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授業時間は韓国の「10分の1」中学生の情報教育 教員不足も深刻なぜ? #みんなのギモン

2024年10月30日 16:07
授業時間は韓国の「10分の1」中学生の情報教育 教員不足も深刻なぜ? #みんなのギモン

コンピューターの活用法を学ぶ、AIのことを知る・・・こうした情報教育は小学校から始まっています。ところが今、全国の公立中学校では、情報分野を教える「技術科」の教員が不足し、国語や家庭科など専門外の教員が穴埋めで教えているケースが多いことがわかりました。その上、中学校の情報学習の時間は韓国の10分の1。デジタル活用が不可欠な時代に教育現場の実態が乏しいのは、なぜでしょうか?(報道局 調査報道班 小野高弘) 

■「正解がわからない・・・」

記者が訪ねたのは神奈川県内の市立中学校の技術科の授業。3年生の生徒の前に1人1台ずつパソコンが置かれています。教えているのは20代の女性教諭です。

この日のテーマは「双方向性のあるコンテンツとは何だろう」。
女性教諭が問いかけます。
「家の中にある双方向のものといえば?」「そう!Siriとかアレクサとかあるよね」
「では、ある場所に行くのに紙の地図で調べるか、地図アプリに聞いて答えてもらうか、メリットとデメリットを考えてみましょう」

次々と挙手した生徒らは
「ネットだと電波が届かない場所では使えない!」
「紙だと地図が最新かどうかわからないと思います」
「ネットはどのぐらい時間がかかるか教えてくれる」

生徒らの関心を引き出しながらテキパキと授業を進める教諭。でもじつは家庭科の教員です。この学校に技術科の教員がいないため、この女性教諭と理科の男性教諭が「免許を持たない教科担任」として手分けをして技術科を受け持っているのです。

女性教諭は今年度、本来の家庭科の授業が週10コマあり、それに加えて技術科の授業を週6コマ担当しています。

画面上のネズミが迷路を脱出するプログラミングを教えたり、LINEのようにチャットできるアプリを生徒自身が作る授業も予定したりしていますが、免許を持たない専門外のことを教えるって・・・大変なのでは?

女性教諭
「SNSぐらいはやりますが、プログラミングなんてやったこともなかったですから。家庭科は自信がありますが、技術科だと知識量がないのでヒントを出してアイデアを導く引き出しもなく、教え方の正解がわからずやっています」

「生徒はこちらが予期せぬ失敗をするんです。先生、これどうしたらいいんですかって聞かれるんですが原因や解決法が示せず、なぜだろうね~って一緒に考え込んでしまうこともあります。授業が深まらないですよ」

女性教諭は「わらをもすがる思い」で技術科教員の研修会を自分で見つけて参加したり、技術科の元教諭だった教頭に相談して教材のデータを譲り受けたりしながら授業を考える大忙しの毎日です。

じつはこのような光景は全国の中学校で見られるといいます。技術科の免許を持つ教員が全国的に不足し、免許外の教員による掛け持ちで埋め合わせているのです。

■7割以上が「免許なし」も

昭和の時代、技術科の授業では木材や金属の加工をしたり、電気の知識でモーター仕掛けの製品を作ったりしました。平成以降はコンピューターの仕組みを知る分野が盛り込まれ、令和の今、インターネットや情報リテラシー、プログラミングについて広く技術科の中で学ぶよう学習指導要領で定められています。暮らしや仕事で不可欠なスキルであるため、国も力を入れています。

ところが文部科学省が、技術科の授業を担当する全国の公立中学校の教員9719人を調査したところ、2022年度、正規免許を持っている教員は7474人(76.9%)で、残る2200人あまりは期限付きの「臨時免許」だったり、国語や数学など他の教科の教員が教える「免許外教科担任」だったりしました。

この傾向は地方で著しく、和歌山県では技術科を受け持つ教員の75%が「免許なし」、宮崎県でも64%が「免許なし」。これに鹿児島県、大分県、高知県などもあわせ、7つの自治体で担当教員の半数以上が「免許なし」でした。一方、東京都や茨城県など6つの自治体は担当教員の全員が免許を持っていました。地域格差が大きいのが現状です。

■技術科の教員は不人気?

