【解説】ブルース・ウィリスさん「前頭側頭型認知症」発症年齢の平均は50代 症状のサインとは
アメリカの俳優、ブルース・ウィリスさん(67)が認知症を患っていることを家族が公表しました。
●前頭側頭型認知症
●平均は50代
●家族が公表のワケ
以上のポイントについて、解説します。
■ブルース・ウィリスさんの家族が公表
16日、ウィリスさんの妻・エマさん、元妻のデミ・ムーアさんらは連名で、「去年の春にブルースの失語症の診断を発表して以来、彼の症状は進行し、前頭側頭型認知症と診断されました」とSNSでコメントを公表しました。
さらに「残念ながら、意思疎通の問題はブルースが直面している症状の1つに過ぎません。つらいことですが、明確な診断が出て、ホッとしています」と、ウィリスさんの現在の状態が垣間見えるような言葉も投稿されていました。
ウィリスさんは、日本でも大ヒットした映画「ダイ・ハード」、「シックス・センス」、「アルマゲドン」、「パルプ・フィクション」など1980年代から、40年にわたり約100作品に出演しました。
ブルース・ウィリスさん(2013年)
「今、一番大変なアクションシーンは、15か月の娘を追いかけることだ」
幼い娘と絡めてジョークを話す気さくな一面がある一方、「ゴールデン・グローブ賞」、「エミー賞」を受賞し、世界中にファンを持つ著名な俳優です。ウィリスさんは激しいアクションシーンなど屈強なイメージがある一方、ちょっとおちゃめで親しみがある一面も。いろいろな顔で、私たちを楽しませてくれていました。
こうした中、2022年3月、俳優業を引退することを発表しました。認知能力に影響を与える「失語症」と診断されたことがきっかけだとしていました。家族の発表によると、失語症がさらに進行したため、今回は「前頭側頭型認知症」と診断されたということです。
■「前頭側頭型認知症」とは 医師に聞く
では、「前頭側頭型認知症」とは、どのような病気なのでしょうか。一言で認知症といっても、さまざまな種類があります。日本の認知症の患者数は600万人以上と推計され、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予測されています。
日本医療研究開発機構によると、ブルース・ウィリスさんが診断された「前頭側頭型認知症」は、アルツハイマー型認知症、脳梗塞などがきっかけでおこる血管性認知症に次いで3番目に多い認知症です。特に注目すべきは発症年齢で、平均は50代。65歳未満で発症する「若年性認知症」の一種です。まさに働き盛りの年代で、家族や仕事への影響も大きい年齢です。
・アルツハイマー型認知症(57.3%)
・血管性認知症(15.5%)
・前頭側頭型認知症(10%)
では「前頭側頭型認知症」は、どのような症状が出るのでしょうか。日本認知症学会理事・新井哲明医師に聞きました。
「前頭側頭型認知症」は脳の前方にある「前頭葉」と「側頭葉」にタンパク質がたまり、萎縮することで起こる認知症の一種です。前頭葉は、言語や感情をコントロールする役目を持っています。前頭葉が萎縮することで、感情や行動の抑制が効かなくなり、性格が変わったようになることもあるということです。
例えば、「人の物を取る」、「信号無視」、「行列に割り込む」など普通の大人ならしないような行動を取ってしまうことが多いということです。他にも「意欲低下」という特徴もあり、「お風呂に入らない」、「歯を磨かない」など、日常的にやってきたことをやらなくなる場合もあるとしています。
また「同じ行動を繰り返す」というのも特徴の1つです。「手をたたき続ける」、「毎朝、同じ時間に起きて、同じ場所に散歩に行く」など、決まりきった生活を繰り返し、「同じ物を毎日食べ続ける」という食行動の異常も現れるということです。
認知症について、多くの人は「物忘れ」というイメージを持つと思いますが、特に「アルツハイマー型」の場合に起こる症状です。「前頭側頭型認知症」の場合、アルツハイマーと違い、後期の症状まで進行しない限り、記憶は保たれているということです。
一見、気付きづらい症状ですが、次のようなサインが出たら、要注意です。
新井医師によると、初期症状として、言葉がうまく出てこないといったことや相手の話していることがよく理解できないといったことがあらわれる「失語症」、「場にそぐわない言動」、「意欲の低下」などがみられるとしています。「失語症」が症状としてあらわれるかはタイプに分かれるということですが、「前頭側頭型認知症」の特徴の1つだということです。
「前頭側頭型認知症」の根本的な治療法は、確立されていません。「アルツハイマー型」の場合、既にアメリカでは病気の進行を遅らせる治療薬が販売されています。
しかし、「前頭側頭型認知症」は同じ行動を繰り返す症状などをやわらげる「対症療法」はありますが、病気の進行を遅らせる薬はまだありません。
公表した理由について、ウィリスさんの家族は「ブルースの病状が進行する中、さらに理解と研究が必要なこの病気に光が当たるようメディアが注目してくれることを望んでいます」とコメントしました。
病気を公表することで、“1人でも多くの人が救われること”をウィリスさん本人が望んでいるとしています。
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ウィリスさんの病気は「アルツハイマー型」と比べ、まだまだ認知度が低く、周囲の人も“認知症の一種”だと気付きにくいケースも想定されます。今回、ハリウッドの大スターがあえて病名を公表したことで、「前頭側頭型認知症」への関心が高まり、理解が進むことが期待されます。