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『経済的な貧困』に加え、深刻化する『関係性の貧困』 ホームレス支援を続ける男性の思い【高知】

2024年9月17日 18:59
『経済的な貧困』に加え、深刻化する『関係性の貧困』 ホームレス支援を続ける男性の思い【高知】
高知市で15年以上、ホームレスの支援などを続ける男性がいます。
男性は、経済的な貧困に加えて、家族や地域などとのつながりが希薄な「関係性の貧困」に苦しむ人が増えていると感じています。

毎月1回、高知市の繁華街を夜回りしてホームレスに声掛けや食べ物の支援をする男性がいます。
高知県立大学社会福祉学部の田中きよむ教授(61歳)です。

大量の本や資料に埋め尽くされた田中さんの研究室。専門は地域福祉や社会保障です。モットーは「地域のための研究者であること」。田中さんは滋賀県大津市出身。1993年から高知大学、2006年から県立大学で教鞭をとっています。

貧困問題と向き合う中で、田中さんは2008年からホームレスへの支援を開始。2010年にNPO法人「こうちネットホップ」を立ち上げ、自ら代表を務めています。
この日、田中さんは10年以上の付き合いになる男性を訪ねました。現在、男性は60代。若い頃は家業を手伝っていましたが次第に収入と支出のバランスが取れなくなり、家を出ました。しかし仕事に就けず、10年以上前から高知市で路上生活を送っています。

■男性
「お巡りさんは死ねいうがも平気で言うしよね、おらんなれ、消えろいうがも平気でずいぶんに言うてくれる」

■田中きよむ教授
「ホームレスというのもひとつの自己決定。それはつらいし、しんどいし、お腹はすくし、寒いし、色んなものが苦痛としてはともなっている。だから彼は決して楽ではないと言う。けれども彼は必ずしもそれをやめようとしていないし、生活保護の話ももちろんしているが乗ってこない。ですから我々としては彼がもしも本当に困ったとき、本当にSOSを発するときは、なんか知らんけど必ずしも悪いやつじゃなくて時々声をかけてくれよったな、時々食べもん持ってきてくれよったな、あいつにやったら声掛けたってもいいかな、ほんまにしんどいときはそういう関係だけは維持したい」

田中さんが夜回りに加え、おととし1月から新たに始めた取り組みがあります。
それはホームレスを一時保護する宿泊施設「ステップハウス」の活動です。

元アパートの2部屋を買い上げ、貧困やDVなどが原因で行き場を失くした人たちに避難場所を提供。今年3月末までに10代から70代までの26人が利用、28人から利用の相談がありました。
この日、1人の男性がステップハウスにやってきました。県外出身の30代の男性。家族との関係悪化が原因で実家を出て、その後ネットカフェなどで生活していました。

■男性
「自分がやり直すんだったら、こういうのを利用してやり直したら次につながるのかなと思って電話した。今完全に社会から孤立している状態なので社会復帰がどこかで出来れば」

田中さんがステップハウスの利用者として当初想定していたのは、夜回りで会うホームレスの人たちでした。
しかし…
利用者の多くは経済的な貧困に加えて、家族や地域とのつながりが希薄な「関係性の貧困」に苦しむ人たちでした。

■田中教授
「パートナーはいるけれども、そこに一緒に住みづらくなっているとか、親子関係でうまくいかなくなっているとか。家族の中で居場所を失ったり、地域の中で孤立する形で自分の居場所を求めてこちらに来られるということがあり、自分の心の居場所がない、そういう意味でのホームレスの方がこちらに来ている。明らかにハウスがない野宿生活の方だけではなく、ハウスはどこかにあるとしても、そこに自分の居場所がなくて心の居場所を求めてこちらに来られている。そういう広い捉え方でホームレスを見ていく必要がある」

そんな田中さんの活動の原点にあるのは、重度の心身障害を抱える子どもたちの支援活動に携わった研究者の父・昌人さんの言葉です。

■田中教授
「最も困難な状況にある人に光を当てるような研究者になりなさいと言われて。生活に困っている人や生きづらさを抱えている人とか、そういう人に対して少しでも寄り添えるような研究や教育をしていくということが研究教育者としての使命かな」

ひとりひとりに寄り添いたい。その思いをさらに強くしたのは田中さん自身の大きな変化がきっかけでした。

田中さんは6年前に結婚、現在5歳になる1人息子がいます。
自分が父親になってみて、人間は1人1人が違い、誰もが尊厳ある生き方を保証されるべきだという思いを強くしました。そのためにどうすれなよいのか模索は続きます。

ステップハウスを開設して2年半。ここを拠点に生活を再建できたという人もいます。元利用者の60代の男性です。服役をきっかけに、出所後戻る場所を失っていました。

■男性
「生まれたところにも家はあるが、住めない廃墟になって。親も施設に入っている状態。故郷の方には戻れず、心機一転、この知らない初めて来た高知で一からやり直すような形になった」

ステップハウスで田中さんから生活面での支援を受け、落ち着いて自分の将来を考えることができたと話す男性。
「人に感謝される存在になりたい」と現在、福祉関係の仕事をしながら防災士や介護福祉士をはじめ、様々な資格取得に精力的に励んでいます。

■男性
「自分の進むべき道、自分の行く道を意志あるところに道はあるというような、自分が目指すところの拠点となったところ。スタートにあそこがなければ、今の自分はないかもしれない」「(田中先生は)親以上の存在」

心の居場所をなくした人たちを地域とつなぐ田中さん。

■田中教授
「理想を言えば、我々がいなくても誰かが声をかけ、誰かが心配し、誰かが助け舟を出しながら、お互いにネットワークを作りながら困った人がいれば、それは自分もそういうふうになる可能性がある、そうしたときに自分はどうしてほしいのか、どういう地域であってほしいのか、そういう発想でみんなが考え行動するような地域社会、そんな地域社会が実現するというのがゴール」

「経済的な貧困」に加え、深刻化する「関係性の貧困」。生きづらさに苦しむ人に誰かが寄り添う社会を目指して田中さんの活動が続きます。
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