千島・日本海溝の地震で被害軽減の鍵とは
千島海溝や日本海溝の巨大地震では建物の倒壊や津波により最悪19万9000人もが死亡するという厳しい想定が公表されましたが、同時に「対策が十分に進めば、犠牲者は8割を軽減できる」として対策の必要を指摘しました。その命を守る対策とは?
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◆津波避難ビルや避難タワーの整備が重要
津波から命を守るためには、地震発生後いかに早く高いとことに避難することができるかにかかっています。低く広がる平地では避難するべき高台や山が遠い事が多く、地域に建っているビルと行政が協定を結び、緊急時に住民を受け入れてもらう津波避難ビルや、避難タワーの整備が命の綱になるというのです。
内閣府の調査などによると、北海道内の津波避難ビルは550か所を超え、タワーは27か所、青森県内では40か所のビルとタワーが4か所、岩手県内では11か所のビルにタワーの整備は1か所に留まっています。
これは、そもそも人口の多いところにしか高いビルがないことや、避難タワーを建設するのには1基で約1億円以上はかかるという財政問題もあります。さらに寒冷地ではこうした設備に防寒対策を講じる必要も有り、財政的にはより厳しくなってしまいます。
北海道庁などは国による財政支援の強化などを求めていますが、整備が完了するにはかなりの時間と経費がかかるとして整備の難しさも指摘しています。
◆地震対策の基本は家を頑丈にすること、耐震化で命を守る
千島海溝・日本海溝の地震による強い揺れによって、千島海溝では約1700棟の建物が揺れによって全壊し、日本海溝では1100棟が全壊するとして、建物の下敷きになったり、飛んできた家具にあたったりして亡くなる人も多く想定されています。
こうした被害を軽減するポイントとなるのが家屋の耐震化と家具止めです。
家屋の耐震化をしっかり実施すると、千島海溝では約70人、日本海溝では約60人の死者がほぼゼロに減る想定です。
2018年の統計では、全国平均の耐震化率は約87%。建築基準法の改正以前の古い建物は揺れで倒壊する危険が高いのですが、お年寄りの世帯では若いころに建てた家に住み続けていて今や老朽化してしまっているケースが多く、耐震化が遅れている現状があります。また、家具を止めてある家庭の全国平均は約40.6%にとどまっていて、こうした対策の推進も必要となります。
◆耐震化することで津波避難の時間が稼げる…
東日本大震災の直後に南海トラフの地震の想定が見直されたところ、34.4メートルもの高い津波が襲ってくるとされた高知県黒潮町。想定が発表された当時、高齢者が多い住民の間にはあきらめムードも濃かったのですが、その後、状況は一変します。「地震で家が壊れたら挟まれて動けなくなるかもしれないし、逃げる道もふさがれてしまう。津波被害から逃げるためにはまずは家が倒れないようにしないといけない」、役場が中心になって住民に耐震化を働きかけました。
津波で流されてしまうことが分かっている家屋についても、津波から避難する時間を稼ぐために家を揺れに強くする。黒潮町役場は独自に補助金の上乗せも実施し、今年度末までの10年間に耐震化工事を完了する家屋は960棟にのぼる見込みとなっています。町内には津波避難タワーや避難路の整備が進み、住民の間にはかつての諦めムードから、命を守るためにがんばろうという意識が強くなってきているといいます。
◆土砂崩れの対策や、火災対策も重要
地震の揺れでは、土砂崩れなどの被害も発生します。北海道厚真町では北海道胆振東部地震で広範囲で土砂崩れが発生し、民家が巻き込まれ多くの死傷者が出ました。
こうした土砂災害が発生する危険のなる急傾斜地の場所で、崩壊しないように補強工事などが進めば、日本海溝の地震では約20人、千島海溝では約10人と想定される死者の数はほぼ抑えることが可能になるとしています。
さらに、地震によって起きる火災によって、千島海溝の地震が冬の夕方に発生すると約3100棟もの家屋が火災によって消失する予想となっています。こうした火災への対策としては、揺れを感知すると電気を止める感電ブレーカーを設置したり、最も重要となる初期消火を確実に行えるように消火器をしっかり設置したり、防火水槽などを整備したりすることで被害をほぼ抑えることも可能になるとしています。
◆対策が進めば8割の死者を減らせる…
こうして、耐震化や急傾斜地対策が100%実施されるなどすると、千島海溝の地震では全壊する建物は8万4000棟から約4000棟も減らすことができ、日本海溝の地震でも約1000棟も減るということです。
さらに、住民の意識が高くなって避難が順調に進めば、死者数は千島海溝の地震では約10万人が約1万9000人に、日本海溝の地震の場合は19万9000人が約3万人と、約8割も減少するとしています。
写真:高知県黒潮町の津波避難タワー