人間国宝・小石原焼の福島善三さん “コロナ禍”で新境地を開いた陶芸家の挑戦 福岡
福岡県で初めて、陶芸家として人間国宝に認定された小石原焼の福島善三さん(63)の作品です。福岡市で個展が開かれています。“失敗は成功への道しるべ”と、“コロナ禍”で新境地を開いた人間国宝の挑戦に迫ります。
イタリア・ベネチアの美術館に展示されていた鉢は、蝶が羽ばたいた様子をイメージしています。
福岡市のデパート『福岡三越』で開かれているのは、『人間国宝 福島善三展』です。約150点の作品が、展示・販売されています。
人間国宝の福島善三さん(63)は、300年以上続く小石原焼の窯元の16代目です。粘土づくりから焼き上げまで、制作のすべてを1人で行っています。
会場でひときわ目をひくのが、今回発表された新作です。
■来場者(60代)
「薄化粧の美人みたいな。」
■来場者(70代)
「うっとりって感じですかね。」
通常は陶器のコーティングに使う化粧土の粘土で、器そのものを作るという新たな挑戦です。
■人間国宝 陶芸家・福島善三さん(63)
「発想がいままで、“化粧土にしかならないもの”と思っていたのが、“ほんとにできないかな?”って思ったところですね。思い込みということじゃなくて、なんでもやってみるっていうことですかね。」
標高500メートル、自然豊かな山あいにある福岡県東峰村に、福島さんの工房があります。
見せてもらったのは、粘土にする前の化粧土です。普段作品づくりに使っている鉄分を含んだ黒い粘土に比べて、採れる量は、1万分の1以下です。
■福島さん
「祖父の時代からとっていた化粧土。この粘土はたくさん採れないので、大事に大事に使ってきたんです。」
6年前、人間国宝に認定された福島さんですが、年間3分の1は、展示会への参加などで全国を飛びまわっていました。そうした日々は、行動が制限された“コロナ禍”で一転することになります。しかし、その分、作品づくりに没頭できる時間が増えました。
化粧土の粘土は、ろくろでの作業には本来“向いていない”といいます。それでも、あえて挑戦したのは、“遊び心”からでした。
■福島さん
「こう締める時に、ただ親指で穴を開けているんじゃなくて、こことこことで圧力をかけているんですよ。ただ単に広げているんじゃなくて、圧力をかけながら、いかに広げていくかとか。(それが)最初、失敗したところですね。」
粘土が乾燥するときに、器の底に傷が入ってしまいました。コシがない化粧土の粘土は扱いにくく、ろくろをひいて作品になるまで、7割が失敗作でした。
■福島さん
「この時点では失敗なんですけれど、“成功するための道しるべを教えてもらった”っていうようなものの捉え方っていうのを最近していまして。1回作ってすぐに成功するようなものっていうのは、ある意味ハードルが低いから、誰でも作ることができる。でも、自分が10回も20回も失敗するものは、誰でもできないことと考えれば、当然難しいことにチャレンジするので、失敗があって当たり前。」
こう前向きに話す福島さんでも、落ち込む瞬間があるといいます。そんなときは、“ふて寝”をするそうです。
■福島さん
「朝、窯出しして作品が悪いときは、しばらくお昼を食べるくらいまでショックはあるんですよ。お昼食べたあとに1~2時間、“ふて寝”というか、その時間をつくることによって、“あっ寝ちゃった”、“1~2時間たっちゃった”、じゃあ頑張らなくちゃって。」
小石原焼の伝統的な技法・飛び鉋です。一般的な飛び鉋とは一線を画し、無数の線を施すのが福島さんの特徴です。
■福島さん
「焼き物って全部メロディーが流れていると思っているので、飛び鉋とか特にリズムとかメロディーを表すには、非常にいい技法だと思っています。ここの空気のすがすがしさとか薫りとかにおいとかオーラとか、そういうものがするんじゃないかな。自分の感性と合うような焼き物が作りたい。」
試行錯誤を重ねること2年から3年、納得のいく作品が完成しました。冬になると、小石原を優しく包む雪化粧のような繊細なメロディーが刻まれています。
“コロナ禍”で新境地を開いた福島さんの視線の先にあるのは、“小石原の未来”です。
■福島さん
「小石原のろくろを作る技術だとか、飛び鉋の技法っていうのは伝承していって、いろんなことにチャレンジして、よければ残ったものが伝統と言われるし、“こんなもの”ってみなさんが納得できなければ自然淘汰されるし。そういうことをやることによって、若い人たちが“こういう考えでもいいんだ”っていうふうに、いろんな発想をしてもらえればありがたい。」
“謙虚な姿勢で挑戦を続ける”人間国宝からのメッセージです。