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「いかに子どもたちが消費されない社会をつくるか」――オンラインとリアルで10代の「居場所づくり」に取り組むNPO代表に聞く 【子どもたちが、生きやすく】

2022年8月13日 10:00
「いかに子どもたちが消費されない社会をつくるか」――オンラインとリアルで10代の「居場所づくり」に取り組むNPO代表に聞く 【子どもたちが、生きやすく】

「『人として自分を大切にできる』ことが置き去りになっているように感じます」――。認定NPO法人3keys(スリーキーズ)代表理事の森山誉恵さんはそう語る。同法人は、10代向け支援サービス検索・相談サイトの運営や、どんな子どもたちでも家のようにくつろげるパブリックな場所として「ユースセンター」を去年設立するなど、オンラインとリアルの両面から「子どもたちの新たな居場所」を提供している。「子どもたちが、生きやすく」。森山さんにそのヒントを聞いた。<取材・文=鈴江奈々(日本テレビアナウンサー)>(前・後編の前編)

■オンラインとリアルで作る子どもたちの「新たな居場所」とは

――10代の子どもたちの支援活動をされています。具体的にどのような取り組みなのでしょうか。

もともと虐待で保護された子どもたちの学習支援が始まりです。その支援を通じて学校や家庭以外に子どもたちとの接点がない事を痛感しました。そこで、施設に保護された子、家庭内で虐げられるなど子どもの権利が保障されてない子どもたちに、オンラインとオフラインで支援をしています。

オンラインでの一つは、家庭や学校以外に子どもたちが頼れる先を少しでも増やす取り組みです。「Mex(ミークス)」というサイトで、全国の700近くの相談窓口を紹介しています。例えば、虐待を受けた時、妊娠した時、就労について悩んでいる時に相談できるところ、学校や家以外でも過ごせる場所なども紹介しています。

日本は行政の窓口やNPOの認知度が低く、大人でも生活保護などの社会保障を利用している割合が非常に低いのが特徴です。子どもはもっと知らないし、利用していない。実は子どもが一人で利用できる社会資源がこれだけある。それがわかるように、そして子どもが一人でも相談できるように、ということです。

もう一つは、人権についてわかりやすく伝えるために、「ミーのなやみ」という動画を作成しています。特に虐待が何か、いじめが何かということを知らない子が多い。全員に知ってほしいものを動画にしています。また子どもからよく寄せられる相談を記事にして、Mexのサイト上で公開しています。

よく読まれる記事は妊娠について。性教育も十分にされておらず、親に相談できない子だと、相談できないまま中絶できる期間も過ぎてしまう事例もあります。親や家族に頼れないことが、望まない妊娠・出産にもつながるので、正しく知ってもらうための記事を配信して、学校でも教わらないけれど、子どもたちが本来知っておくべき「人権」や「自分を守る方法」などの知識を伝えるようにしています。

オフラインでは、主に10代や思春期の子たちが、安心してゆっくりと過ごせる場所を作っています。学校も家庭も子どもを結果で評価してしまう。子どもを自立させ、社会で役に立つ人に育てるのに一生懸命で。悪気はないと思うのですが、評価されて息苦しいと感じている子たちはたくさんいます。

今、学校と家以外で「そんなの気にしなくていいよ」なんて声をかけてくれる存在もなかなかいない。結局、「できる・できない」という基準で測られて、それが過激になると、そこから虐待やいじめ、体罰に発展してしまうケースもあります。評価されない、自分らしくいてもいい場所が必要です。

静かに自分を取り戻したいときに過ごせる場所がなかなかないんです。勉強する場所や就労支援が受けられる場所は、結局「頑張れ」と背中を押す場所。それも必要ですが、それらは競争の延長線にある。私たちも学習支援をしていますが、それだけだと「あなたは生きていい」というメッセージにはならない。

社会的なものを育む場所ではなく、「自分らしさを取り戻す場所」「休める場所」というのは、10代に実は最も必要じゃないかと思い、ユースセンターを運営しています。頑張るためには、自分は生きていていいし、自分は虐げられちゃいけない存在だということをちゃんと理解してからじゃないと、無理が来てしまう。そういうベーシックな部分を揃えていくためのオンラインとオフラインの場所を日本で増やすために頑張っています。

――ユースセンターを見学させていただきましたが、食事がとれたり、シャワーを浴びられたり、そしてゆっくりとくつろげるソファーもあったりして、自宅のリビングのような心地よい空間でした。

この施設を利用する際、「誰かと交流しないといけないのか」とよく聞かれるんですが、そんなことはなく、ほとんどの子どもたちが一人でゆっくりと過ごしています。また、寄付で集まった食料や日用品などをセンターから持ち帰れるようにしています。

■日本の子ども 体は健康でも心は“貧困”

――日々子どもたちと向き合う中で、今、どのような課題を感じていますか?

