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減る消化器外科医 富山の当事者が語る過酷な勤務などの実態

2024年8月23日 20:21
減る消化器外科医 富山の当事者が語る過酷な勤務などの実態

「消化器外科医」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべますか。外科医は手術の専門家ですから、消化器、つまりお腹を手術する仕事です。今、この消化器外科医が減っていて、将来、すぐに手術を受けられなくなるかもしれない、という懸念が出ています。何が起きているのか、取材しました。

富山大学附属病院です。富山県内で唯一の特定機能病院として、高度な医療を提供しています。手術に向けて準備をしているのは、藤井 努教授です。

藤井教授「今まで何千回、何万回とやってきたことですけど、今までで最高という手術ができるようにすることが大事」

消化器外科医は主に、食道や胃、大腸の消化管のほか、すい臓や肝臓の病気に対して手術を行います。

今年4月、日本消化器外科学会のホームページに、衝撃的なデータが掲載されました。厚生労働省の調べでは、この20年間で医師の総数は増えているのに、診療科のなかで消化器外科の医師だけが減少。学会は、10年後に現在の4分の1が減り、20年後には半分に減るという試算を明らかにしました。

藤井教授「がんになっても手術は4か月待ち、交通事故にあっても診られない病院がたくさんあるという、そういうことにこれからなりつつある」

医学生や研修医が志望せず、ほかの診療科へ転身する医師も増えている。その理由のひとつは、本来の手術以外の仕事が多いことです。ICU=集中治療室の管理もそのひとつ。

藤井教授「採血は?」医師「特に問題はなさそうです」藤井教授「夜、休めました?」患者「寝たり起きたり」藤井教授「そうかそうか」

入院患者の回診も消化器外科医が担っています。

藤井教授「具合どうです?」患者「みぞおちの周り、まだ少し痛い。背中が痛い」
記者「1日に何件くらい回る?」藤井教授「(入院)患者は50人とかですね」

さらに、抗がん剤治療の外来も。

富山大学 消化器・腫瘍・総合外科 吉岡伊作特命講師「腫瘍の方もね、抗がん剤でしっかり抑えられているのでね」
藤井教授「昔は腫瘍内科とか集中治療部の医師とかなかったので。外科医が全部やる、手術だけじゃなくって、病棟も見てカメラ(内視鏡検査)もやって麻酔もかけて抗がん剤(治療)もやってっていうのが、ずっと続いてきた」

こうした経緯から消化器外科医の過酷な勤務が常態化しているといいます。藤井教授もかつてはー。

藤井教授「午前6時半とか6時とかに出勤して全部病棟を回って、朝から夜まで手術をやって、救急があったり、抗がん剤があったり、他の病棟の仕事をやって帰るのが(午後)11時12時。家に帰って寝ようかと思ったら電話がかかってきて、来てくださいってなったら、また行かなきゃいけない。そういうのが毎日、24時間365日」

藤井教授は、医師の献身によって成り立つ現状が続けば、消化器外科医は減り続け、病院が立ち行かなくなると指摘します。

藤井教授「(消化器外科医が)病院を支えている部分というのは非常に大きい」

藤井教授は2017年に富山大学に教授として着任後、働き方改革に取り組んできました。これまでの、1人の患者に担当の医師がつく「主治医制」から、全てのスタッフで全ての患者を診るシフト制へ切り替えました。

藤井教授「難しい手術が多いので、10時間、長いのは15時間という手術もある。そういうのも代わりながら、午前はこっちやって、午後はこことか、こういうふうに分けてやるようにすることで負担を減らす。あとはなるべくこういうふうに休みをたくさん取れるようにして、男性もそうですし、女性も育休は絶対に取らせる」

こうした改革で、今年4月から始まった勤務医の時間外労働の上限規制も無理なくクリアしています。

しかし、消化器外科医の最大の不満は、仕事の多さや古い慣習に加えて、手術の高度な技術に対する手当てがなく、給与水準が低いことにあります。

藤井教授「よく見ると、済生会富山、あさひ~糸魚川と書いてある、あさひとか、まちなかとか(近隣病院への)アルバイトですよ。僕たちは大学病院の給料だけでは生活できません。僕もいっぱい行っている。僕であっても、教授でも。本来は、そんなことせずに大学病院の患者さんと手術に向き合うべきだと思う。あとは、研究をしたり医学の発展に。でもそれをやる時間が(十分では)ない」

7月、富山市で、藤井教授が中心となって開催した研究会。集まったのは、全国の消化器外科医です。

子育て中の女性も登壇し、家庭生活との両立のために必要な対策など、それぞれの現場から突っ込んだ提言がなされました。

藤井教授「ガラパゴスのように全く変化せずにきたのがこの医療業界。特に、外科業界だと思う。富山から少しでも消化器外科医をたくさん増やしていって、少なくとも富山県の医療はきちんと守れるようにしたい」

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