なぜ技術科の教員はこんなに不足しているのでしょうか。

大学の教員養成課程を調べてみたところ、2022年時点で中学校の教員免許が取得できる大学は全国で514ありますが、このうち技術科の免許が取得できるのは63です。山形県や秋田県、石川県など5県では技術科の免許が取得できる大学はゼロでした。

背景には、中学校の技術科の教員養成課程は履修すべき科目数が多く実習もあるため学生と大学の双方に負担が大きく、人気がないことが理由だとみられます。

文部科学省や各自治体では、遠隔授業を取り入れたり外部の人材を活用したりするなど改善に取り組んでいますが、今後も全国の大学で技術科の教員養成課程を廃止する動きがあるといい、これでは技術科の教員が減り続ける可能性があります。

■授業時間は韓国の「10分の1」

心配なのは教員不足だけではありません。技術科の授業時間数も近年減ってきました。

今、中学3年間の授業時間数は外国語が420時限、国語や数学が385時限に対して技術科は87時限ほど。中でもコンピューターに関する「情報」の内容では、技術科教員らの調査によると実態として3年間でわずか20時限ほどになっています。

これを外国の中学3年間の「情報」の内容の授業時間数と比べると、韓国は200時限以上、中国は100時限以上、アメリカ・カリフォルニア州では月に10時限以上のところもあります。日本は韓国の10分の1・・・授業の少なさは際立っています。

内容でも差があります。日本の中学生はコンピューターの仕組みや計測や制御のプログラミング、情報リテラシーを学びますが、中国や韓国、アメリカの中学レベルではAIの学習、タッチパネルを利用したシステムの開発、データを収集して分析処理をする演習、ロボット開発やドローン製作など、より高度で実践的な授業が行われています。

こうした中、情報学習を社会の問題解決に役立てる授業を行っている精力的な学校もあります。

熊本市の中学校の授業では生徒たちが、地震で家が揺れたら点灯して避難経路を示してくれるシステムや、避難中の熱中症のリスクを減らすため、一定の温度に達したら警告アナウンスが流れてファンが回り出す高齢者用のベストを開発しました。

岩手県盛岡市の中学校では、生徒たちが視覚障害者のための白杖(はくじょう)のデジタル化に取り組みました。白杖の先にセンサーをつけ、障害物に近づくと白杖が振動して知らせます。さらに接近すると振動が強くなり、転倒するとセンサーが反応して音が鳴り助けを求められるようにしました。

生徒たちは「どんな状況でどんなシステムが必要になるか」を考えて装置を作り、それを動かすプログラミングを行っていくのです。装置が動かなかったり、動くタイミングが合わなかったりと試行錯誤しながら完成させます。

元中学校教員で技術科教育を専門とする国立教育政策研究所の渡邊茂一教育課程調査官は、技術科の現状についてこう話します。

「中学校技術科は、テクノロジーで社会の問題解決に貢献する資質を育てる教科です。しかし、デジタライゼーション等により産業や社会の構造が変わっていく中で世間における技術科は、のこぎりびきや釘の打ち方等の作業の仕方を学ぶという、昔の授業イメージのまま取り残されていると感じています。全国的に技術科教員が不足しているのは確かで、そのため今年4月から大学の教員養成の負担軽減を行ったり、指導資料の公開やオンライン研修による支援体制を強化したりしていますが、これらはまだ始まったばかりです」

そして今後については。

「各地では、地元の課題を解決するためのプログラムを考えたり、最新のテクノロジーを取り入れた実践的な授業を行うなど、未来を切り拓く力を育て、魅力ある授業を展開する先生方がたくさんいらっしゃいます。こうした先進的な取り組みをもっと広く共有したいと考えています。多くの人に技術科の目標や授業の内容を知っていただき、授業に取り組む先生方に温かいご支援をお願いしたいです」

【みんなのギモン】

身の回りの「怒り」や「ギモン」「不正」や「不祥事」。寄せられた情報などをもとに、

日本テレビ報道局が「みんなのギモン」に応えるべく調査・取材してお伝えします。(日テレ調査報道プロジェクト

最終更新日:2024年10月30日 16:07
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