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メカジキからつくる、土に還るジーンズ

2021年4月23日 12:14
メカジキからつくる、土に還るジーンズ

これまで捨てられてきたものに、アイデアやデザインの力で付加価値を与える。そんな「アップサイクル」と呼ばれる手法を、ユニークに実践するのが宮城県気仙沼市のオイカワデニムだ。彼らは地元産物であるメカジキの「角」から、美しいジーンズを紡ぎ出す。

■廃棄されていた「メカジキの角」をアップサイクル

「気仙沼はメカジキの水揚げ量が、日本で最も多い港なんです」。そう教えてくれたのは、オイカワデニムの代表である及川洋さん(47)。
「メカジキといえば、上顎から剣のように伸びた角(吻 ふん)が特徴的な魚です。ところが、吻は食用にならず、ほかに使い道もないため、漁師さんが船の上で切り取り、そのまま海へと捨てられていました。それを初めて知ったときに、なんだかすごくショックで。なんとか再利用できないかと、2013年頃からメカジキの吻を活用した糸の開発に着手しました」

全国各地の紡績メーカーなどに協力を仰ぎながら、試行錯誤すること約3年。及川さんたちは、オーガニックコットンに粉末状の吻を35%織り交ぜた特製の混紡糸を完成させる。
さらに、吻を焼成した炭を染料に混ぜることで、メカジキの魚体を思わせるブルーグレーに生地を染め上げる手法を確立。
こうして生まれたのが「メカジキデニム Swordfish Fiber Mixed Denim」だ。

生地だけではなく、細部まで天然素材で仕上げたことも、こだわりのひとつ。
金属製のリベットやジッパーは一切使用せず、ボタンもプラスチックではなくヤシの実由来のナットボタンを選んだ。

「環境意識の高いヨーロッパでは、服を処分する際に、金属製のパーツを切り離すことがルール化されている国もあります。仮にそういった国のお客さまが購入されたとしても、メカジキデニムならばそのまま捨てていただける。文字通り、自然に土へと還るジーンズです」

■ファッションは、サステナブルな産業だろうか?

オイカワデニムが環境に配慮したものづくりに取り組む背景には、衣服の生産に欠かせない綿花(コットン)を巡る、サステナブルとは言いがたい状況がある。

コットンの需要は1990年代後半に急伸した。主な要因は、大量生産・大量消費を前提としたファストファッションの台頭といわれている。
世界各地のコットン農家が使用する農薬の環境負荷やそこで働く人々の健康に対する懸念がある。

「そんなやり方を続けていてはマズい、ということで現在はアメリカを中心に、世界各国が農薬の使用に規制を設けたり、サステナブルな方法で綿花を栽培する基準を設けたりしています。
環境にも人にも配慮して育てられたコットンを示す“オーガニックコットン”という言葉も浸透してきました。
しかし、従来の栽培方法と比べて生産性が下がるため、今度は供給が追いつかなくなりつつある。
このままのペースでいくと、2040年には全世界で3割以上の人々がコットン100%の服を着られなくなるという説もあります。特にコットンのほとんどを輸入に頼る日本にとっては、無視できない問題です」

こうした背景を踏まえると、オイカワデニムの取り組みの意義が、よりクリアに見えてくるだろう。
メカジキの吻を35%織り交ぜることは、綿の使用量を35%削減することとイコールだからだ。
メカジキデニムは、コットンに頼らないサステナブルな衣服のあり方を、具体的に示してくれている。

「吻の仕入れ価格は、綿と同額に設定しています。つまり、これまで海外のコットン生産地に支払っていたのと同じ金額を、地元の漁師さんに還元しようという発想です。
そうやってお金の流れを変えることで、少しでも地域を活性化したい。わずかでも漁師さんの収入の足しにしてほしい。そんな狙いもあります」

■地域のために、未来のために、デニム屋さんができること

及川さんは、なぜサステナブルなジーンズづくりに打ち込むのだろう。転機となったのは2011年の東日本大震災だ。
気仙沼は津波で大きな被害を受けたが、高台に位置するオイカワデニムの工場は被災を免れ、民間の避難所として地域住民約150人を受け入れた。

「そのなかには漁師さんも大勢いて、避難生活のなかで互いにたくさんの話をしました。それまで港町で暮らしながらも“海で生きる人たち”と深く交流してこなかったので、多くの学びがある時間でもありましたね。
メカジキの吻がどう扱われているのかも、実はこのときに漁師さんから初めて教えてもらったんです」

「経営者としての考え方も変わりましたね。以前はどこかで売上こそがその会社の価値だと考えている部分がありました。
もちろん会社として利益を上げることは大切です。けれど震災を経て、目に見える数字にこだわるよりも、地域のために、次世代のために、ものづくりの可能性を追求したいと思うようになったんです」

そんな及川さんの想いが込められたメカジキデニムは、販売開始から5年以上がたつ現在でも、年間1500-2000本を売り上げる人気商品。
メカジキデニムを購入するために、はるばるスペインから気仙沼を訪ねてきた熱烈なファンもいたという。
最近では、リペアの依頼も増えているそうだ。使い捨てではなく、大切な一品を長く使う。そんなサステナブルな思想が、ユーザーにも浸透しつつある。

「ファストファッションが必ずしも悪だとは言いません。けれど、それだけではつまらない。
私たちみたいに、時代に逆行するようなものづくりに励む人間がいた方が、世の中がおもしろくなると思うんです。
それが少しでも地域を元気づけたり、自然の負荷を減らしたりすることにつながるなら、こんなにうれしいことはありません」


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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。

■「Good For the Planet」とは

SDGsの17項目を中心に、「地球にいいこと」を発見・発信していく日本テレビのキャンペーンです。
今年のテーマは「#今からスイッチ」。
地上波放送では2021年5月31日から6月6日、日テレ系の40番組以上が参加する予定です。
これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。

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