×

母へ最後の贈り物 井波彫刻の匠が「ひつぎ」制作

2025年3月17日 19:47
母へ最後の贈り物 井波彫刻の匠が「ひつぎ」制作

亡くなった後、遺体がおさめられる「ひつぎ」。そのひつぎが今、南砺市で日本一の彫刻技術を誇る井波彫刻の技で制作されています。匠の技から生み出されるひつぎには、「人生最後の親孝行をしたい」という家族の思いが込められていました。

小気味よく響く木槌の音。南砺市の井波彫刻です。

立体的で躍動感あふれる彫り方が特徴で、精巧な技術によって生み出された作品は、見る人の心を魅了します。

神社・仏閣の装飾から欄間、ギターまで、多彩な広がりを見せる井波彫刻。その技術を生かし、これまでにない作品の制作が進められています。

井波彫刻でつくる「ひつぎ」 母のために娘が依頼

それは「ひつぎ」です。

彫刻が施されたひつぎは数多くありますが、井波彫刻によるひつぎの制作は、今回が初めてではないかということです。

富山市の柳川玄奈さんです。

今回、93歳の母親のために、ひつぎの制作を依頼しました。

母の光子さんは、病気のため介護が必要で、9人きょうだいの末っ子である玄奈さんが日々の生活を支えています。

入退院を繰り返した時期もありましたが、医師や看護師から食事や体重管理の助言を受け、今は自宅でかけがえのない時間を過ごしています。

玄奈さん「子どもの頃にしてもらったことを全部してあげてるって感じ。マッサージにしても、髪の毛を撫でるにしても、歯磨きにしても。生まれて間もない頃からずっとしてもらった事を、逆に今ずっとお母さんに、お返ししていく、恩返ししていく。やってもらった。愛情豊かに育てられたから。その愛情をたっぷり最後の最後までお母さんに注ぎたい。そんな気持ちです」

母に贈る最高のプレゼント

ある日、玄奈さんは、母・光子さんから「もしもの時が来たら、こだわりのひつぎで見送ってほしい。」と言われました。

それは、光子さんの経験から来る思いでした。

「(光子さんは自分の)母の死に目にあえなかった、それですごくこう、私が11歳のときかな、肩を震わしてこう、泣いてたときがあったんですけど。最後のお母さんの願いを叶えてあげたいっていう気持ちもありますし、これが私ができる、最後の精いっぱいの親孝行かなと思っています」

大切な人を、最高のひつぎで見送りたい。

様々な形を模索していた時、知人から井波彫刻での制作を提案されました。

歴史と伝統を誇る井波彫刻ならば、母が望む最高のひつぎができる。

そう確信し、依頼を決めました。

精巧な技術で生み出された「ひつぎ」

玄奈さんは制作の様子を見に行きました。

実際にひつぎを目にするのは、この日が初めてです。

玄奈さん「彫っていただいているんですね。うわ、天女。すごい。美しい」

完成していたのは、ひつぎの側面を構成する2枚。

特別に取り寄せたヒノキの一枚板には、今にも動き出しそうな麒麟や鳳凰、亀、龍が深く刻まれています。

デザインのイメージは玄奈さんが考えました。

そこには、天へと昇る母を護ってほしいという願いが込められています。

玄奈さん「素晴らしい…何か非常に美しい船というか、本当にそういう特等席に乗って天に導いていってくださるんだろうなと思う、安心感みたいなのもあります。感動しました」 

制作を手がけるのは、井波彫刻・伝統工芸士の頓所毘山さんです。

この道29年の頓所さんにとっても、ひつぎの制作は初めてで、これまで何度も打ち合わせを重ねてきました。

頓所さん「僕は僕なりに楽しんで仕事をするのが一番いいのかなと。それしかできませんので。」

最後の瞬間まで 感謝尽くす

去年12月に制作を始めてから3か月。

現在は天面の天女を丁寧に彫り進めています。

「龍が亀がそして天女が今、頓所さんの手によって生まれたわけですよね。ですからこの世に今、生をいただいたと思うんです。そうすると、いただいたからにはもう少しゆっくりしていっていただきたいので。そんな風に考えると、まだまだお母さんも長生き出来るかなと思うので」

井波彫刻の技でつくられるひつぎ。

そこには、大切な人に寄り添い、最後の瞬間まで感謝を尽くしたいという深い思いが込められています。

最終更新日:2025年3月17日 20:09
北日本放送のニュース