【浜名湖】クロダイ食害で壊滅的漁獲量の「アサリ」資源回復へ動物園が一役…そのユニークな取り組みとは(静岡)
これから旬を迎える「アサリ」ですが、2024年の浜名湖での漁獲量は、前の年の1%にも満たず壊滅的となっています。これは「クロダイ」による食害が一因となっているのですが、この「アサリ」の資源回復に、動物園が一役買うことに。ユニークな取り組みを取材しました。
浜名湖の特産品を販売する地元のスーパー。冬の味覚「カキ」に、今が旬の「ノリ」…ウナギのかば焼きなどが並びます。ところが、「アサリ」については…。
(よらっせYUTO 藤本 朱實さん)
「こちらが、きょう入荷したアサリになります」
Q.どちらから入荷した「アサリ」ですか?
「千葉からです」
浜名湖産ではなく“千葉産”の「アサリ」でした。買い物客からも「最近、浜名湖のアサリを見ない」という声が…。
(買い物客)
「ずっと買っていたんですけどね。なくなっちゃったもんでね。浜名湖のアサリだもんね。お味噌汁は」
Q,最近、買えない状況についてはどう思う?
「あまりいいもんじゃないね」
このスーパーでは、最後に浜名湖の「アサリ」が入荷したのは「1年近くも前」のことだといいます。
(よらっせYUTO 藤本 朱實さん)
「記録を見たら、2024年4月ごろに2キロほど入荷して、その前もずっと入荷していなかったので“1年ぐらいは入荷していない”のではないかと思います」「浜名湖のアサリは、この辺の人たちにとっては“なくてはならないもの”なので、本当に悲しい状態です」
「浜名漁協」によりますと、浜名湖の「アサリ」の漁獲量は、2009年に6000トンを超えましたが、その後、減少傾向に…。2021年には100トンまで落ち込み、2023年は363トンと持ち直しましたが、2024年は1トンにも満たない「わずか180キロ」。「浜名湖のアサリはほぼゼロ」という壊滅的な状態となっています。弁天島周辺で春の風物詩だった「観光潮干狩り」も、7年連続で中止となります。
なぜ、「アサリ」が激減しているのでしょうか?その要因の一つとみられるのが…。
(県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場 霜村 胤日人さん)
「浜名湖の水中映像になりますが、今、ちょうど“クロダイ”が砂に頭を突っ込んで、アサリを探し当てたところですね」
浜名湖に生息する「クロダイによる食害」です。「クロダイ」は一晩でどれぐらいの「アサリ」を食べるのか。県の研究施設が実験したところ…
(県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場 霜村 胤日人さん)
「水槽での実験ですと、このぐらいの大きなクロダイが一晩24時間でだいたい40~50個ぐらいのアサリを食べることが分かってきました」「想像よりも多いなという印象でした」
そこで、2024年11月から、県が企画し「アサリ」の資源回復のための“あるプロジェクト”が始まりました。地元の仲買業者で冷凍されていたのは“手のひらサイズに満たないクロダイ”です。ただ、この小さな「クロダイ」。調理して食べられるかというと…。
(海老仙 加茂 仙一郎 社長)
「やはり、なかなかこのサイズを料理に使うことは難しい。例えば、佃煮にするにしても」「たいても、なかなか柔らかくならない」
小さな「クロダイ」は商品価値がないため、漁業者は「網にかかっても浜名湖に戻している」といいます。
(海老仙 加茂 仙一郎 社長)
「水揚げしても、仲買業者も飲食店も“ほしくはないもの”なので、値段がつかない」「お金にならないからとってこない。とってこないから浜名湖の中にクロダイが多くなる」
その小さな「クロダイ」を乗せたトラックに同行させてもらうと…仲買業者が向かったのは「浜松市動物園」。搬入された「クロダイ」は約100キロ。月に1回ほど動物園が買い上げることで“商品価値をつくり、”漁業者や仲買業者にもメリットがある仕組みです。
(浜松市動物園 鈴木 英孝さん)
「率直にもったいないなと思いましたね。クロダイって、釣りやっている人はもちろん、結構おいしい食べ物というイメージがありましたので…」
一匹ずつ丁寧に、ヒレとトゲを取り除かれた小さな「クロダイ」。
(浜松市動物園 鈴木 英孝さん)
「お浜!お松!」
エサとして与えるのは…2頭のヒグマです。普段は「アジ」を食べていますが、動物園では、週2回、それぞれ1キロずつ「クロダイ」を与えています。
「クロダイ」の骨をかみ砕きながら、おいしそうに食べるヒグマたち。
(浜松市動物園 鈴木 英孝さん)
「味をどう感じているかはわからないですが、食べっぷりを見ると、好きなんだなというのはよくわかります」「動物園は動物を見て楽しんでいただく場所ではありますが、環境保全というのは、動物園も取り組んでいかないといけない部分ですし」「(クロダイが)有効的に活用されてとてもいいことだと思っているので、積極的に協力していきたいと思いますね」
浜松市動物園では、ツキノワグマにも、週2回「クロダイ」をエサとして与えています。ここでは160種類の動物を飼育していますが、今後は「ほかの肉食系動物にもクロダイを与えてみたい」と考えています。
この取り組みを企画した県の研究施設では、「浜名湖の恵みであるクロダイを駆除するのではなく、有効活用することにこだわった」といいます。
(県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場 霜村 胤日人さん)
「アサリが少ない状況なので、クロダイの数とアサリの量のバランスが少し崩れているのかなと。そこを、人間の手で少し整える必要があるのかなと考えています」「クロダイの利用を進めて、いつかアサリが昔のような姿になるべく近づけられるように、復活したらいいなと考えています」
「アサリ」を食べてしまい、増えすぎてしまっている「クロダイ」を小さいうちに減らし、動物のエサにするというユニークな取り組み。「アサリ」の資源回復へ。その足掛かりとなることが期待されています。