記録的大雨から5か月 閉院決めたクリニック最後の1日
大雨で運営を続けることができなくなったのは秋田市にあるクリニックです。高性能の医療機器などが浸水した影響を受け、9日に閉院しました。25年余りにわたって地域の医療を支えてきたクリニックの、最後の日を取材しました。
脳神経外科が専門の秋田メモリアルクリニック。渡邉克夫院長(59)はスタッフの誰よりも早く診察の準備を始める生活を就任当初から続けてきました。
7月の記録的大雨ではクリニックがある秋田市の南通地区にも水が押し寄せました。クリニックにも泥水が流れ込み、床上30センチほどにまで浸水。医療機器や設備の大半が使えなくなりました。
脳の細部まで調べられる高性能のMRI2台も使用不能に。市内に合わせて14台しかないという貴重なものでした。
MRIをはじめ使えなくなった医療機器すべてを再び導入するためにかかる費用は少なくとも4億円。渡邉院長は、元のように戻すことはできないと判断しました。
渡邉克夫院長は「水浸しの病院っていうか、あのときは絶望ってのが一番合うんでしょうかね。本当に前日までは微塵も考えてなかったので、こんなに簡単に終わっちゃうのかな」と当時の気持ちを話します。
渡邉院長は閉院を決めた後も患者のためにできることを最優先にしてきました。
職員総出で取り組んだ懸命の復旧作業。被害に遭ってから10日後にはクリニックを再開しました。
薬の処方や“痛みを和らげる治療”に専念し、ほかの病院などへの患者の引き継ぎも進めました。
最後の日も多くの患者が訪れました。
診察や検査を希望する曜日や、自宅からの距離など、一人ひとりの状況に合わせて紹介先を決めていきました。
能代からの女性患者は「すごくいい先生だって聞いて来たのが初めでした。すごく丁寧に頭痛のことも相談に乗ってくれましたし、話聞いてもらうだけでもこう、落ち着いたりしてたのでちょっと寂しいです。」と話します。
また別の女性患者も「お世辞とかそういうのは言わない先生なんだけれど、心の中はすごくあったかくて」と話していました。
26年続いたクリニック。患者からはたくさんの手紙が届きました。
渡邉院長が駆け出しだったころ出会った当時8歳の女の子。綴られていたのは脳腫瘍の手術を受けたとき声をかけて寄り添い、励ましてくれたことへの感謝でした。
予約が込み合う総合病院からの検査依頼も引き受けてきたクリニック。スタッフの力も欠かせませんでした。
四半世紀にわたって地域の医療を支えてきた秋田メモリアルクリニック。大雨からおよそ5か月が経った今月9日が最後の日となりました。