「無痛分べん」8割が“賛成”でも――日本では1割弱のみ、広がらないワケ “出産の痛み”は必要?…意識に変化も【#みんなのギモン】
アメリカやフランスでは大多数の人が選んでいる無痛分べんですが、日本では広まっていません。背景には費用や医療体制がありそうですが、日本テレビの独自調査では痛みへの意識が変化していることが読み取れます。無痛分べんで出産した母親を取材しました。
8月3日、福岡・北九州市に宮城美沙さん(29)を訪ねました。第三子の出産を間近に控え、長女と二女を連れて里帰りしていました。
長女は自然分べん、二女は麻酔で陣痛を緩和する無痛分べんで出産。今回も無痛分べんで産むことを決めました。その理由は陣痛です。
宮城さんは「こんなに痛い思いをすることがあるんだって(思いました)」と過去の出産を振り返ります。痛みのせいで後悔もあります。
「その当日、自分も何もできなくて、娘の顔もよく見ることができなかったので、すごい後悔しました。産んだ瞬間とかも見たいなとか、喜びとかも夫と分かち合いたいなと思いました」
出産当日、分べん室で麻酔を開始し、順調にお産は進みました。自然分べんであれば、出産間近になると激痛に襲われますが、宮城さんは「(痛みは)全くないです」と言いました。
助産師が「ぐっと息しまーす。そうそう、そうそう」と呼びかけ、「おめでとうございます」という言葉とともに産声が上がりました。赤ちゃんと対面した宮城さんは「ゆっくり堪能できてかわいい。かわいい」「髪の毛がふさふさ」と笑顔を浮かべました。
妊婦に負担の少ない無痛分べんでの出産は、日本産科麻酔学会によるとアメリカが73.1%、フランスが82.2%であるのに対し、日本では8.6%(2020年)にとどまります。
日本テレビの独自調査によると、無痛分べんに賛成する人は全体の80.9%に達しましたが、なぜ日本では広まらないのでしょうか?
30日に都内で聞くと、無痛分べんを選択した人からは「費用がちょっとかかるかなって感じですね」、自然分べんを選んだ人からは「無痛分べんもいいなって思うんですけど、費用の面もあるので…」という声が聞かれました。
無痛分べんの場合、通常の出産費用(約50万円)に加えて10~15万円ほどかかります。今回の調査でも「無痛分べんは費用負担が大きい」といった声が54.7%に上りました。
また専門家は、もう1つの問題点を指摘します。
神奈川県立保健福祉大学の田辺けい子准教授は「無痛分べんを取り扱っている産婦人科がないなど、都市部と地方で顕著に分かれています」と言います。
麻酔の専門的な知識が必要な無痛分べん。高い技術が必要で、合併症を引き起こす可能性もあるため、専門知識を持った麻酔担当医のいない医療機関では、実施すること自体が難しいといいます。
宮城さんの出産から1週間後の11日。3人の育児に追われていた宮城さんですが、痛みがなかった分、体力の回復も早かったといいます。「広がってくれたら選択肢の1つになるので、できれば広がってほしいなと思います」と願っています。
有働由美子キャスター
「『お腹を痛めた子』と言いますが、そういう考えも変わってきているんですよね」
中島芽生アナウンサー
「そうです。日本テレビが行ったアンケート(20代以上の男女1054人に調査)によると、『出産の痛みは、母親になるならば経験しておいた方がよい』という質問に『そう思わない』『あまりそう思わない』と答えた人は半数を超えて51.1%でした」
「『無痛分べんを選ぶことは甘えで、ずるい』との問いには『そう思わない』『あまりそう思わない』と答えた人は72.1%でした」
「アンケートを監修した田辺准教授は『出産の痛みに意味を見いだす人が少なくなっている。社会全体の女性の痛みに対する考えが変わってきていることの表れではないか』と分析しています」
有働キャスター
「ただ、費用が高いという方もいらっしゃいましたね」
中島アナウンサー
「政府は出産費用の保険適用を検討していますが、無痛分べんの費用が含まれるかは、今のところ不透明だということです」
辻愛沙子・クリエイティブディレクター(「news zero」パートナー)
「『お腹を痛めないと愛情が育たない』という声もまだありますが、私自身、無痛分べんで産まれています。母からの愛情を、それで足りないと思ったことはもちろんありません」
「自然分べんを『普通分べん』と言うこともありますが、痛みを伴う出産方法が普通と呼ばれることにも、少し違和感があります。アメリカやフランスでは、圧倒的多数が無痛分べんです。そのために、助成金や保険適用も含め、ハードルが下がっていってほしいです」
「とにかく、子どもを産んだら終わりではなく、その先に子育てもあるので、せめて出産の時くらいは1ミリでも精神的、身体的に負担が少ない選択肢が広がるといいなと思います」
有働キャスター
「もちろん麻酔の副作用などリスクはゼロではありませんが、『疲労が少なかった』『回復が早かった』という声も多く聞かれます。無痛分べんを望む人が望むタイミングで選択肢にできる体制が、さらに広がってほしいと思います」
(8月30日『news zero』より)
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