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変異ウイルスN501Yとは?何が脅威か

2021年4月8日 19:49
変異ウイルスN501Yとは?何が脅威か

変異した新型コロナウイルスが急増、大阪府や兵庫県では主流になっています。変異ウイルスはウイルスが増える過程で偶然うまれ、数万もの型がありますが、そのうち世界的に警戒されているのが、N501Y変異。変異とは何か?解説します。

■変異ウイルスとは?
ウイルスがヒトの体内で増える、いわばコピーの際、設計図の役目をするのが遺伝子です。新型コロナウイルスの遺伝子は3万個の文字の列(塩基配列)でできており、文字の並びに従い、あるべき位置にあるべき種類のアミノ酸が作られ、複数のアミノ酸がつながってタンパク質ができ、ウイルスを形作ります。しかしコピーを繰り返す中で、設計図の文字を写し間違えることがあります。「AAU」という文字列に従い、アスパラギンというアミノ酸を作るべきところ、「UAU」とするとチロシンができます。このように、あるべきアミノ酸とは別のアミノ酸がつながれたり、あるべきアミノ酸がなくなったりし、元の設計図と違うタンパク質ができる、これが「変異」です。

新型コロナウイルスは1ヶ月に2か所程度、変異が起きるといわれ、これまでに数万もの変異ウイルスが表れています。変異しても、ウイルスの性質に影響を与えない場合もあり、すべての変異ウイルスが脅威とは限りません。新型コロナウイルスにはスパイクという、突起のようなものがあり、これがヒトの細胞にまずくっつき、ウイルスが細胞に入り込むのが感染です。

■今注目の「N501Y」「E484K」変異とは?
「N501Y」「E484K」変異とも、スパイクを構成するスパイクタンパク質のうち、ヒトの細胞表面にある受容体と呼ばれるタンパク質と結合する重要な部位内に起きた変異です。
「N501Y」変異はスパイクタンパク質のうち501番目にあるアミノ酸がN(アスパラギン)であるはずが、Y(チロシン)に変わっています。
「E484K」変異は、484番目のアミノ酸がE(グルタミン酸)でなくK(リシン)になっています。アミノ酸の違いで、タンパク質が変わり、スパイクの性質が変わるとみられます。「N501Y」変異がある場合、従来型より感染しやすい可能性があり、イギリス型の変異ウイルスは重症化させやすい可能性も指摘されています。「E484K」変異があると、感染しやすくなるというデータは今のところありませんが、免疫やワクチンの効果を低下させる可能性が指摘されています。厚労省や専門家はワクチンが完全に効かなくなるわけではないとの見方を示しています。ファイザーは、この変異を持つ南ア型に、ワクチンの効果があると発表しています。WHO(世界保健機関)やイギリス、アメリカ政府は、次々見つかる変異ウイルスのうち、感染しやすい、重症化しやすいといった影響があるものをVOC=Variants of Concern(懸念される変異ウイルス)と定義し、注意を呼びかけています。

また一段低い警戒度で、クラスターを起こすと確認されるような変異ウイルスをVOI=Variants of Interest(注目すべき変異ウイルス)と定義しています。WHOがVOCに分類しているのは「イギリス型(N501Y変異有)」「ブラジル型(N501Y変異とE484K変異有り)」「南アフリカ型(N501Y変異とE484K変異有り)」の3種類です。(2021年4月8日時点)。また、VOIに6種類を挙げています。

■「N501Y」はいつ見つかった?
去年12月、イギリスで感染者急増の中、「N501Y」変異がある新型コロナウイルスが報告されました。感染のしやすさ(伝播性)が強いとされ、イギリス政府はVOC(懸念される変異ウイルス)に分類し、VOCー202012/01と名付けました。日本で「イギリス型」と言われるこの変異ウイルスは武漢で見つかった初期のウイルスと比べ、23か所の変異があり、うちスパイクタンパク質での変異は「N501Y」含む9か所。イギリス型は大阪や兵庫で感染例の7割を占め、感染者急増の要因の1つとの意見もあります。感染率は子どもも他の年代と比べ特に低くないとされますが、子どもが感染しやすいとはまだ証明されていません。

■「E484K」とは?
この変異はイギリス型にはなく、ブラジル型、南ア型、フィリピン型(WHOはVOCに未分類)では、スパイクタンパク質で起きた複数の変異に「N501Y」と「E484K」変異が含まれています。日本で「N501Y変異はなく、E484K変異がある変異ウイルス」が見つかりました。大学病院は警戒を強め、独自に検査、この変異ウイルスの感染者に個室入院などの対応をしていますが、WHOは2021年4月8日現在、VOC(懸念される変異ウイルス)に分類していません。国立感染症研究所はVOI(注目すべき変異ウイルス)として扱い、臨床評価などを中長期的にみる必要があるとしています。厚生労働省は「N501Y変異がなくE484K変異がある変異ウイルス」感染者の入退院は、従来型と同様の扱いとの事務連絡を3月31日に出しました。この変異ウイルスがどこから来たのか、国内で変異したのかわかっていません。

■日本の変異ウイルス検査体制は?
都道府県や政令市などは、新規感染者の4割を目標に、変異ウイルスかどうか調べるPCR検査を行っています。そのスクリーニング検査で陽性と確認されれば「変異ウイルス事例」として都道府県が公表してよいことになっています。自治体は、その一部(又はすべて)を国立感染研に送り、ゲノム解析(ウイルスの遺伝子の全文字列を調べる)で変異ウイルスかどうかと、変異ウイルスの型も確定させます。厚労省は、こうした変異ウイルス感染者は無症状者含め、原則入院としていますが、条件付きで、ホテル療養や自宅療養も可と方針を切り替えました。

■全感染者で変異ウイルスかどうか調べるべきでは?
ウイルス量が少ないと、変異ウイルスか調べるPCR検査もゲノム解析もできないといいます。感染者の多くで変異ウイルス検査をする自治体もありますが、検査できる場所が限られる中、民間機関や大学病院などに協力を呼びかけ、4割程度は可能と国が見積もったということです。

■変異ウイルス拡大を抑えるには?
専門家は「変異ウイルスでも従来型でも対策は同じで、マスク着用、手洗い、3密回避などの徹底を」と指摘します。また、感染が広がるほど、ウイルスがコピーされる回数が増え、色々な変異が表れる可能性が高まるので、新たな変異をうまないためにも、感染を抑えるべきです。ウイルスがヒトの細胞にくっつきやすいように変異しても、多くの人が食事や会話の際、マスクを着ければ、ウイルスはヒトの体に入れず、増えることができません。基本的な対策を地道に続けることこそ重要です。