千島・日本海溝の地震で被害の実態は?
最悪19万人以上が犠牲となると想定された千島海溝や日本海溝の巨大地震。生き残ることができても最大90万人以上の人が厳しい避難生活を強いられるといいます。震災後はどの様な状況になる想定となっているのでしょうか?
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◆地震発生直後の90万人を超える 避難者は食料も水も足りず…
千島海溝や日本海溝の地震直後の避難者数は、千島海溝では約48万7000人、日本海溝では約90万1000人にも達する予想です。このうち、避難所に避難できる人たちはおよそ3分の2。残る3分の1の人たちは救援の手が届きにくい空き地や公園などの避難所以外で過ごすことになります。
行政の手が届く避難所では毛布などに加え食事も支給されるのですが、避難してきた人たちの数は食料の備蓄量をはるかに超えていて、震災後3日間までに足りなくなる食料が、千島海溝の場合約130万食。日本海溝の場合は約340万食にも達します。避難することができた人たちも、少ない食料を分け合いながら過ごすしかありません。
飲料水についても、地域によっては備蓄が足りない想定で、いかに早く周辺の自治体から給水車などで支援に入ることができるかが大きな課題となります。
そして震災から1か月がたっても、この半分以上の人たちは避難を続けないといけなくなるというのです。
◆エレベーターへの閉じ込めや集落の孤立も多数発生
地震発生とともにエレベーターへの閉じ込めも起きます。多くの人が活動している昼間の正午頃が最も多くなる予想で、千島海溝の地震では約80棟の建物の200台のエレベーターで閉じ込めが起きる予想。日本海溝の場合は、約130棟の建物の約300台で、200人から300人が閉じ込められる予想です。
孤立してしまう集落も、農業地域で約50集落、漁業地域では最大約160の集落が孤立する予想です。東日本大震災でも孤立は多く発生し、ヘリコプターによる患者の搬送や物資輸送などの支援が必要になりました。
◆自宅にいてもライフラインが途絶…
震災後の厳しい生活を強いられるのは、避難所に避難した人たちだけではありません。津波による被害の無かった自宅にいる人たちも、ライフラインの途絶により苦しい生活を余儀なくされるのです。
地震直後には上水道の供給がストップして、千島海溝で約30万2000人、日本海溝では約49万7000人が影響を受けることになります。復旧には最悪2週間ほどかかる見込みで、飲み水だけでなくトイレを流す水やお風呂も制限され、給水車を待つか、川で水をくむなどして対応するしかなくなります。
下水道の被害も深刻で、千島海溝の地震では約92万1000人、日本海溝ではなんと約334万人が下水道を使えなくなり、トイレに困る事態が想定されています。復旧には最大で約6週間もかかるということです。
停電も深刻です。千島海溝の地震では約8万4000軒、日本海溝では約22万1000軒で停電となります。
都市ガスも北海道と東北3県の都市ガスを利用している家庭の約1割、約9万0000戸でストップしてしまいます。食事も作れずお風呂にも入れない…大きな理由は都市ガスの製造所が浸水被害を受けて稼働できなくなるためです。震災後約5週間で製造所が復旧し、徐々に供給が再開されていくことになりますが、長期間の不自由が強いられることになります。
◆情報収集にも大きな支障が…通信の影響は?
「情報がないことは希望が無くなること」これは東日本大震災で被災した宮城県沿岸部の住民の言葉です。停電でテレビも見られない、電話も通じない、家族の安否も確認できない…情報が途絶してしまうと、不安は膨らむばかりとなります。
千島海溝・日本海溝の地震でも通信の被害は大きな予想です。固定電話は千島海溝の場合、すべての回線のうち約1割の6万5000回線が使用できなくなり、日本海溝のケースでは約16万2000もの回線が通話不能となります。
携帯電話も当初から「輻輳」によって1割程度しか通話がつながらなくなります。さらに東北・北海道にある携帯基地局すべてのうち1~2%の基地局が使用できなくなります。沿岸部の被害の大きな地域に集中するため、被災エリアでは数日間は通信ができなくなることを覚悟しなければなりません。
◆交通網もずたずたに…
東北・北海道の被災エリアである沿岸部を中心とした地域の足といえば、車が大きなウエートを占めていますが、道路は最大で約6500か所で路面の損傷や沈下、のり面の崩壊、橋が壊れるなどして通行ができなくなります。
鉄道施設の被害は、最大で約2800か所。日本海溝の地震の場合は、新幹線も約80か所で被害を受ける予想です。
空港も、日本海溝の地震が起きると仙台空港が再び津波の浸水を受け、ほとんどの敷地が2メートルもの津波につかる予想です。
◆備蓄などの備えの重要性が浮き彫りに…
また想定では医療について、病院建物の被害やライフラインの支障などによって医療機関も被害を受ける中、災害による膨大な重・軽傷者が発生して、医療がひっ迫する予想です。入院や転院が必要なのに、対応できない患者は全体で約5000人。遠くのエリアへの輸送が困難となる場合には最大1万9000人もの人が必要な医療を受けられなくなります。
こうした甚大な被害を乗り切るためには、自治体などに頼るだけでなく、各家庭でいかに備えを進めておくかが重要になってきます。津波の浸水エリアでは、津波の被害のない高台の知人のところや避難場所などに、各家庭の緊急用の着替えなどの物資を普段から準備しておいておくといった工夫も必要になります。地域の状況に応じた備えの取り組みが求められています。
写真:千島・日本海溝のモデル地図