイレをよかれと思って離れた所に設置したが、暗くて怖いと意見が出ることもある。まだ今なら間に合うので女性の意見も聞いて、環境改善を通して安全を確保すべき。赤ちゃん連れ用の場所も必要です。赤ちゃんが夜泣きするので、夜中に寒い真っ暗な外に出てあやし続けるといったようなことがないように。

運営の仕組みやルールに安全管理の視点をいれることも重要です。炊き出し、物資運搬などのほかに、安全を守るため巡回する班も作る。

また相談しやすい場所も必要です。「相談コーナー」の看板を掲げても、性的に嫌な目にあったなどは男性には相談しにくい。今後、被災者がお茶を飲めるスペースなど、何かあった時に話せるような場所、環境を避難所の中に作るとよいと思います。

──行政によるニーズ聞き取りに女性職員投入も有効か

そうした対応はとても重要ですが、初対面だと言いにくくて「何か困ったことはないですか」と聞くと「大丈夫です」と答えてしまうので、品目を一覧にしてチェックを入れるような形がよろしいかと思います。(認知症の人や障害者など)避難所で暮らすのが難しく、自宅にいる方は物資や情報が届きにくいので民生委員らが連絡をとり、孤立を防ぐ必要がある。

──皆さんが東日本大震災後に実施した調査では、家庭内暴力(DV)の増加が明らかになりました。今気をつけるべきことは

避難所の名簿の管理ですね。過去には、夫の暴力から逃げていた女性が避難所の名簿で見つかってしまう場合もありました。名簿に名前を出していいかを、登録時にチェックボックスをつけて情報管理を徹底してほしいです。少し時間がたち避難所から出た後に、暴力が増える場合もあります。仕事がなくなったとか、家族構成の変化や仮設住宅で四六時中顔を合わせているなどで、元々ギクシャクしていた夫婦仲が悪化するとか、言葉だけだったのが手が出るようになるなどです。復興支援に携わる方々はおかしいと思ったらその本人に声をかけてみるとか、DVに詳しい人や場所につなげるなどが大事です。

──被災直後の今注意すべきことは

「対価型の暴力」、支援するから対価として性的な行為を迫るといったことが、東日本大震災の被災直後にありました。泊まる場所がない、どこに行ったらいいかわからない中「うちに泊まりに来たら」と言われて性行為をされた例などです。そういった話を聞いたら、放置せず、責任ある立場の人に相談することが大切だと思います。

──避難所でわいせつ行為などを目撃したらどうすればいいか

直接、間に入って止めるのはあまりおすすめしません。普段電車内でも痴漢行為を注意するのは非常に勇気がいりますよね。普段できないことを災害時にやれというのは相当ハードルが高い。そこで止められなくても、避難所の責任者に報告することが大切です。

──責任者に言うことで、「のぞき」対策なら、ついたて設置など環境を変えて再発を防げると

ただ、わいせつ行為などをあまり問題視しない責任者の場合は聞いてもらえない可能性もある。だからこそ、避難所の運営の中に意識のある人を入れていくのが望ましい。地域で顔の広い女性のまとめ役のような人が管理者にいるといいと思います。とにかく男女が協力しないと災害時を乗り越えられない。安全が守られていないところでは、女性たちが支援活動に出ても、被害にあう危険がありますし(注:支援者が性的被害にあうこともある)、せっかく命は助かったのに、避難所で我慢に我慢を重ね、結局健康を害するとか、性被害にあうなど、何と表現していいかわからないつらさです。被害を出さないためには、男女ともに意見を出し合い、環境を整えて、住民皆で乗り越えるという意識が大切ではないでしょうか。