“台風発電”も可能に?新しい風力発電
「風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全なエネルギーを供給する」。そんなビジョンを掲げて2014年に創業された株式会社チャレナジー。同社の代表である清水敦史さんが思い描く、壮大なビジョンに迫る。
■日本の風土にベストマッチする“プロペラのない風車”
チャレナジーが実用化を進める「垂直軸型マグナス式風力発電機」を見て、それが「風車」だと気付く人は少ないだろう。風車の象徴である「プロペラ」を持たないからだ。
「風車にとってプロペラは、最大の弱点なんです。薄いブレード状のプロペラは構造的に折れやすく、強風時には回転数に歯止めがきかずに暴走してしまうこともある。最悪の場合は、風車ごと倒壊してしまいます。台風の多い地域では特に深刻な問題で、それが日本で風力発電が普及してこなかった大きな理由のひとつです。ならばいっそのこと、プロペラのない風車をつくったらいいのではないか。これがアイデアの原点です」
しかし、プロペラなしで、どうやって風車を回転させるのだろう。清水さんが注目したのが「マグナス効果」と呼ばれる物理現象だ。
マグナス効果とは、回転する球や円柱が流体のなかに置かれたときに、その流れの方向に対して垂直に生じる力のこと。野球のカーブやゴルフのスライスが曲がるのも、この力によるものだ。同社の風力発電機の場合は、モーターによって回転する2本の円筒がマグナス効果を引き起こし、風車全体を回転させる。つまり、円筒を回転させることで“プロペラのような物”を作り出すメカニズムだ。
「最大のメリットは円筒の回転数を調整することで、風車全体の回転数を制御できる点です。いざというときには、円筒の回転を止めてしまえば、マグナス効果が消えるため、風車は確実にストップする。強風でも暴走の心配はありません。円筒構造はプロペラに比べると、強度にも優れている。これが台風のなかでの発電を可能にする、強さの秘密です」
円筒を「垂直」に設置することで、あらゆる方向からの風を効率的に利用できるようになったこともポイントのひとつだ。
「風向きが変化しやすい日本の気候でも、安定した発電が可能になります。さらに、従来の風力発電機と比べると回転が低速のため、騒音やバードストライクのリスクも抑えられる見込みです」
■風力発電に革命を起こす、エジソンのようなエンジニアに
清水さんが風力発電機の開発に乗り出したのは2011年。東日本大震災による福島第一原発の事故を目の当たりにして「自分の生きている間に原発をなくしたい」と思ったのがきっかけだった。とはいえ、当時の清水さんは大手電気機器メーカーのいちエンジニアで、発電については門外漢。まずは書籍などを通じて、再生可能エネルギーについて学ぶことからスタートしたという。そこで気付いたのが「風力発電の可能性」だ。
「風力発電には約130年の歴史があるのですが、根本的な仕組み自体は、ほとんど進化していないことがわかりました。それなら逆にイノベーションを起こす余地も十分にある。使命感もありましたが、エンジニアとしての野心に火がつきました。子どもの頃から憧れていたエジソンのように、『歴史を変える発明』ができる予感がしたんです。同時にエネルギーシフトは世界的な社会課題でもあるから、ビジネスチャンスでもある。そこに事業としての可能性を感じたことも事実です」
未来への使命感と、子どもの頃からの夢、そしてビジネスとしてのポテンシャル。この3つがかみ合ったことで、清水さんの動きは一気に加速していく。会社での仕事をこなしながら、自宅では風力発電に関する古今東西の特許を読みあさっていく。研究を進めて2011年7月に「垂直軸型マグナス式風力発電機」の特許を申請した後、2012年には、自宅で小さな試作機を完成させる。2014年3月には技術を実用化するビジネスプランコンテスト「第1回テックプラングランプリ」で最優秀賞を受賞し、同年10月に株式会社チャレナジーの創業へと至る。
■風力発電のさらにその先へ。水素社会は「島」から実現する?
現在は沖縄県石垣島で試作機の運用に取り組んでいるが、今後の事業展開も「島」を軸に進めていくという。
「多くの島は、電力に関してさまざまな問題を抱えています。沖縄本島や石垣島は火力発電が中心ですが、燃料の輸送費の分だけコストが割り増しになってしまう。さらに西表島などは発電所がないため、送電のための海底ケーブルが切れたら、島全体がブラックアウトする可能性もある。つまり、島にこそ自給自足の再生可能エネルギーが必要なのです。
ところが、島は再生可能エネルギー導入のハードルが高い。従来の風力発電機は、台風ですぐに壊れてしまいます。太陽光発電にしても同じで、台風の突風で太陽光パネルが飛ばされてしまう。そもそも風力にしても太陽光にしても、導入のために必要な敷地を確保するのが困難です。だからこそ、台風にも負けず、静音性の高さから住宅地の近くにでも設置できる垂直軸型マグナス式風力発電機のニーズは、非常に大きいはずです」
沖縄での“台風発電”も実現可能になるかもしれない。さらに、チャレナジーの取り組みには国内のみならず、世界中の「島」から注目され、問い合わせが相次いでいるそうだ。
「世界展開の第一歩として、2021年の夏にはフィリピンの最北に位置するバタネス州に、垂直軸型マグナス式風力発電機が一基完成予定です。石垣島に負けず劣らず台風のリスクが大きいこのエリアを皮切りに、『島への再生エネルギーの導入』というニッチなマーケットを開拓していきたいと考えています」
そう力強く語る清水さんの目は、さらに先の未来をも見据えている。風力発電を活用した、海水からの水素生成事業だ。
「世界中の島を『水素の生産基地』にすることが、僕の目標です。島の周りには、水素の原料となる海水がいくらでもあるし、発電に欠かせない風もいつでも吹いている。生成した水素は、そのまま船で運べばいい。こんなに合理的なことはありません。中東の油田のように『島』は資源の宝庫となるはずです。そうなれば日本は資源大国。水素エネルギーを、海外へと輸出するようになるかもしれません」
※写真は垂直軸型マグナス式風力発電機(沖縄県石垣島にある実証実験機)
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この記事は、日テレのキャンペーン「Good For the Planet」の一環で取材しました。
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これにあわせて、日本テレビ報道局は様々な「地球にいいこと」や実践者を取材し、6月末まで記事を発信していきます。