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「睡眠時間」理想と実際の差が大きいと“うつ傾向が増加” 「過労死等防止白書」発表

2023年10月13日 11:10
「睡眠時間」理想と実際の差が大きいと“うつ傾向が増加” 「過労死等防止白書」発表

政府は、過労死を防ぐため、睡眠の傾向やハラスメントなどについてまとめた白書を発表しました。その中には、理想とする睡眠時間と実際の睡眠時間の差が大きくなるほど、うつの傾向が増えるといった調査結果が盛り込まれています。

政府が発表した「過労死等防止白書」によりますと、昨年度、過労が原因の労災と認定された患者や死亡者のうち、脳や心臓の病気の人は194人で前年度より22人増えました。精神障害の人は710人で、前年度より81人増え、4年連続の増加です。一方、自殺した人や自殺未遂の人で過労による労災認定されたのは67人で、前の年度より12人減り、3年連続の減少です。

■睡眠時間…理想と実際の差が大きいほど、「うつ」傾向に

今年度の白書では、過労と関係するといわれる睡眠の実態を調べるため、会社員や自営業者、役員など含む就業者を対象にしたアンケートの結果が盛り込まれました。理想とする睡眠時間は7時間から8時間未満と答えた人が最も多く45.4%で、実際の睡眠時間は5時間から6時間未満と答えた人が最も多く35.5%でした。そして、睡眠と「うつ」との関係を調べたところ、自分が理想とする睡眠時間よりも実際の睡眠時間が多い人では、うつ傾向やうつ病の疑いがある人は31.6%で、実際の睡眠時間が理想よりも1時間不足していると答えた人では、うつ傾向やうつ病の疑いがある人はあわせて37.8%、2時間不足と答えた人では52%と半数を超え、3時間不足と答えた人では62.9%にのぼり、睡眠不足が深刻化するほどうつ傾向やうつ病の疑いの人が増える傾向がわかりました。

厚生労働省は「睡眠の不足感が増すと、疲労の蓄積につながる。しっかりと睡眠を確保することが必要だ」とし、対策の一つとして「勤務間インターバル制度」を挙げています。この制度は、終業時刻から次の始業時刻まで一定時間以上の休息時間を設けるもので、たとえば、ある企業がインターバル11時間と設定した場合、残業で夜11時まで勤務した人は、翌朝の始業時間を午前10時とする、といった仕組みです。「勤務間インターバル制度」について、政府は2025年度には、企業の15%で導入することを目指していますが、今回の白書によると、2022年1月時点で、導入済みの企業は5.8%に過ぎず、この制度を「知らない」と答えた企業の割合はむしろ増えていて、大きな課題だとわかりました。

■教育、メディア業界の過労の事態は…

今年度の白書では3つの業界を重点的に調査しました。まず教育業界では、2019年までの10年間に過労で労災認定された件数は,大学教員が最も多く、ついで高校の教員、学習塾講師でした。また教育業界で働く人のうち、精神疾患で労災と認定された例について、要因となった出来事を調べると最も多かったのは女性教員では「いやがらせ、いじめ、暴行」についで、「セクハラ」、男性教員では「上司とのトラブル」が最多でした。

次にメディア業界については、2020年度までの11年間を調べたところ、過労による労災認定の件数は広告業が最も多く、ついで、映像、放送、出版、新聞の順でした。労災認定をうけた人の年齢はメディア業界では、20代から30代の割合が全産業で見た場合よりも多いのが特徴だということです。

■声優や俳優の半数以上がハラスメントを経験

一方、芸術・芸能業界については、昨年度行ったアンケート結果が白書に盛り込まれました。これまでに、ハラスメントを受けた経験があるかを聞いたところ、「仕事の関係者に心が傷つくことを言われた」と答えた人は声優・アナウンサーの68.6%俳優・スタントマンの54.6%、文筆・クリエイターの50.0%音楽・舞台・演芸の38.3%にのぼりました。また、「仕事の関係者から殴られた、怒鳴られた」という人は俳優・スタントマンの28.7%、声優・アナウンサーの22.9%でした。さらに、必要以上に体を触れられた、羞恥心を感じる性的な実演をしなければならなかったなど「セクハラを受けた」経験がある人は声優・アナウンサーの25.7%、俳優・スタントマンの20.4%、性的関係を迫られたことがあると答えた人は、声優・アナウンサーの14.3%、俳優・スタントマンの11.1%でした。

一方、「うつ病、不安障害の疑い」「重度のうつ病、不安障害の疑い」がある人の割合は、全業種よりやや高い傾向がみられ、俳優・スタントマンの35.5%、美術家の35.0%、一方、「うつ傾向・不安なし」の割合が高いのは伝統芸能(62.0%)、声優・アナウンサー(57.1%)でした。

スケジュール上の1ヶ月あたりの休日を聞くと、0日から3日と答えた人が美術家の24.4%、音楽・舞踊・演芸の21.1%伝統芸能の19.3%で、5人に1人以上でした。一方で、月に24日以上、つまり週に6日以上が休みと答えた人は俳優・スタントマンの39.4%、声優・アナウンサーの21.2%美術家の21.1%にのぼるなど職種によって、休日にかなり差があることもわかりました。文化芸術分野でのハラスメントなどを防ぐため、文化庁は、契約書のひな形を含むガイドラインを去年7月に公表したほか、相談窓口を設けています。

■産業医のアドバイス…限界を超える無理はできない、眠れない場合は相談を

白書の中のコラムで、産業医の茅嶋康太郎氏は、労働者との面談の中で見えてくることとして「顧客満足度が高く、質の高いサービスを提供しようとすると、時間がかかる。さらにミスが許されない世の中になってきて、チェックをする項目や書類が年々増え手間と作業時間が増える」といった傾向を挙げています。そして「私たちが過労でパンクしないためには、疲れたら休養する(自己責任)、適度に休養を取らせる(管理者責任)ことが必要。そして限界を超える『無理なこと』はできない、やれば潰れるということをしっかり認識することです。」と述べています。さらに「過労の症状で一番危険なのは睡眠が取れなくなることです。ぐったり疲れているのに眠れない。寝ても夜中に何度も目が覚める。眠りが悪いと過労がどんどん悪化していきます。睡眠が悪くなったら誰かに相談してください。上司、同僚、家族、医師に」と呼びかけています。