【全文紹介】「歌会始の儀」皇室の方々の歌~今年のお題は「和」~
皇居で新年恒例の「歌会始の儀」が行われました。今年のお題は「和」です。
共通の題で歌を詠む歌会は、奈良時代には始まっていたとされ、鎌倉時代には行われていた「歌御会始」に一般の応募が認められたのは明治7年。皇室と国民を結ぶ長い歴史を持つ行事です。今年はコロナ禍以降設置されていたアクリル板が無くなり、陪聴者の数も増やされました。
「年の初めに~」という古式ゆかしい節回しで、伝統のままに歌が披露されました。天皇皇后両陛下と皇族方の歌を紹介します。(歌の背景については、宮内庁の説明をもとに加筆・編集しました)また、来年のお題は「夢」と発表されました。
【天皇陛下:御製】
「をちこちの旅路に会へる人びとの笑顔を見れば心和みぬ」
「英訳」Seeing the smiles of the peopleI meet during my many journeysThroughout the countryFills my heart with peace
(背景)天皇陛下は47都道府県全て、皇后さまはオンライン2県を含めて45都道府県と、天皇皇后両陛下は全国ほぼ全ての都道府県を訪ねられてきました。去年は新型コロナウイルスの位置づけが変わり、全国植樹祭など恒例の「4大行幸啓」も全て訪問でき、令和になってから両陛下お二人での訪問は、20都道府県(オンラインを含めると28都道府県)となりました。訪問先で温かく迎えてもらったことをうれしく思い、陛下は、各地で人々の笑顔を見てご自身の心も和む気持ちを歌に詠まれました。
【皇后さま:御歌】
「広島をはじめて訪(と)ひて平和への深き念(おも)ひを吾子(あこ)は綴れり」
「英訳」How moved I was to readMy daughter's deep feelings for peaceAfter her first visitTo Hiroshima
(背景)長女の愛子さまは、中学3年生5月の修学旅行で初めて広島を訪ねられました。原爆ドームや広島平和記念資料館の展示などを見て平和の大切さを肌で感じ、その時の経験と深めた平和への願いを中学校(学習院女子中等科)の卒業文集の作文につづられました。日頃から平和を願う両陛下はこのことを感慨深く思い、皇后さまはそのお気持ちを込めてこの歌を詠まれました。
【秋篠宮さま】
「早朝の十和田の湖面に映りゐし色づき初めし樹々の紅葉」
「英訳」Reflected on the surfaceof Lake Towada in the early morningthe autumn leaveson the surrounding trees whose colors have emerged.
(背景)秋篠宮さまは、四十数年前の秋に東北地方を訪問されたことがありました。その際、早朝に十和田湖の周辺を散策し、水の澄んだ十和田湖と周辺の樹木の紅葉を楽しまれました。その光景を歌に詠まれました。
【秋篠宮妃紀子さま】「鹿児島に集ふ選手へ子らの送る熱きエールに場は和みたり」
「英訳」The atmosphere in the stadium softenedwhen the children called outwith enthusiastic cheersto the athletes assembled in Kagoshima.
(背景)秋篠宮ご夫妻は、去年十月に「特別全国障害者スポーツ大会」のために鹿児島県を訪ねられました。秋晴れの下におこなわれた開会式では、スタジアムの席から地元の子どもたちが、自分たちの前を通る選手団各々に「きばいやんせ」(鹿児島の言葉でいう「がんばって」)と都道府県名を呼び、色鮮やかなスティックバルーンを鳴らす音や動きで、熱いエールを送りました。秋篠宮妃紀子さまは、そのような子どもたちの応援で会場の雰囲気が和んだことを思い出しながら、この歌を詠まれました。
【愛子さま】「幾年(いくとせ)の難き時代を乗り越えて和歌のことばは我に響きぬ」
「英訳」Surviving centuries of hardshipThe words of Waka poemsTouch my heart today
(背景)愛子さまは、2020年(令和2年)4月に学習院大学文学部の日本語日本文学科に進学し、去年4月に4年生に進級されました。この歌は、大学の授業で学んだ中古・中世に詠まれた和歌が、戦乱の世も越え、およそ千年の時を経て、現代に受け継がれていることに感銘を受けた気持ちを詠まれたものです。愛子さまは、卒業論文のテーマに「中世の和歌」を選ばれました。
【秋篠宮家 佳子さま】「待ちわびし木々の色づき赤も黄も小春日和の風にゆらるる」
(背景)佳子さまは、毎年、今年はいつ紅葉を見られるのだろうかと楽しみに待っていらっしゃいます。去年は、十二月初旬の小春日和の日に、赤や黄色に色づいた木々をご覧になりました。青い空の下、色鮮やかな葉が風に揺られてますます美しく見えたことを詠まれました。
【常陸宮妃華子さま】「わが君が退院されて常盤松明るくなりぬ心も和む」
(背景)常陸宮さまは、去年3月に尿管結石の手術を受け、その後、尿路感染症を発症し入院されました。また、去年8月末には、新型コロナウイルス感染症に感染、入院されました。常陸宮妃華子は、入院の度にご様子を心配しながら宮邸での日々をお過ごしでした。そのような中で、常陸宮さまがお元気になって退院し、宮邸に戻られた時の安堵(あんど)した気持ちを詠まれた歌です。
【三笠宮寬仁親王妃信子さま】「病人(びやうにん)になりたる我を支へくれしまなざし優しき人等(ひとら)に和(なご)む」
(背景)寛仁親王妃信子殿下は、おととし乳がんの手術を受けられました。これまで信子さまは、病気はしても病人にならないよう努めてこられました。そうした中、多くの方々が心優しく支えてくれたことを思い、感謝しつつ病気を乗り越えたいとの気持ちを詠まれた歌です。
【三笠宮家 彬子さま】「道真公遷られたまふ御祭りに頬にふはりと和風の吹く」
(背景)去年の5月、太宰府天満宮の仮殿遷座祭に参列の折、神様が目の前を通る直前、やわらかい風がふわりと吹いたのを感じられました。先代の宮司様がよく、「神様は風だよ」と言われていたことを体感し、有り難く思ったことを詠まれた歌です。
【高円宮妃久子さま】「仁和寺のお堂にひびく声明(しやうみやう)の音ふくらみて我をつつみぬ」
(背景)真言宗御室派総本山仁和寺の金堂にて弘法大師御生誕千二百五十年記念法会が営まれ、参列した時の気持ちを詠まれた歌です。
【高円宮家 承子さま】「突然に和鳴(わめい)にぎやか秋空を烏もどりてタ暮れを知る」
(背景)時折訪ねる神社の杜(もり)にカラスが戻ってくると、15分程度で辺りが暗くなる様子が、正確な日暮れの時報のようだと感じ、詠まれた歌です。