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児童手当拡充で扶養控除廃止すれば「子育て罰そのもの」 日本大学・末冨教授インタビュー

2023年5月27日 3:08
児童手当拡充で扶養控除廃止すれば「子育て罰そのもの」 日本大学・末冨教授インタビュー
日本大学文理学部 末冨芳(すえとみ かおり)教授(教育行政学、教育財政学)

政府は、こども・子育て関連予算倍増の大枠について、来週にも「こども未来戦略会議」で素案を示す方針です。児童手当の対象を高校生相当まで広げる一方で、16歳から18歳の扶養控除を廃止する可能性も浮上していますが、教育財政学などが専門で、子どもの貧困などにも詳しい日本大学の末冨芳教授は「子どもの場合だけ、手当をあげるから、控除を奪うとは異常で、子育て罰そのものだ」と反対しています。

■末冨芳(すえとみかおり)教授インタビュー(5月26日)

扶養控除自体、生存権の保障のためでもあるんですよね。高齢者を扶養する場合や引きこもりの方など大人を扶養している場合にすら控除があります。それなのに、子どもを扶養する場合だけ、手当をあげるから、扶養控除は奪うという発想が出てくるのは、異常だとしか言いようがない。高齢者が年金をもらっているから、扶養控除をなくそうという話にはならないですよね。そういう意味では財務省の発想は、「子育て罰」そのものです。(末富教授は、日本の政治や社会が子育てに冷たく、親は罰を受けているような状況に置かれていると主張してきた)

──仮に16~18歳の扶養控除がなくなると、児童手当をもらっても、特に年収900万円ぐらいの世帯だとむしろ負担が多くなる可能性もあります。

末冨:一部世帯はマイナスになる可能性があるわけですよね。もしも、今後、扶養控除を縮小するとなれば、異次元の少子化対策どころか、少子化を推進する政策になってしまう。今すでに、扶養控除をめぐる議論をみるだけで、子育て世代、若い世代に不安とあきらめが広がっている。こんなことを繰り返していたら、日本の超少子化がますます加速化するだけですよと言いたいです。若い子育て世代は、「(以前、中学生以下の子どもを育てる世帯にあった)年少扶養控除を復活させてほしい」と言っているぐらいなのに、そうした声に逆行しています。子どもは「生存権の保障」が一番必要な、一番弱い存在のはず。この人たちに「控除」で生存権を保障しつつ、かつ手当も支給する。それが実現して初めて、少子化対策としては、ほかの先進国並みの「合格点」なんですよね。それなのに、こんな異常なことを仮に続けるとしたら、本当に誰も子どもを産まなくなりますよ。

──財務省の考え方は、中学生以下は、児童手当の対象で、控除はないので、その扱いと平等にしないといけないというものでしょうが、中学生の扱い自体が、そもそも不十分だということでしょうか

末冨:そうです。そのロジック自体が破綻している。では、高齢者も扱いを同じにできるんですか、と。ほかの大人の扶養控除も減らして下さいということになりますよね。子どもの場合だけ控除を減らすのはおかしい。

──児童手当の所得制限を撤廃することで、子育てを社会全体で支えるという理念が政府に出て来たかもしれないが、仮に、扶養控除をなくすとなると、そういう理念が横串で貫かれていないということを露呈する形になるかと思いますが。

末冨:そうです。自民党は変わりつつあろうとしても、財務省が「子育て罰」の体質から抜け出ていないのではないか。今回、財界もそうですけど。この人たちが「子育て罰の加害者」であることがだんだんわかってきましたね、と言いたくなります。

──今回こそ、社会全体で子育てや子どもをバックアップしていくというメッセージが込められるかと期待が高まっていました。

末冨:それが失敗しつつあるじゃないですか。もし扶養控除を減らすとなれば、若い世代があきらめてしまう。「子育てを応援します」という期待を持たせておいて、結局は応援していなかった、と証明してしまうことになる。

■こども・子育て予算 「全然本気な感じがしない」

現在のこども家庭庁の予算は約4兆8千億円。政府は、こども・子育て関連予算を来年度から増額し、3年目の2026年度には約3兆円プラスし、2030年代までに、総額およそ10兆円にすることを目指す方針が検討されている。

──今後3年間で約3兆円の予算増という案についてはどうとらえていますか?

末冨:京都大学の柴田准教授が発言しているように、今が少子化対策を打つラストチャンスなのに、そのラストチャンスをやはり逃すんだ、というのが、自民党に対して言いたいことですね。予算の規模感があまりに少ないと思っています。自民党の山田太郎議員らによる「チルドレンファーストの子ども行政のあり方勉強会」でも、だいたい8兆円ぐらい増額が必要ではないかと言っていたのに、自民党の中からの提言すら無視している。全然本気な感じがないですよね、3兆円では。

──国民の負担増を恐れるあまり、必要な財源が、結局は捻出できないという恐れもありますか

末冨:必要な投資をせずに、だめになっていくとは、日本の企業でもそういう形がみられますよね。日本の失敗のパターンを典型的になぞっている気がします。そして、歳出削減が足りないと思います。色々あるとは思いますが、高齢者の負担増をやるしかないんですよね。でも、そこに切り込めない。そして、先進国の中では、公共事業の比率が高い。民主党政権時代にはコンクリートから人へということで、子ども手当を創設したが、自民党は子どもへの投資も結局は増やさないまま、コンクリートに投資し続けているとも言える状況だ。

──政府は歳出削減分を防衛費にも使いますし、既存のものを削れない、負担は増やせない、だから今まで通りの枠内でやりくりするということが、繰り返されています。

末冨:そうなんです。必要な予算を確保してほしいとずっと言ってきましたが、結局、負のループを抜けられていないし、「子育て罰」は変わらないのかと。今こそ、政府の本気度を見せてほしいです。

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