地域社会の繋がりがなく、家庭の外で子どもたちを支える人がどんどん減っています。一方で、児童虐待の相談対応件数は年々増加していて、2020年は年間20万件ほど。いじめや不登校も10年前、20年前に比べて増えています。

実態が増えたと捉える人もいれば、これまで隠れていたものが表面化していると捉える声もあります。いずれにしても把握されているだけで沢山あることが明るみに出てきているのは事実です。子どもたちにとって重要な生活拠点である家庭と学校のどちらも、虐待やいじめという暴力的な環境にあって、子どもの安心安全が脅かされているのを感じています。

一方で子どもたちからよく聞かれるのは、「ごめんなさい」「こんな子で生まれてごめんなさい」
「自分が悪い子だから叩かれている」「自分が死ねば友だちや親は喜ぶんじゃないか」といった言葉。

日本は大人の自殺件数も多いですが、近年は減ってきている状況です。一方で子どもの自殺は減らないどころか増えている。子どもたちと日々向き合っていると、それは残念ながらとても納得感があります。自分が叩かれている側、いじめられている側なのに、謝っているというのはよく見かける風景です。その結果、自分が死ぬことが一番迷惑のかからない方法だと思っている子たちが非常に多い。

子どもの幸福度に関するユニセフのレポートによると、日本は先進国38か国の中で、死亡率や肥満率による「身体的健康」は1位なのに、「精神的幸福度」では37位とかなり低いです。体は健康かもしれないけれども、心は本当に貧しい国だなと感じています。

――学校や家庭で子どもたちの安心安全が脅かされていることが、精神的な幸福度の低さに繋がっている、ということでしょうか。

(学校や家庭には)社会の縮図があります。家庭が変わればいいとか、学校の先生一人一人の責任よりもっと大きい問題だと思っています。ただ、少なくとも子どもが接している場所は家庭や学校。結果として、そこで子どもたちがいじめられているような状態になっているのは事実だとは思います。

■生産性が子どもの人権を侵害する社会

――日本は物があふれ治安も良く、安心・安全な国なはずなのに、なぜなのでしょうか?

私たちは「Mex(ミークス)」という10代向け支援サービス検索・相談サイトを運営していますが、その利用状況を見ていると、虐待が何なのか、いじめが何なのか、自分の権利が何なのかということを知らない子が多いと感じます。ニュースになるような、虐待を受けて亡くなるケースが「虐待」ということはわかっています。ただ、それより軽微なものは自分が我慢しなきゃいけないもの、受けて当然だと思っている。それは人権意識がすごく低いからなんです。

日本が先進国であっても、そういった(人権)教育が、学校でも家庭でも不十分だし、社会の何かしらの装置として教育システムがあるわけでもない。だから、大人になって初めて「あれが虐待だったんだ」「あれはいじめだったんだ」と知る人が多い印象があります。

それに加え、子ども時代が受験や部活で忙しく、ある意味大人以上に追い込まれている。競争社会にさらされて、自分が価値のある人間かどうかと測られる場面が多いと思います。そのレールに乗ってしまうと、上位の人たちは達成感がある一方で、その他の上位に行けなかった人たちは、何で自分を肯定するのか。それがないとなると、大半の人たちにとって自分の生きる意味を見失ったり、自分に価値がないものとして認識してしまったりするのではないかと思いますね。

――「人としてこうあるべき」という考えを、無意識のうちに、学校や家庭の場でも子どもたちに押し付けてしまっているのかもしれないですね。

私は海外で幼少期を過ごしてきましたが、他の国と比べて、日本は特に経済合理性、資本主義に翻弄される社会だと感じます。北欧やアメリカなどでは、人として幸せになるということが軸にあり、人権から逆算した教育がされている。根本的な考え方の違いがあるように思います。

日本の子どもたちは「生産性がないと生きる意味がないのか」「活躍できないと生きる価値はないのではないか」と自分の価値を問い続けています。日本の特徴として教育の場でも家庭の場でも「社会が求めている人材になる」「誰かの役に立つ」が第一にあって「人として自分を大切にできる」ことが置き去りになっているように感じます。

「勉強とか活躍できない自分は価値がない」「親の期待に沿えない自分は悪い子だ」とか、親に対して「こんな子に生まれてごめんなさい」という子がたくさんいます。本来は反発する方が健全ですよね。大半は怒っているというよりは自己否定して詫びている感じですね。 なので、私がユースセンターやMexを運営する上でも大事にしていることは、「いかに子どもたちが消費されない社会をつくるか」ということです。

<森山誉恵(もりやま・たかえ)>
認定NPO法人3keys(スリーキーズ)代表理事。慶應義塾大学法学部卒業後、子どもたちの生まれ育った環境によらず必要な支援が行き届くことを目的としたNPO法人3keysを設立。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会幹事。

<連載企画>『子どもたちが、生きやすく』
少子化が進む一方で、子どもたちを取り巻く環境は複雑さを増し、社会の課題は山積しています。今、子どもたちの周りで何が起きているのでしょうか。日本テレビ系列のニュース番組『news every.』は「ミンナが、生きやすく」が番組コンセプト。この連載では「子どもたちが、生きやすく」、そのヒントを取材します。