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【4万人に1人】生き方が変わった… 難病の娘が教えてくれた、母が目指す“新たな道”

2024年2月20日 18:00
【4万人に1人】生き方が変わった… 難病の娘が教えてくれた、母が目指す“新たな道”

「同じ境遇の人々のために、“今までの知識”を生かしたい」
知識を力に変える方法を教えてくれたのは、難病の娘・妃加里ちゃんの存在だった。娘の病をきっかけに、“生き方”を変えた紗代子さん。新たな道を歩み出した母の表情は、大きな希望に満ち溢れていた。

4万人に1人の割合で発症する希少難病

無邪気な笑顔を振りまく大野妃加里ちゃん。今年4月から小学校1年生になる、6歳の女の子だ。生まれてから半年後、妃加里ちゃんは希少難病「スミス・レムリ・オピッツ症候群」と診断された。

「スミス・レムリ・オピッツ症候群」とは、特定の遺伝子変異によりコレステロールの生成が低下し、成長の遅れや知的障害など複数の症状が伴う難病。4万人に1人の割合で発症するといわれており、常に周りの支援が必要となる病気だ。

発達を促すために、ST(言語訓練)、OT(作業訓練)、PT(運動訓練)を行っている妃加里ちゃん。食事はヨーグルトやお粥をペースト状にしたもので、ST訓練では、ペースト状のご飯を口から食べる練習をしている。しかし、ペースト状の食事だけでは栄養が不足。現在は胃に穴をあけ、専用の器具を使用して栄養を直接補給している。またPT訓練では、母・紗代子さん曰く「手を持ってあげると歩けるけど、一人ではまだ歩けない」という状態だ。

まだまだ訓練が必要だが、家族のサポートや訓練によって、妃加里ちゃんの心身は着実に成長している。妃加里ちゃんのかかりつけ医である『医療法人 松川クリニック』の松川昇平医師は、「(妃加里ちゃんは)すごく成長していると思います。体も強くなった」と話す。続けて、「障害がある子って、その子の周りの人々が限界を作ってしまうことがあるけれど、訓練をすれば出来ることが増えていくし、将来性も広がってくる。出来ることが増えるように、サポートしたい」と妃加里ちゃんへの思いを語った。

不安と苛立ちだけが募る日々

生まれる前から妃加里ちゃんの成長が遅いことを伝えられていた、母・紗代子さん。無事に産声をあげて生まれてきてくれたのも束の間、妃加里ちゃんは新生児集中治療室へと運ばれた。少しずつ異常な部分が発見されても、病名がわからない。難病が決定的になるまで、紗代子さんは不安な日々を過ごしていたという。

一番つらかったことは、 “ミルクが飲めない”こと。ミルクを飲むことが出来なかった妃加里ちゃんは、鼻から管を入れる「経管」でミルクを注入していた。「なぜ飲めないの?」、「飲んだら普通の子と一緒になれるんじゃないか」そんな気持ちを抱えながら、上手くできないことに対して苛立ちが募る日々。

夫・淳貴さんから、「今はわが子が病気でマイナスとしか思えないけど、プラスの部分もあるはず」と励まされるが、紗代子さんの心には、“プラスなんてあるわけがない”、“健康の方が良いに決まっている”というマイナスの思いだけが積み重なっていった。

心境を変えたのは“病名の発覚”

不安だけが募る日々。しかし、妃加里ちゃんの病名が発覚したことを機に、紗代子さんの心境は少しずつ変化していく。「“病気だから飲めない”、“仕方がない”と(妃加里ちゃんの成長を)少しずつ受け入れられるようになった」と当時を振り返る紗代子さん。また、2人目のお子さんの誕生も自身を知るキッカケになった。

「買い物に行くと、(妃加里ちゃんが)ベビーカーに乗っていたり、子ども用の椅子に座っている姿を見て、“あの子、結構大きいのに座ってるね”と、不思議そうに見られたりして。妃加里の時は経管が付いていたこともあって、外へ連れていけなかったけど、下の子が生まれてからは、(妃加里ちゃんも)外に連れていくことが増えました。私の気持ち的に、人の目を気にしていたことがわかりました」と話す。病気を受け入れることで、人の目が気にならなくなったという紗代子さん。今は、妃加里ちゃんと楽しみながら、外へ出かけているという。

妃加里ちゃんが教えてくれた“新たな道”

そんな心境の変化は、紗代子さんの仕事にも変化を与えていく。妃加里ちゃんの病と向き合うなかで、重症児の医療支援制度や難病の子を持つ母親らが集まる会で、“親が亡くなった後”の我が子の生活を心配する声を耳にするようになった紗代子さん。

「障がい児の親御さんはいろいろな不安があって、中でもお金の悩みは一生つきまとう。うちの子の場合だと、将来自分で管理するのが、難しいだろうなと思うところもあります」と話す。そんな声を聞くなか、心に芽生えたのが「そういう不安を私が手助けできたら」という気持ち。

実は、大手税理士法人に勤務していた紗代子さん。税理士の資格を持ち、個人の相続や資産運用のコンサルティングを行っていた。
「今までの知識を生かして、重い病気や障害のある子を持つ親の“金銭面の不安”を少しでも取り除きたい」
そんな思いから、難病の子を持つ親からの相続や財産の管理などの相談を受けはじめた。妃加里ちゃんの出産から一年半後、当時の勤め先に復帰するも病院や訓練の付き添いで働く時間に制約が。そこで、自分のペースで働ける環境を整えるため、独立を決意。独立から3年後、「障害児家庭のためのお金と将来相談室」というサービスを立ちあげた。妃加里ちゃんの病が、紗代子さんの“生き方”を変えたのだ。

そんなとき、思い出したのが、夫・淳貴さんの「今は病気でマイナスとしか思えないけど、プラスの部分もあるはず」という言葉。妃加里ちゃんが生まれたことで、“今までの知識”を必要としてくれている人々やコミュニティと出会った紗代子さん。現在の仕事について、「障害児の親になったことで出会えた、やりがいのある仕事です」と話す。妃加里ちゃんの病が、紗代子さんに“プラス”の人生を教えてくれたのだ。

そんな妃加里ちゃんは、4月から小学1年生。
「出来ないこともあるけど、笑顔で楽しく過ごしてほしい」
そんな思いで紗代子さんは妃加里ちゃんを見守りつつ、同じ境遇にいるお母さん達の手助けをしていきたいと語った。

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