【前半】憲法記念日を前に…「生存権」と生活保護を考える 富山の原告と弁護士のたたかいに密着
上野キャスター
5月3日の「憲法記念日」に合わせ、施行から77年となる日本国憲法について考えます。取材している数家解説委員です。
数家解説委員
今夜は、憲法25条がうたう「生存権」について取り上げます。まずは、憲法25条の条文です。
「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
「国はすべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
つまり憲法25条は、すべての人が人間らしく生活を送る権利=生存権を持つ、そのために国は社会環境をより良くする取り組みをしなければならないと定めています。
この生存権を具体化したのが「生活保護制度」ですが、この制度を巡り全国各地で裁判が続いています。
まずは、富山で2015年から続いた裁判についてです。
2024年1月。富山地方裁判所で2015年から続いた裁判の判決が下されました。
受給者
「(自分たちを)見たくないから見てないんだろうなとしか思えないね…」
生活保護費が引き下げられたのは憲法に違反するなどとして富山市の利用者らが国や市を訴えた裁判。
「私にとっては1770円は大金です!」
富山市の西山貞義弁護士は生きる権利を守ろうと取り組んできました。
西山貞義弁護士
「絶対に負けられないと思っていますし、負けたら法律家をやめようかぐらい思っている裁判ですね」
憲法25条の「生存権」。その理念のもとに生まれた「生活保護」は、私たちの生きる権利を守ってくれるのか…
県内に住む山本まさるさん(仮名・82)。
塾講師などをしていましたが、妻の幸子さん(仮名)が40代で糖尿病を患い、山本さん自身も60歳で狭心症に。ふたりとも働けなくなり、10年ほど前に生活保護を利用し始めました。
山本まさるさん(仮名)
「あまり温度が低いところで寝ると全体に免疫力が低下するとかいうでしょ。それで工夫したのが、あらゆるもの(毛布)を積み重ねて生き残ることができているんですよ」
生活保護の利用者は全国に200万人あまりいますが、富山県は4261人。全国で最も少ない人数です。
この生活保護をめぐり、国は2013年から15年にかけて支給額を段階的に引き下げ、最終的には最大10%という大幅な減額を行いました。
主な理由は、「物価が下がっているから」でした。
山本さんはこの生活保護費減額の影響を大きく受けました。
2013年当時の生活費は妻と2人でおよそ13万円。ギリギリの暮らしでしたが、最初の引き下げで月に1770円減額されたのです。
引き下げの取り消しを求めて山本さんの妻らが富山地裁に提訴したのは2015年1月。
山本さんの妻・幸子さんは会見でこう訴えていました。
山本幸子さん(仮名)
「一般の方から見れば大した額ではないかもしれませんが、私にとっては1770円は大金です」
幸子さんは裁判が長期化するなかで持病が悪化し、亡くなりました。
山本さんの生活保護費は最終的に月におよそ3600円、引き下げられました。
年金とあわせて毎月7万5000円ほどの切り詰めた生活を余儀なくされています。
山本まさるさん(仮名)
「執念で頑張って生きなきゃならない。死なないというのも闘い、もっと言えば、それが最大の闘い…」
山本さんのように生活保護費引き下げの取り消しを求める声は、全国各地からあがり、富山を含む29都道府県で同様の訴訟が起こされています。
西山弁護士
「理由がある引き下げだったら仕方ないと思いますけど、この引き下げには絶対に理由がないと思っていますから」
西山弁護士は、強い思いでこの裁判に臨んでいます。
西山弁護士
「絶対に負けられないと思っていますし、負けたら本当に法律家やめようかなぐらい思っている裁判ですね」
国が主張する物価の下落は、生活保護世帯が買う機会の少ない高額な商品の値下がりを反映した結果だといいます。
西山弁護士
「パソコンとかテレビとかビデオカメラとか、そういうものを生活保護世帯が一般世帯と同じだけ買いますかって…そういう話なんです。買えるわけがないですし。生活保護世帯が一般世帯と同じようにこれらの物品を買っているというめちゃくちゃな仮定を置いたうえで、(物価下落で)使えるお金は増えているでしょ、という理由で(支給額を)引き下げているんですよ。これは絶対に許してはならない」
一方、被告側の国と富山市は、「物価下落を理由に一般国民の生活水準とバランスが取れていなかった生活保護費を引き下げたことに、誤りはない」と反論。
生活保護費の引き下げを問う裁判。司法の判断は…