“巨大な海水の塊”で水温変化 台風の発達に影響も 東京大学などの研究グループが明らかに
地球温暖化の影響で今後、さらに勢力が強くなるとみられている台風ですが日本の南の海域にある「亜熱帯モード水」という海水の塊の“厚さ”が、台風の強化につながるおそれがあるという研究結果を東京大学などの研究グループがまとめました。
海水温は、海面付近が高く、水深約1000メートルまでは深くなるほど水温が低くなります。
しかし、日本の南の海域の深さ100~500メートルの範囲には「亜熱帯モード水」という水温16~19度と水温がほぼ変わらない海水の層が存在しています。
この「亜熱帯モード水」は、黒潮が運んできた暖かい海水などの影響によって形成される巨大な海水の塊(水塊)です。
東京大学大気海洋研究所の岡英太郎准教授らの研究グループは、水深2000メートルまでの水温や塩分を自動計測できるロボット「アルゴフロート」の観測データを解析しました。(2010年~2021年のデータ)
その結果、季節にかかわらず、「亜熱帯モード水」の層が“厚い”海域ほど、水温構造が押し上げられ、海面付近を冷やし、水温が低下するという傾向が示されたということです。
また、台風の発達と関係があるとされている海洋の貯熱量も、「亜熱帯モード水」の層が“厚い”場所ほど低い傾向があることがわかりました。
さらに、気象庁のデータをもとに、日本付近に向かって北上してきた3つの台風で数値シミュレーションをおこなったところ「亜熱帯モード水」の層が厚かった2015年の場合は、海面付近の水温が低下することによって、台風の中心気圧が最大で3~9ヘクトパスカル弱まる結果が出たということです。
これらのことから、「亜熱帯モード水」の層が“厚い”ほど海面付近の水温が低くなって台風を弱め、一方、「亜熱帯モード水」の層が“薄い”ほど、水温が高くなって台風の勢力を強める効果があるということです。
日本の南の海域にある「亜熱帯モード水」の厚さは、2015年ごろにピークを迎えたあと、2017年以降は黒潮大蛇行の影響で大きく減少し、2021年には2015年に比べて約100メートル薄くなりました。これにより、日本の南の海域の水温は約1度上昇したといいます。
研究チームは地球温暖化の進行により、将来、「亜熱帯モード水」がさらに減少することで台風の勢力が強まり日本付近に大きな影響を与えるおそれがあると指摘しています。
海洋物理学が専門の東京大学大気海洋研究所の岡英太郎准教授は、「亜熱帯モード水」をはじめさまざまな特徴を持つ海水は世界中に存在するため、「まずは海を理解することが大事」としたうえで、気象庁が蓄積する長期間の観測データなどを活用しながら研究を進め、気候変動の予測につなげていきたいと話しています。