無言の119番通報「これ、水の音じゃないか?」隊員の機転で救った命
消防署に入電した無言の119番通報。消防から通報者に折り返した電話も、つながりはするものの、やはり無言だった。しかし、そこから聞こえるかすかな「水の音」…。機転を利かせた隊員たちの活躍で通報者は無事発見され、救助された。
■活躍の隊員らに消防署長から表彰
3月4日、栃木県の宇都宮中央消防署で行われた表彰式には同署勤務の隊員たちが、背筋と指先をまっすぐ伸ばして立っていた。「意識のない傷病者の位置を迅速に特定し、生命を保護したのでこれを表彰します」無言の119番通報、機転を利かせた隊員たちの救助活動に対する署長表彰だ。
実は「通報はあるが無言」というケースは少なくないという。イタズラや電話の誤発信もある。そうしたとき消防は「必ず通報番号に折り返しの電話を入れます。それでも電話に出ないときなどは、自宅などが分かれば駆け付けて確認します」その日の通報もこうしたケースだった。
■無言の電話から聞こえた「水の音」
年明け間もない今年の1月4日。仕事始め前の最後の夜を消防署で明かした泊まり勤務の8人の隊員。携帯電話からの119番通報が入電したのは、まだ空が暗い午前5時過ぎだった。
「中央消防です!火事ですか?救急ですか?」
しかし、通報者からの応答はなかった。通報の番号をもとに携帯の所有者の自宅に向かった隊員たち。自宅玄関の鍵は開いているが、中には誰もいなかったという。
「外にいるのか?」
外気温は氷点下3度。隊員の1人が通報の番号へ電話をかけると、つながった。しかし、やはり無言で応答はない。GPS測定で自宅から半径400メートル以内にいることは分かった。
「これ、水の音じゃないのか…」
無言の電話からかすかに聞こえる音に隊員が気付いた。
「サー、サー。チャラチャラ…そんな感じの音でした」
近くに水が流れるところはないか?消防車のカーナビゲーションで近くに川があることが分かった。400メートル以内だ。隊員たちはライトを照らしながら、手分けして川を捜した。そして、橋の下から携帯電話の着信音が聞こえたという。
「『発見!』と聞いた瞬間はとても嬉しくて…でも、いち早く救助しなければならない、という思いでした」
のぞき込むと、そこには水深20センチほどの川の中に、冷たい水に浸かった状態の高齢男性が横たわっていた。男性は水に濡れないよう、携帯電話を右手でしっかり握っていたという。隊員らは男性をおぶって川から引き上げ救急搬送した。通報から30分足らずの救出劇だったが、男性は30.5度の低体温状態。危なかった。
■幸運と使命感が救った命
もし車の通行量が多い場所だったら、水の音はかき消されていたかもしれない。もし電話がつながらなかったら、手遅れになっていたかもしれない。まれなケースではあるが、いろんな幸運が重なった、と隊員は言う。そんな隊員に、どんな思いで活動しているのかを聞いた。
「場所の特定は命を助ける鍵。その鍵をいち早く開けて助けたい」
隊員たちはあらゆる災害に対応するための訓練をしながら、日夜、活動している。救助された男性は現在も入院中だが、一般病棟に移り快方に向かっているという。