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がんになった緩和ケア医 恐怖を救った言葉

2021年2月8日 18:17
がんになった緩和ケア医 恐怖を救った言葉

「がん患者は『溺れる者』ではない。人生の最期まで泳ぎ切る力を持っている」――。緩和ケア医でステージ4のがん患者でもある関本剛医師(44)はそう語る。「余命2年」を告げられた医師は、残りの人生をどう生きようとしているのか。「死の恐怖」に向き合う上で支えとなった言葉とは。日本テレビの鈴江奈々アナウンサーが聞いた。(前編から続く)

◇◇◇

■「がん患者は溺れる者ではない」

――今、伝えたいことは?

いざ当事者になった時、人によって気持ちの持ちようは違うと思います。そうですね…治療を受けるのにも、がんを生きていくにも、大切だと思うようになったことがあります。「溺れる者はわらをもつかむ」というけれど、がん患者は溺れる者ではない。人生の最期まで、泳ぎ切る力を持っている。

この世に生まれてきたからには、泳ぎ切らないといけない。でも、「大変なことになった」「どうしよう」「助けて」だけでは、きつい治療は乗り切れないです。人は生き抜く力を持っているけれど、それには、勇気や覚悟が要ります。私の場合は、子供達がまだ小さいので「成長を妻と一緒に見ておきたい」という強い気持ちが「抗がん剤受けてみようかな」となります。

3週に1回の抗がん剤治療。幸い副作用の(コントロールする)技術も発達しているので、おとといも受けてきたんですが仕事を休まずにできています。休まず仕事ができれば、治療費プラス子供達と妻とスキーに行く旅行代になるかなと。そういう“エンジン”になることが必要だと思います。

患者さんの中には、死の恐怖に圧倒されている方もいらっしゃいます。どうしたらいいかわからない、誰に何を相談したらいいかわからない…、そういう状況ではなかなか治療の辛さにも耐えられないですよね。何のために治療をしているのか、泳ぎ切るためには、目標、目的が必要。「次の桜は見る」「オリンピックは見る」「来月の子供の結婚式には出る」そうした小さな目標でいいと思います。

■「死の恐怖」から救った言葉

――現実を受け止めるまでの過程で、心の支えとなったものは?

去年9月に亡くなった、死生学の権威として知られる上智大学のアルフォンス・デーケン教授の言葉がずっと心に残っています。「人間は亡くなる直前まで、成長し続けることができる唯一の生き物だ」という言葉です。周りの人へ感謝の言葉を伝えたり、与えられた時間で準備したりできる、成長し続けられるということ。

それから「今日が雨だからといって晴れじゃなかったと嘆いても、それは別に人間にはどうすることもできない」と。天気って、雨も晴れもある。それは自分の体調とか検査の結果も一緒なんじゃないかと。自分の努力でどうにもならないことを結果が出る前から嘆いたり心配したりしてもしょうがないと思えるようになった。

その2つの言葉が救ってくれたような気がしますね。あとはユーモア。ユーモアは人生の潤滑油みたいなもので。コロナ禍とかそういう緊急事態においても、クスっと笑い合えるような楽しみを見つけていく努力、センスみたいなものは大事だなって思います。

――死の恐怖と向き合うことが、今を生きる上でどんな意味を持つと感じていますか?

先人たちの言葉に支えられているなとつくづく思うんです。「人は生きてきたように死んでいく」っておっしゃられた柏木哲夫先生の言葉。日本の緩和ケア病棟ホスピス病棟の草分け的な先生です。人に対して怒り倒して過ごしてきた方はやはり周りの人に怒り倒しながら死んでいく。感謝の気持ちを忘れずに過ごしてこられた方はやっぱり亡くなる直前まで、周りの人はもちろん家族や医療者に対しても感謝の気持ちを表しながら平穏に死んでいく、と。

私も死ぬことが全然怖くないわけじゃありません。でもこうなったからにはしょうがないからその日が来るまで生き抜こう、というか「楽しくいかんと損やな」みたいなそんな気持ちになった。時間がたってからの話ですけど。そう思ったからにはしっかり成長し続けないといけないなと。感謝の気持ちを一番伝えなきゃいけないのは家族ですね。妻や子供たち。そして周りの同僚や先輩後輩たちにもそういう気持ちを伝えたい。改めてそんな気持ちがぐっと強くなった。普通の同年代の方よりも残された時間が短いだけに、しっかり時間を無駄にしないように。死を意識することによってそう思うようになりました。

――「命」と向き合う中で伝えたいメッセージを。

人って、人それぞれ自分なりの生き抜く力を持っていると思うんですよね。それぞれいろんなショッキングなことが人生待ち構えているかもしれませんけども、見失わないように。自分自身の力も大切ですが、周りの力もとても大事だったりする。自分自身で強く生きる、プラス大事な周りの人たちを大切にしていただければ。それが一番の「生きる力」になるんじゃないかなって思います。

(2月4日の「世界対がんデー」に合わせ6日に開かれたオンラインイベントでの対談を再構成した。イベントは一般社団法人CancerXが主催。)

▼関本剛(せきもと・ごう)
1976年兵庫県神戸市生まれ。関西医科大学卒業後、同大学附属病院、六甲病院緩和ケア内科勤務を経て、在宅ホスピス「関本クリニック」院長。緩和ケア医として1000人以上の「看取り」を経験する。2019年、ステージ4の肺がんと診断され、治療に取り組みながら医師としての仕事を続ける。

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