【「東日本大震災」から13年】震災で家を失った人が移り住んだ「災害公営住宅」 住民の暮らしを脅かす新たな課題に直面(宮城)
災害で家を失った人が移り住んだ「災害公営住宅」では、住民の暮らしを脅かす新たな課題に直面している。
震災後、宮城県内に1万5773戸が整備された「災害公営住宅」。
震災で被害を受けて住まいを失った1万1887世帯が入居している(2023年9月末時点)
仙台市宮城野区鶴ケ谷にある「災害公営住宅」に、1人で暮らす松谷幸男さん(71)。
松谷幸男さん(71)「ほとんど外食はないんだ。(自炊は)お金ないからだよ。お金あったら毎晩のみにいっているわ」
震災前は、仙台市内の一軒家を借りて家族と暮らしていた松谷さん。
地震の揺れで自宅は半壊。
みなし仮設住宅での暮らしを続けながら、2015年 仙台市宮城野区にある「災害公営住宅」に引っ越した。
松谷幸男さん(71)「いつ(会社が)倒産するか分からない時代になっちゃった。いつ職を失うか。今はいいけど、明日どうなるかわからない時代」
年金に加えて、タクシードライバーの仕事があり、収入は月16万円程度。
災害公営住宅で暮らして9年。
ある問題に直面している。
今年1月、松谷さんが訪れたのは仙台市が開いた住民説明会。
仙台市の担当職員
「こちらの金額から、年数をかけてこちらの家賃に近づく構成となっております」
仙台市では、「災害公営住宅」の完成後10年を過ぎると家賃減免の基準が変わり、松谷さんの場合は現在の家賃1万2000円が、再来年以降徐々に増額され2万3100円となることが説明された。
松谷幸男さん(71)「(家賃が)およそ倍。所得額が低いから(増額分の)1万1000円とか1万2000円が家計の割合としては非常に高い。困ります」
「災害公営住宅」の家賃が上がる理由は、国の補助に関係している。
国は、「災害公営住宅」の完成から6年目以降段階的に補助を引き下げ、10年目で補助を打ち切る。
宮城県内では2015年前後に多くの「災害公営住宅」が完成し、今後 家賃の増額が始まる被災者の増加が見込まれている。
今年1月。集まったのは、仙台市内の「災害公営住宅」に暮らす人たちで作る「住民の会」のメンバー。
仙台市宮城野区の「災害公営住宅」に暮らす松谷さんの姿もあった。
住民たちは、「家賃増額」のほかにも、震災当時は想定されていなかった新たな問題に直面している。
災害公営住宅の住民
「物価がどんどん上がっています。 正規で働いている会社員も、実質的な賃金は値下がりしている状況。年金も当然上がっていない」
「とにかく(震災前に)一戸建てに住んでいて、やっと家族みんなで住んだところに、(家賃が上がって)出ていけと言われているように感じる」
「住民の会」は、仙台市内およそ1700世帯のうち4割ほどで家賃が増額するうえ、物価高騰もあり年金収入だけで生計を立てている人などへの影響が大きいとして、仙台市に対して家賃の増額を抑えるよう要望した。
震災の課題を検証する研究者団体「みやぎ震災復興研究センター」の遠州尋美さんは、各自治体が被災者に寄り添った対応を検討すべきとしている。
みやぎ震災復興研究センター・遠州尋美事務局長
「(制度の見直しで)実際に家賃が上がる人がいる場合、自治体がどう配慮するかは大事。(国の支援が終わった後は)国も各自治体で判断していいと 言っているので、仙台市も暮らしが厳しい人の家賃が上がるのを改めようとするのはあっていいと思う」
一方、仙台市は10年で国の支援が終わる以上、「災害公営住宅」に暮らす被災者と一般の「市営住宅」に暮らす生活困窮者の家賃減免に差をつけることは「税の公平」の観点から難しいとしている。
「災害公営住宅」に暮らす松谷幸男さん(71)
「(震災で)苦労した人たちに対して、家賃が上がることがあってはならないと思う。だからモヤモヤする」
震災で家を失い、「終の住処」として入居した「災害公営住宅」。
住民それぞれの生活の課題や実情に寄り添った支援が、求められている。